いつもは年中マッタリ休憩室のような第8課だが。
「別に逃げないから…」
「『前科』が無ければその言葉も信用に値しますがね」
今日はの周りに武装万全なガルル小隊。
●ペルソナクラッシュナンバーワン!●
今日の第8課の人口密度は異常とも言えた。
何せ普段はいても1人と言う部屋にガルル小隊が全員いるのだ。
しかも前後左右、男四人が『に対しての攻撃体制』で陣取っている。
そう、に攻撃を仕掛けると言う不思議な状況なのだ。
「…信用のカケラも無いのね私」
「だってちゃん、秒単位での直前逃亡だってやってのけるもの」
来客用ソファで1人、ノンビリ紅茶を啜るプルル。
勿論いつものビッグな注射器は横にあるので攻撃体制ではある。
「だって会いたくないもん。逃げれる隙を与えるソッチの手際の悪さでしょ〜?」
この非常にピリピリしている空気の中で、は溜め息と紫煙を吐きながら仕事をしていた。
とは言っても、やり難いことこの上ないので全く集中出来ずに進んでいないが。
「だからこそ今回は皆を引き連れてきました。絶対に会っていただきます」
「これだけの事に小隊まで使うなんてどうかしてるよガルル…」
「『何をしてでも』と、先方より命令が降りていますので」
は仕事の関係上、極力人とは会わない。
それが誰であろうと、自分より階級が上であろうと、軍の頂点である大元帥であろうが、会わない。
他人にスケジュールを崩されたく無いので、相手が誰でもアポ無し来訪は全部ブっちぎって来た。
理由は勿論、面倒臭いからだ。
その回数は全てガルルの惨敗記録と言える。
ガルルが何をどうしても、必ず『その時』になると消える。
「ったくもー、護衛官とその部下に囲まれて仕事なんかまともに出来るか」
「貴女なら出来ると思いますが?大佐」
ギラリと本気の目で睨み付けてくるガルル。そして隊長命令なので本気になるしかない3人。
プルルも『馬鹿ねぇ…』と思いながらも、誰か1人が突破された時の為にあえて少し離れている。
「…朝からずっと立ちっぱなしでしんどくない?」
「これも忍耐力の訓練と思えば特に何も」
「ガルルじゃなくてチビ二人」
タルルとトロロも立ちっぱなしだ。ゾルルは窓側の天井にいる。
朝からこの何をしでかすか分からないの一挙手一投足に緊張を走らせ続けているのだ。
よく頑張るな、と普段なら誉めてあげているところだが、今日は誉める訳がない。
邪魔なのだから。
「はぁ…なら仮説を立てよう」
そう言うとが付けていたモニターを全てスリープにした。
見られてはいけない情報を取り扱うのに、取り囲まれては仕事にならない。
「もし私が『正攻法』でこの包囲網を突破を試みたとする。どうやって私を止めるつもり?じゃあタルル」
「へ?!」
突然の、しかもガルルでは無く自分に飛んできたので変な声が出た。
それと同時に緊張感も軽減したのがよく分かる。
「そ、そりゃあ捕まえるしか無いスけど…」
「なら私が何か武器を持っていて、妨害者として攻撃に出たら?」
「あの、それは…一応オイラたちも攻撃許可は…」
「『私に対しての武力行使』は何を意味するか、分かってるよねタルル上等兵?トロロも」
「プッ…」
の言葉に二人は答えられない。
勿論上等兵、ましてや新兵などが理由はどうあれ【大佐】に攻撃など許される行為ではない。
真似でも、しようとした瞬間に上官への不敬罪が決定する。構えている今現在でも十分に軍罰に値するのだ。
しかもは軍内警察長。そして攻撃能力は未知数。過去の戦歴やガルルの惨敗記録を考えても相当強い。
もし大佐という階級を抜いたとしても、『いつでも掛かって来い』で血の気が多いのを散々見てきている。
立ち向かえば、死亡フラグしか立たない。
全部分かっているが隊長命令。
目の前にガルルがいるので背くわけにもいかない。
完全にタジろいている二人を確認して、が追撃を始める。
「分かってんだよねぇ?分かって私に朝からこんな事やってんだよね〜?」
にこにこ笑いながらが普段ガルルに向ける苛めが二人を襲う。
仕事の邪魔をされ続けた事を怒っていない筈がない。
「〜っ!!別にしたくてしてる訳じゃ無いスよ!!」
「そうダシ!隊長がやれって言うからダシ、第一向こうも【大佐】ダカラ!」
「おぉ、逆ギレか…」
「口車に乗るな。いつもの手口だ」
「けど課長は【諜略部隊長】なんスよ?!勝ち目0なのに!!」
は階級こそ【大佐】に甘んじているが、軍の最強裏部隊の隊長なのだ。
将官クラスにいても全くおかしくない力を持っている。
それを知っていて、それでも楯突く事が無謀なのだ。
「けど隊長命令だし下っ端だし。どの道やらなきゃいけないって事なのよ。ちゃん、あんまり二人を苛めないで?」
