の言葉に軍の上層部は即座にグランド・スター行きの許可を出した。
余程があっても星から出ることが許されないに許可が出たのだ。
【ピエロ】の存在は、それだけ厄介であり消さなければならない証拠だ。
「、まだお前は何か隠しているだろ?」
小型宇宙船にて、護衛官兼運転手として乗っているガルルが尋ねる。
の外出許可を出すのに、あまりにも上の判断が迅速過ぎる。
一体【ピエロ】とは何なのか。
「隠すと言うより確証が無いから言って無いだけ。推測ならあるけど先入観を持つとピエロは捕まえられない」
「推測でも良いから話せ。俺だけを供に連れていく理由もだ」
どれだけピエロが脅威なのか。脅威ならば何故自分一人しか連れていかないのか。
ガララでさえ手におえず、も厄介だと言う相手に対して、援軍に自分だけと言うのは納得がいかない。
「知らない方がいい。知ると行動が不自然になってピエロにバレる」
「今後もそう言う相手が出る可能性があるなら俺も知っておく義務がある」
「いや、別に義務は無いけど…」
やけに喰いかかってくるなと嫌になるが、気になるものなのだろう。
後部座席のが少し考えて。
「まぁ…中途半端に【ピエロ】を認識しても混乱するだろうし話すよ。先に言うけど、ピエロは敵性宇宙人じゃない」
「なに?」
「『あの』グランド・スターに敵性宇宙人が入れる訳無いじゃん」
何せ『あの』ガララの監視下に置かれているのだ。
出入りこそ激しいが、あの場所はケロン軍人しか入れない。
「私は今回の件は【軍の誰かがピエロを使って兄者を失脚させる為】だと考えてる」
「ガララ大佐を?何故そんな事を!」
「そんなの『邪魔』だからしか無いじゃん。取り合えずピエロの雇い主は兄者が邪魔なんじゃない?私以上に」
「あの方以外にグランド・スターを纏める力のある軍人など…」
グランド・スターの規模は大きく重要拠点地でもある。
全てを管理仕切れるのは長く勤めているガララの実力があっての事だ。
「あのねぇ、兄者以外にも他にも有望な者はいる。上がつっかえてるから昇進出来ないのは沢山いるんだよ?」
随分兄を過大評価しているものだと、が溜息を付く。
人数が桁外れに多いケロン軍において、管理や指揮の立場に立ったら最後、相当が無ければそのポジションから降りる事は無い。
外に出て危険な侵略活動をしたくない者にとって、拠点管理官とは一番に安全で収入も安定するところなのだ。
「だが場所が場所だ。お前も分かっているだろう?」
「まぁそうだけど…」
グランド・スターは最重要拠点。
何が何でも潰されてはならない場所だ。
ガララはその実力と指揮官能力も含め、いざとなれば【グランド・スター】と言う部隊を率いて戦う事にもなっている。
その大人数を纏め上げて戦いに臨めるのは、今のところガララくらいだろう。
「上も兄者以外にグランド・スターを任せるつもりは無いらしい。だから失脚やスキャンダルは困るってさ」
「…身内にピエロ、か…」
「そ。ネズミの進化版みたいな。で、見つけ次第始末出来る権限は私しか持ってない」
特別死刑執行官。
のみに許されている、その場で即処刑が出来る権利。
「なっ!?だがそう言う者こそ軍法裁判に!!」
「ピエロは喋らない。それに軍法裁判に上げる明確な罪状も無いから処刑も出来ない。通常だと雇い主も見つけられない」
「それじゃあ…」
「だから私が出るんだ。裏は裏で片付けるのが当たり前。ピエロの存在が知られる事は良くない」
全てを見越した上で、しか出来ないという事だ。
「感づかれたら直ぐに逃げられる。見た目も行動も普通の軍人だから出て行っても気付けない。そして別のピエロを寄越すだけだから…」
一発で仕留める。
そうしなければ延々と鬼ごっこが続くだけだ。
「…厄介だな」
「言ったじゃん。『面倒臭い』って」
会話が終わる頃には、既にグランド・スターが見えていた。
