時が解決する

 

 

…何言ってるの?

 

 

 

 

いつまで寝惚けているおつもりかしら?

 

 

 

 

 

 

Despair Worrying Producer〜 Z

 

 

 

 

 



秘密基地が本部のように環境がどれほど整っているのか分からない。
本部では電子系統に支障が出ないように塵1つ無いが、ここのマシン関係や配線は清潔に保たれているのか。
ほんの少しのミスがキララの脳を吹き飛ばし、頭の無い無残な死体にさせる。

「ったく、心配するなら私の方をしろっつの。この中で死亡率があるの私だけだぞ?あー、それとまだ私の【ジグソウ】を開けるまで1時間以上かかるから作業に移れないんでそこんトコ宜しく。って事で…」

今まで低かった声が最後の一言でいきなりトーンが明るくなった。
表情もケロっとした顔に変わっている。何事かと思ったら。


  「宇宙船狭くて疲れたから、休憩したい」
  「は?」


キララがこれまた突然全く予想外の所から切り込んで来た。

「日向夏美」
「はひ!!わわっ私ですか!?」

突然ヤンキーに声を掛けられて、夏美の声が裏返る。だがキララはお構い無しだ。

「ここって煙草吸っていい?あとお茶欲しいんだけど頼める?」

そう言いながらも既に煙草を取り出している。
チェーンスモーカーなキララにとって船内での禁煙は相当辛かった。

「あ…どうぞ!お茶ですね!直ぐ用意します!!」
「悪いね。んじゃちょっと庭借りるよ。ギロロ、テント片してマジ邪魔」
「ぬあっ?!」

 

言ったと同時にギロロのテントはキララにブチ蹴られ、たった一発でバキボキになり庭の隅で一生を終えた。
あまりに普通の顔での傍若無人にまた全員が硬直しそうになった時。

 

「よいしょっと」
「オイっ!?」


キララが突然ガルルの次元空間に背後から手を突っ込んだ。
ちなみにプルルは冬樹の耳を塞ぎタママはケロロに耳を塞がれている。夏美はお茶を淹れに行きキッチンだから大丈夫だ。
別段全くエロくは無いのだが、あまり教育上良いとも言えない事がこれから始まる。

「何だいきなり!!」
「ガルルさぁ、もっと中身整理しとけよ…せめてお前の物と私の場所をカテゴリー分けするとか。ガサツな男って嫌われるんだぜ?」
「元は俺のもので勝手にお前が入れ始めたんだろう!っコラ!あまり探るな!!」
「ったくウブな反応を毎回ありがとう。顔赤くすんなよ、弟クンがガン見してますけどー?」
「〜っ!!??」

背後から明らかにニヤニヤしているだろうキララの声にガルルが焦る。
ギロロは他人の次元空間に手を入れるなんて出来る事を今初めて知った。そしていつもの澄ました顔を真っ赤にして焦る兄とのダブルパンチでかなり驚いている。
そもそもガルルがこうも他人に遊ばれて怒鳴る姿を見たことも無い。しかも年下の女性にだ。ちなみに自分も夏美からほぼ同じような状態である事は棚上げだ。

「ギロロ見るな!他所を向いていろっ!!」
「ギロロ以外には言わねぇのかお前…。てか何かギロロに反応無いなぁ?あ、突っ込まれた事無いなら私がいっちょ初めてを…」
「止めろ!!ギロロ逃げろ!絶対に逃げ切れ!!キララに捕まったら全てが終わる!!!」

そう、キララに捕まったせいでガルルは殆ど全てが終わっている。
必死にギロロを庇うガルルに、ますますキララの表情が悪くなっていく。嫌がられるほど悪戯魂に火が付くと言うものだ。

「はぁ〜ん?突っ込まれた状態で弟の心配?余裕じゃんガルル」
「うぁっ!!??」

キララの両手が一気に奥まで入ると、ガルルの身体もビクっ!と跳ねる。
次元空間は自分の身体とシンクロしているので、これがまた何ともいえない感触なのだ。

「イェ〜イ、ガルルのエロボイスゲットー。やっぱ合成ボイスより生だよなぁ。コレで音MAD作って今度本部の昼休で流そ。やっぱベタに
H行っとく?」

そんな事をされた日には、二度と軍内を歩けない。


「こんのぉおお!!そんなに俺を本部から追い出したいのか!?」
「はぁ?ただのお遊びじゃん。これにギロロの声も入れて【軍人兄弟の生エロボイス音MAD】とか…。…うわヤベー、超売れるわ…」

●キヲとジョー●のエロボイス音MADだ。
確かに売れる。絶対に売れる。

「おーまーえーはぁ!!ギロロの次元空間にまで手を出すなら本気で容赦せんぞ!?」
「ほぉ。何する気か是非とも聞きたいねぇ?てか【ギロロ自身】には手ぇ出しても良い訳だ?私としてはソッチ方が楽勝なんですけど宜しくて?」

ギラッ!と獲物を見つけた目でギロロを見るキララ。
墓穴を掘って血の気が引くガルル。

「−っクソ!!この場から早く逃げるんだギロロっ!!キララは本気でやるぞ!?俺もお前を守りきれん!!!」
「この状態じゃあねぇ?ふはははははっ!!無様なりガルル!!!!!」