詰まらなそうなプルルの言葉にも同じテンションで返す。
「だったら今現在までの業務時間返してよ。ウチは暇じゃないんだ」
「それはコッチも同じ。逃げない確証が無いから私達もこんな下らない見張りやらされてるんだから」
「そっスよ!!毎回課長が逃げるからオイラ達まで駆り出されてるんスから!」
「何それ私が悪いみたいに。それに逃げれるのはガルルの爪の甘さなんだから自分の隊長を恨めよなぁ」
「今日でその逃亡記録も止めて見せる!!」
「ハイハイ…」
全く持って。
今日は全員が大損している厄日としか思えない。
「つーか、ちゃんと会うからみんなリラックスしてくんない?これ【上官命令】ね」
「ホントっスかぁ?」
「超マジだっつの。もう今日の業務は諦めた」
朝から見張られているので他の隊員達からの連絡も聞けない状況なのだ。
もし仕事をしようにも、やはり課の人間以外がこうも近いと上に挙げに行く事も出来ない。
「ガルル、このどーでもいい無駄な時間の謝罪を込めて、私を含めた全員に何か買ってきて。喉乾いた」
ガルルを見もしないでシッシと追い払うだが。
「それを信じる事が出来たら、私もこんな下らん事に時間を使いたくは無いのですがね」
の逃亡を何度も許しているガルルが聞き入れる筈がない。
その様子に『あ、下らないって分かってたんだ…』とその場の全員がげんなりと視線を寄越す。
「しかも本日は【ガララ大佐】。貴女が私情を挟んで一番会いたくない相手です。余計に信用など無理な話」
「まぁね…」
の眉間に皺が深く刻まれる。
そう、今日ガルル小隊を使ってまでとの面会を申し出ているのは。
「兄者だし…」
グランド・スター最高責任者であり、ガルル争奪戦の敵対相手でもある兄のガララだ。
「アイツだって絶対に会いたく無いはずなのに『何で?』って話じゃん」
仲の悪さが尋常では無いこの兄妹。
兄のガララが休暇で星に戻っても顔も合わせない。公式式典など公の場以外で出会えば途端に喧嘩勃発。
その間に交わす言葉は『死ね』・『帰れ』・『天に召されろ』の3つしか聞いた事が無い。
個々の能力は非常に高く素晴らしく仕事もきちんとこなすのに。
何故か喧嘩だけは見境無く本気で遣り出すので被害が毎回とんでもない事になっているのだ。
上層部も若干頭の痛い、非常に【混ぜては危険】な兄妹である。
「しかもグランド・スターから連絡すればいいのに。直接会いにって変」
「ココ(第8課)とグランド・スターはお二人が私情で通信一切を遮断しているので。私が一々呼ばれて行ってきたんです」
「んでこうやって『勝手に人のガルルを使う』ってマジ何様なんだよ。ガルルも身持ち固くしてくんないと困るんだけど?」
「何の心配だ!?」
の言葉についにガルルもブチっ!と来た。
何が悲しくてあんな長距離を10秒にも満たない命令の為に行かなければならないのか。
繋がらないのはだけで残りは使えるにも関わらず、『極秘任務』と遠路遥々直接呼び出され。
その極秘任務の内容は【との謁見の場を作れ】とたったそれだけ。
残りはセクハラしか待ち受けていなかった。
「言っておくが俺が一番の被害者だ!お前達二人の間に勝手に挟まれて!!」
「ガルル煩い…。だからちゃんと会うって。おかしいから」
「何がなんでも会わせる!今回のミッションは必ず達成させんと俺の怒りのぶつけ所が無いからな!!」
「もー、分ぁかったから。プル姐、この紫の君に鎮痛剤か麻酔かモルヒネ頼むわ」
「別に打ってもいいけどガララ大佐がいらっしゃった時に隊長が起きてないと煩くない?」
「あ〜…。つかもう兄者の存在が面倒臭い…」
ガルルがキれたおかげですっかり空気のだらけた中、の頭の中だけは冷静だった。
確かに通信一切を封じてはいる。だからこそ部下を数名潜り込ませてもいる。
主な任務は遠方侵略部隊中継母艦であり『やらかし率』の一番多いグランド・スターの内偵だが、ならば兄に何かあったかも伝えてくるはずだ。
何せ会いたくもないのだから、弱味を握っておくに限る。
だが、それが一切無い。
その上ガルル小隊を使うなんて目立つ事をしてまで自分に会いに来るなど、本来なら【無い事】だ。
部下を疑う事は無いが、精鋭アサシンでも掴めない『何か』を持ってくる事になる。
今すぐその確認をしたいが、ガルル小隊が邪魔でやり辛い。
諜略課にはが無断で勝手に作った改良アイテムが多いので、見られると量産されるから嫌なのだ。
「…奴自身が何かやったのか…?」
考えたところで何も分からないが。
取り合えず。
「みんな、兄者が来たら双方羽交い締めで頼むわ。一発目さえ塞がれたらもう抑えられるから」
顔を見た瞬間に殴りかからないように。
*ついに大佐兄妹が揃います(笑)