「兄者、死んで欲しい」
単刀直入にがスバッ!と目の前に腰掛けるガララに言う。
グランド・スターに到着し、そのままガララの私室にやってきた。
そして大きな来客用ソファを挟んでいる。
「…ふむ、成る程な。『グランド・スターの何か』ではなく、『私自身』がターゲットか」
「しか無いと思ってる。解決案の中で一番は【兄者が今すぐ死ぬ事】。私の仕事は即終わる」
勿論誰も入らないようにと言いつけてあるし、この部屋の安全性はが確認済みだ。
はいつものように変装し、今日は一般軍人の格好だ。
肩書きは『ガルルの部下』。これならガララに会いに行こうが不自然は無い。
それにしても『もう少し言葉を選んだりしないのだろうか…』と、横のガルルが何故か心配になる。
何も第一声で『死んで欲しい』は無いだろう。
自分が弟のギロロにいきなりこんな事を当たり前のように言われたら、相当動揺するし慌てる。
「証拠が無いから全て兄者から聞いたのと調べた憶測だけどね。ウチが掴めない程のピエロなら逆にスカウトしたいよ」
カチャリと出された紅茶を飲みながらが「取り合えず死ね」と目で訴えかける。
だがそれに対抗するようにガララはいつも通りの笑みで「殺れるものなら?」と余裕だ。
正直、何だこの兄妹…と、ガルルは思わずにいられない。
「スカウトか。だが見つかれば、の話だろう?」
「その為に来た。コッチも部隊のプライドがある。それに兄者の失脚は上も困るから処刑許可も出てるし」
「もう処刑許可が降りたのか?殺すのは些か勿体無い気がするが…」
「同感。雇い主だけ殺してウチで飼い慣らすのがベストだけどね。代役とか手軽な死刑囚いない?」
「なんだ、星から連れてこなかったのか?」
「上がパニクって速攻追い出されたからそんな暇無かった。勿体無いよねやっぱ…」
あーあ…、と残念そうな表情の二人だが。
「…つまり今までにも裏IDを作り諜略課に入れた者がいる、と?」
「良さそうなら勧誘だけね〜。結局言う事聞かないから入れてはいないけど」
その言葉にガルルが貧血になりかけた。
入れていないなど信じられるはずが無い。
平然ととんでもない軍法違反をやっていた事になる。しかも軍内警察長自らが、だ。
「ガルル、今時そこまで忠義に厚いピエロもいない。能力が高くてもの部隊には入れんよ。の性格上な」
「うっさい。それより長話は不振だ。【ガルルが兄者に食われてる】なんて噂は聞きたくないからな」
の言葉にニッとガララが挑発的に笑う。
「生憎噂はすでに立っているが?」
「何を言っておられる!?」
これは明らかにがキれる。
ガルルが『そんな噂は無い!』と全力否定しながら止めに入ろうとしたが。
「…終わったら覚悟しとけ兄者。それにこれは私からの『大いなる借り』だと言う事を忘れるな」
「あぁ、今は【ピエロ抹殺】が先だ」
「今度こそ墓の準備をしておくことだな」
「お前の葬儀に出席する準備はしてある」
なんと喧嘩が始まらない。
仕事が先。私情は後。
これがこの兄妹のルールだ。
「ふぅ、兄者もなかなか手広いな…」
部屋を後にした二人の顔は相当HPを奪われていた。
取り合えず『最近囲っている者は?』と聞けば男の名前ばかりが出るわ出るわ。
言っておくがグランド・スターにはちゃんと女性もいる。なのに男ばかり。
そして当然ガルルも入っていた。
勿論堂々のランキングトップに。
「………」
ガルルにすれば知りたくも無いし、いつの間に・いつから・しかも勝手に囲いに入れられていたのか。
もうピエロがどうかよりも、ガララをどうにかしたい気分で一杯だ。
許されるなら今すぐ頭を撃ち抜きたい。
「ガルル中尉大丈夫ですよ!ガララ大佐もきっとご冗談ですし、何とかなりますから♪」
「そ、そうだろうか…」
は今は『自分の部下』。
なので当然敬語だし、若々しくいかにも入隊したてに振る舞う。
それがいつものとかけ離れ過ぎてガルルには怖くて仕方ない。