歯軋りをしながら本当に悔しそうだが、盛大に高笑いをするキララの方が何十倍も上手だ。
振り解こうにも既にガッシリ背中に圧し掛かられいる上に、いつの間にか足も固められて動けない。
それに、もしこの状態で次元空間内で乱射されたらそれこそ堪った物ではない。確実に死ぬ。
ちなみに毎日本部での2人はこんな感じだ。時にはガルル小隊が丸ごと悲惨な状態に陥る。たまに第8課にガルル小隊が無残に転がっている理由はコレだ。


「あーあー、全く。ガルルも分かって無いよねぇ?そうやって弄りがいが有るからこっちも余計に仕掛けたくなるんじゃん。学習能力マジ無くね?昔より放任にしたからってマシになるとか本気で思ってんの?そもそもガルルって私に対しての沸点が低すぎるんだよ。普段は盆栽みたいな癖に」
「誰が盆栽だ!!普通はこんな事をされれば誰でも抵抗するだろうが!?さっさと目当てのものを見つけろ!!」
「うっせ、探してんだよ。マジで兄弟揃って次元空間のヴァージンロストるぞ。私の最強レジェンドに書き加えて後世まで語り継いでやろうか?」
「その言い回しを止めろと何度言わせるつもりだ!?ギロロ動け!!今のキララは敵だ!!小隊もだ!!撃ち殺して全く構わん!!上官命令だ!!」
「何テンパッてんの?私はその【お前の上官】だっつに。助けを求める方角違くね?」

チラッとキララがプルルを見る。つられて全員がプルルの方を見るが。


  「プルルに頼むつもりは無い!!」
  「あ、別に私も隊長を助けるつもりなんか微塵も無いんで」


今現在、キララを唯一止められる人物はプルルだ。だが目下その2人の関係は非常に悪い。原因はキララの悪戯に一緒になって悪乗りする事が多いからだ。
そのやり取りに『相変わらず仲が悪いな』と、キララが拭き出しそうになる。

「そら、ギロロどうだ?この完璧な兄の意外な陵辱姿。こんな顔させられんのは軍でも私くらいだぜ?」

どこまでも漢らしくニヤニヤ誘うキララ。青くなったり赤くなったり忙しいガルル。呆れて見ているプルル。
動けと言われても、ギロロは相当前からとっくにキャパオーバーで固まってしまい動けない。実兄のエロ顔を見せられてどうしろと言うのだ。
ケロロ小隊一同も同じくガルルの信じられない姿とキララのあまりの漢らしさに動けない。
正直に言えば、助けに行けば絶対に同じくガルルと同じ目に合わされそうなので動きたくない。犠牲は1人で良いはずだ。

「ギロロに話しかけるな!本当にお前は『女の品位』と言うものを何処に捨ててきた!?さっさと拾って来い!!」
「持ってるけど今は使わない。【大佐モード】の時の私のパーペキ具合を知ってんだろ?」
「ならっ、うあ!!っく、何故それをいつも引っ込めるんだ!!!」
「アホか。お前と違って私って『完璧』を続けると疲れるんだよ。全く…兄はショタ専ブラコンで弟はロリコンの癖に妙なトコお堅いんだから。何かショタ専である為の、それなりの譲れない何かでもある訳?」
「キララちゃん、そろそろ突付くとギロロ君が壊れそうだから真面目に探してね。凄く不気味よー」
「ショタもロリもツッコミ無しか。いや、最初から相当真面目に探してんだってば。でもガルル面白いんだもん!見られてる方がイイなんてねぇ?やぁだぁエッチぃ!!」

ケラケラ笑っているキララの腕は、当然次元空間に入っている分だけ消えている。
ガサゴソと無遠慮にかき回しているようだが、正直外から見ているともの凄く気味が悪い。

「つーか…ん〜?ちょっとマジで迷子じゃん。何処行ったんだ?」

ついに顔まで突っ込んで探し始めた。
上半身が消えてもはや完全に幽霊だ。

「星を出る時に無理やり大量に突っ込んだのはお前だ!何を出すのか言えば出すと毎回言ってるだろうが!!」
「本部が私のを返してくれ無いのが腹立つからこの嫌がらせを止めるつもりは無い。嫌なら上層部に【キララ大佐の次元空間を返してあげて下さい!】って切に願った嘆願書を大量に集めて出してよ。私は書かないけど」
「嘆願書は自分で書くものだ!それにお前に返したらケロンが滅ぶ事くらいは流石に上も分かっている!と言うか、そんなもの勝手にファンクラブにでも頼め!!」

怒鳴るガルルと下半身だけのキララの会話に流石に周りもヒいている。
こんな気持ち悪い獅子舞だかケンタウルスだか良く分からない生き物を見ていて気分が良い筈も無い。

「キララちゃん、いい加減隊長で遊んでないで早く出てきなさいってば。冬樹君の顔真っ青よ?」
「だって『実体化ペン・キララ様スペシャル』が…。改造してたら何かの間違いで超すっげー感じになったのよ!」
「今のみんなのヒき具合より凄いものは多分無いわよ…」
「マジでぇ?まぁ別にどうでもいいけど……あーもー、見つかんねーや。折角プル姐に自慢しようと思ったのに。ガルル後で出して。オイ北城睦実居るか!?」
「はい何ですかっ!?」

