ケロン軍本部では。
2ヶ月に一度、女性達の為にデザートフェスタが開催される。
相変わらず平和丸出しな軍本部だ。
●課長、休んでください!●
「えっ!ちゃん、もう1ヶ月もアウターに出てないの!?」
「ん〜、1月半くらいかなぁ?」
信じられない…、とプルルが持っていたカップを落としそうになった。
場所はテリトリーの参謀本部、第2部第8課。
最近中々食事に誘っても出てこず、今回はデザートフェスタにも来れないとなり。
あまりにも出て来ないの為にプルルが今回のデザフェ商品を全部持ち込んで来たのだ。
「大佐!一応コレで今回のデザフェは全種類コンプっスよ!!」
勿論自分で運ぶはずも無く、タルルを何往復もパシらせて、だが。
「何かごめんねタルル?プル姐もそんなに気ぃ使わなくていいのに」
「使いたくもなります!タルちゃんありがとね?」
「また何か隊長へのスッゲー悪戯話、期待してるんで♪」
「おー、期待に添えるように頑張って仕掛けるよー」
の言葉にへへっ♪と笑いながらタルルは部屋を後にした。
「タルル…あんなにイイ笑顔を私に向けるなんて。…いい度胸だ…」
「ホントに純粋で可愛いし…苛め抜きたくなるわよねぇ」
フフッと怪しく笑うSな二人の顔を見なくて正解だ。
いつかタルルもガルル並みの餌食になる日が来るに違いない。
「まぁタルちゃんの話より今日はちゃんよ!」
「ちょっ、フォークコッチ向けないで怖いから。つか私の話って何?デザート全コンプされても食い切れんし」
「デザートは差し入れ。ありがたく受け取りなさい!」
「ん、みんなに言っとく。みんなも随分行けてないだろうし喜ぶと思うから」
の言葉にはぁ、とプルルが溜め息を付く。
「全く…どんだけ忙しいのよココ。今日も課の人、一人も見ないし…」
「いっつもこんなもんだよ?今はちょっと詰めてるから余計に見ないだけで」
「でも1月半も缶詰なんて…」
「毎日部屋にはちゃんと帰ってるさ」
ケロン軍では、軍敷地内ではなく一般人の生活区域をアウター(外)と呼んでいる。
軍人はそれぞれ階級に見合う部屋が用意されており、事務員は毎日アウターから来るシステムだ。
別段軍に隔離などされる訳も無く、寮や宿舎にも勿論消灯時間など設けられていない。
各人、時間があれば好きなように外に出て休暇やショッピングなどをしてもいい。全くの自由だ。
「ちゃん…」
「ん〜?あ、ヤベ。コレ美味しい」
そして元々アウターに行く事は推奨されている。
軍内に箱詰めなど確実にメンタル面に支障が出るからだ。
なので仕事が重ならないなら最低でも二週間に一度は散歩でも良いから1時間は出ろと義務付けられているくらいなのに。
「行くわよアウター」
「はいっ?」
1ヶ月半も出ていないと言う事は。
は既に4回もその軍規定を破っている。
「ちょっ、無理だって。今ちょっと佳境だから」
「軍務規定!!あと看護長としてもよ!」
「えー…んな事言ったって、ウチは毎日任務中なんだから破ってないよ」
「そんな屁理屈許しません!大体、そんなんじゃ化粧品とか服はどうしてるの?」
「調査でアウターに行く人についでに買ってきて貰ってる。通販とか。流石にお洒落までは捨ててないよ?」
「自分で行きなさいよ大人なんだから!!」
「いや、私って迂濶にアウター行けない…って言うか何でプル姐が怒るの?引き籠りなのは仕事のせいなのに理不尽じゃん」
ムスっと膨れッ面になってしまった。
確かにの言うことは全て正しい。叱られる言われは無い。
仕事の関係でいつ何処で何の情報が来るか分からない。突然来るから離れるのも難しいのだ。
の立場は軍内警察長。休暇なんて無きに等しい。
今こうやって会話をしている中でもの片手はパソコンを放さないのだから。
「プル姐がさ、心配してくれるだけで超嬉しいんだよ?」
「ちゃん…」
「ご飯も最近断り気味で悪いと思ってる。そりゃデザフェだって行きたいしアウターで買い物もしたいさ」
「………」
「でも私がデスクから離れる事は任務放棄にあたるんだ。私が一番やっちゃ駄目でしょ?」
苦笑するがプルルには痛々しい。
仕事にストイック過ぎるのだ。
無理矢理にでもアウターに引っ張り出すつもりだったが、本人の立場がある。
「ねぇ、ちゃん…ウチの隊長は何か言わないの?」
「ガルル?もー、マジで超煩いよ。『だったらお前が変わりにやってよ』って感じ」