正直本当にこの大佐兄妹は怖かったり気持ち悪かったりで、あまり関わりたくないと改めて思わされる。
「えぇ、これが終われば中尉の頭痛も治りますv」
ニコやかに笑うが、つまり終われば恒例の見境無い大喧嘩が始まるという意味だ。
それはそれで十分に頭痛の原因だと分かっているのか…
だが今はそれ所じゃない。さっさとグランド・スターから出て行く為にもピエロを見つけなければ。
「それで。君はどうするつもりかね?」
「ここでは少々人がいますので、中尉のお部屋はありませんか?」
「確かに話し辛いしな…」
と言うことで、ガルルが使っている部屋に入る二人。
扉を閉めた途端に猛烈な脱力感に襲われていた。
「ねぇガルル…どうせこの部屋も兄者の計らいなんだろ?」
この部屋は結構良い作りだ。
だがアチコチの部隊の駐屯地でもあるこの場所に、個人執務部屋があるはずが無い。
普通は責任者と管理に携わる人間だけだ。
「もう名前を出さないでくれ…」
色々心のダメージを修復出来ないまま、ガルルは座り煙草に火を付ける。
いよいよ自分の尻の危機を真剣に考えなくてはならない事態だ。
「チッ、終わったら奴にはパイプカットの刑だ。それより益々ピエロが誰か分からん」
男にとってゾっ!とするような事を口走りながら、がバサッと書類を机に置く。
そこには現在グランド・スターを使っている部隊と構成員。そしてガララのお好み軍人にはピンクチェックが入っている。
「なんか兄者の好みが今一良く分からん。統一性が全く無いラインナップ…」
デスクに腰かけ同じく煙草を吸いながら、がきっと本人たちはピンクチェックされているなど知らない哀れなお好み軍人達を見る。
人数が多い上に外見も年齢も階級も全てバラバラだ。
「やっぱり性格かなぁ?ガルルみたいに弄りがいのある感じの」
「だから言うな!俺が殺したくなる!!」
「出来るならやれば?私が許す」
「っ…!!」
そう、出来るなら、許されるならとっくに殺している。
忍耐強いガルルでも、その位セクハラは受けてきた。
「話を戻す。兄者がピエロに気付かんとは思えん。ピンクチェックは外して問題は無いだろうから残りなんだけど…」
ガララからのデータを本部に送り、素性割りを頼みながらながらが考える。
ピンクチェック軍人がガルルのような性格ならば、まず【ピエロ】などと言う存在にはなれないはずだ。
逆に今回のピエロの質を考えれば可能性は相当高のだが、ガララはそもそも身の上話はしない。ガルルも聞いた事は無い。
自分の話を語る事がどれだけ自分を危険に晒すか。
階級が高い軍人こそ分かっている事だ。そこまで愚かでは無い。
取り合えずピンクチェックと残りを完全に分けて調べるしかない。
「この人数と出入りの激しい中から見つけろと?」
「そうなる。しかも今は外に出て定期的にここに来るだけかもしれない…」
莫大な人数が日々出入りしているのだ。
到底探し出すのは不可能では無いのか。
「…お前の部下達はどうだ?」
「ある程度は把握出来てるけど流石に『全員を調べろ』は無理。直ぐに新しい部隊がわんさか来ては出て行くんだから」
「打つ手無しか…。諜略部隊を全員連れてきた方が良かったんじゃないか?」
「可能ならしたよ。けど本部をガラ空きには出来ない」
が来た事だけでも奇跡的なのだ。
高望みは破滅を呼ぶ。
「…心配すんなガルル」
「なるだろうこの事態は。俺はデスクや内偵には向いていない。お前の足を引っ張るだけだ」
「いや?私の隠れ蓑として居るだけで十分だよ。それに打つ手はある」
がバサッとデスクから書類を投げ捨てる。
「『私』をナめんなよ?」
特殊軍内諜報略奪部隊の仕切っている隊長自らの出陣なのだ。
隊長である1人が部隊全員分の力と同等なのだから。
「直ぐに終わらせて、とにかく兄者をぶちのめしに行くぞ」
*とにかく殴りたくて仕方が無い課長(苦笑)