「部下の人たちは?」
「私は皆と違って身体能力はそこいらの一般軍人だしね。結構気ぃ使わせちゃってるのは自覚してる」
の部下達は調査や任務の名の元、アチコチ外に行くのでまだ平気だろうが。
はこの部屋から出ることが出来ない。精々出られて敷地内までだ。
元々アクティブな性格なのをプルルは知っている。
「ちゃん。私とウチの隊長の力で何とかするわ」
「だから無理だってさっきから言ってんじゃん」
いい加減しつこいと流石のも手が止まる。
だが。
「上には隊長から【過剰激務により】って言って、私からは【精神衛生上】で通るわよ。簡単じゃない♪」
「いや、だから。私も立場ってもんがね?他の皆は走り回ってもっとしんどいんだから」
「ちゃんよく聞きなさい!!」
ズビシィ!っとフォークを向けてくるプルル。
いつもの注射器並の凶器だ。
そして目が半端無く怖い。
「部下の皆に聞いてみなさい。ちゃんが頑張りすぎるから皆も休めないの。皆はちゃんの体を心配してるわけ!」
「んー、ソレはぁ…」
の目が泳ぐ。
流石に1ヶ月を越えたあたりから、部下達からそう言う雰囲気は痛い程感じている。
忙しくない普段でも心配オーラを出されるのだ。それが今回は一ヶ月半の長丁場。のスルースキルでも無理が出始めている。
連絡や顔を合わせる度に「休みましたか?」「寝ましたか?」の嵐なのだ。
「ほーらそんな顔してぇ!心当たりあるんでしょ?全く、【最強の調略部隊長】が聞いて呆れるわよ」
「だって…」
「だってじゃないから」
ズッパリ切ってくるプルルが何だか随分怖い。
はこの事について言われるのは想定内だが、この圧力は完全に外だ。
今日はどうやら流しきれそうに無い。
「あー、はいはい。じゃあもし仮にアウターに出てる間に緊急事態が起きたら?」
これはガルルよりも大変だと、何とか応戦を試みてみる。
だが。
「フン、1日くらい起きないわよ」
鼻で笑われた。
いよいよ逃げ場は無くなって来た。
「覚悟なさい?お姉さん、可愛いちゃんの為に今回は本気よ?」
自信たっぷりと生足と爆乳を見せるプルルの本気は【絶対】だ。
分かっているもそろそろ腹をくくり始める。
本気のプルルに抵抗しても無駄なのだ。
「……。課のみんなに…私から言うの嫌だし…」
「任せなさいって。私が【嫌でもアウターに出なきゃいけない診断書】を出してあげるわ」
これが衛生局・看護長様の強みだ。
もう諦めるしかない。
「そんな病気知らないし…変な病名付けないでよ?」
「大丈夫!絶対私と遊んで貰うから!!」
いつの間にか勝手にプルルの願望も上乗せ状態だ。
こうなったらもう。
最強を誇るでも、流れに身を任せるしかない。
「プル姐…その気合いどっから出てんの?マジ半日とかでいいからね?」
「嫌よ。1日はしっかり休んで貰うからね?」
こうして次の日。
「え、何コレ…」
の部屋に衛生局から、プルルの圧力により書かれたとしか思えない聞いたことも無い病名の診断書が届き。
本部からはガルルが何を言ったのか、【強制休暇】を申し付けられた。
過保護な歳上二人の迅速過ぎる処置によって、は強制的に2日間軍敷地内には部屋以外に出れなくなってしまった。
ちなみにこの手早さと見事な職権濫用にが辟易したのは言うまでもない。
「ったく何なんだあの二人…トロロじゃないけど子ども扱いすんなよなぁ…」
嫌な脱力感に襲われながらベットに戻ったらケータイが鳴った。
プルルからだ。
『ちゃーん♪課の皆さんに話したら「やっと課長が休んでくれるんですね!」って喜んでたわよ?』
「あーそーですかぁ…それってどういう意味で私は捉えたらいいわけ?」
『隊長が心配だったって意味に決まってんでしょうが!「ゆっくり休んで遊んできてください」だってw』
「え、遊ぶって何で知ってんの?」
『私が喋ったから』
「そこは黙ろうよ…」
『せっかく2日休みなんだし、1泊2日で温泉行きましょ!いい部屋見つけてるから!!』
「はぁ?!ちょっ、買い物だけじゃっ!」
プルルの言葉に慌ててが声を荒げるが。
『言ったでしょ?お姉さん、本気だって』
電話の向こうでプルルが怪しく笑うさまが脳裏に嫌でも浮かんだ。
『じゃあ温泉決めてるからv時間はメールするからまた後で♪』
一方的に掛けて一方的に切って。
精神面安全のためのアウターの癖に、何故か余計に疲れそうな気がしてならなかった。