突然ケンタウルスの後ろ足に話しかけられて流石に睦実もビビる。
そしてようやくスポッとキララが出てきた。目的のものが見つからず顔は不機嫌だ。【ヤンキー】以外の言葉が見当たらない。

「椅子3つと机描いて。公園のベンチ風。座りたい」
「は、はぃ…」

怯えながらも取り敢えず言われた通り、睦実は自己最高速のスピードで庭に机と椅子を描き出した。
キララの我が侭が炸裂中だが、まだ変身やキャラ違いやケンタウルスもどきやら。とにかく色んな衝撃が残っていて殆ど全員が上手く頭が働いていない。
この【自分が一番!俺様キララ様】の我が侭に付いて行けるガルルとプルルは本当に凄いのだ。
本部は完全にキララをこの2人に押し付けている。


 


「ありがと。はぁ、やっと楽に座れる…コレ終わったら絶対マッサージ行こ。あの宇宙船駄目だわ…」

愚痴りながらも椅子に座り美味しそうに紫煙を吐き出すキララ。

その様子にガルルも煙草を取り出す。散々キララに弄ばれてかなり疲れていた。
話は【クルルの治療】から完全に脱線しているが、煙草休憩の間は仕事の話をしないのが暗黙ルールだ。

「駄目って言ってもアレ、キララちゃんが設計改造したんでしょ?」
「いやー、あんなもん『自分が乗らない前提』に決まってるから速度重視とちょっと嫌がらせに狭めに作ったのね?二人乗りで成人男性にはちょっと窮屈な感じで。どうせあんなの使わない飾りだと思ってさぁ…・。そしたらさまさかの自分に跳ね返ってきたから…」

ムスーっと眉間に皺を寄せるキララ。
まさか他人への悪戯が自分に返って来ると思っていなかったので相当悔しいらしい。

「お前はまだ女だから多少平気だっただろう。運転する俺の方が狭くて足が痛いわ背凭れ蹴っ飛ばされるわで散々だ」
「狭いのによく暴れるわねぇ…。どうせグランド・スターへの連絡の時でしょ?」
「あそこのダラけ具合半端ネェよ!兄者寝てるしマジ頭来た!!ホンッとムカつく!!!」
「狭い癖に場所を問わず叫ぶ喚く暴れる。逆に広めに作ってあったら船が壊れて俺達は今頃ここに居ない…」
「いつも通り隊長って巻き込まれ損ですよね…。キララちゃん、船内で暴れるのは禁止でしょ?あと運転手を蹴っ飛ばすのも」
「蹴飛ばしたのは背凭れ!流石にガルル自身は蹴ってないですー!」

どうだ偉いだろう?と言わんばかりのキララの表情だが。

「その背凭れ蹴りも十分痛かったがな…二度も蹴飛ばし事故らず無事に到着出来た俺の運転テクに感謝しろ」
「そんなに強く蹴ってないもんね貧弱!」
「お前が力加減を知らんだけだ!!船を壊すつもりかと本気で思ったんだぞ!!」
「煩い!!女からの攻撃くらい男は黙って耐えやがれ!小姑かテメェ!!」

1本が灰になるのが休憩の終わりの合図だ。
キララが周りを見渡す。

「今から大人の会議だから邪魔すんなよー!!」
「秘密基地まで我慢出来んのかお前は…」
「そーゆー意味じゃない。だって空見なよ。自然な夕暮れに不思議な色だよ?ケロンには無い」

ケロンでは気象マシンが無ければ絶対に見られない、燃える様な赤と薄紫のグラデーション。

その美しさをしっかりと瞳に、視神経に、記憶回路に焼き付ける。
ここには当たり前のように【自然】が有るのだ。

「ほれガルルはノーパソ出して。プル姐は報告」
「ハイハイ。これよ」

変わりなく次の煙草に火をつける姿は、本当にそこいらのヤンキーと変わらない。
まさかこれが【キララの通常勤務体制】だと知ったら、夏美達はケロン軍をどう思うやら。
キララがガルルの次元空間から出したPCを起動する。そこにプルルからのデータを入力し、同時にグラフィックモニターを複数現れる。

「…んで日向夏美。話しかけ辛くて悪かった。お茶ありがと」
「えっ?ヤダ夏美ちゃんごめんなさい!!」
「あ、いえ…」

夏美はずっとお茶を淹れてタイミングを見ていたが、どうにも会話に入りにくく立ちっぱなしだった。
ちなみに先ほどの幽霊騒ぎは見てはいないが聞こえていた。その場にいなくて助かったと心から思っている。
何せ冬樹の顔がまだ青い。会話内容以上の、何かとんでもない物を見てしまったに違いない。

「どうぞ、粗茶ですが…」

三人の会話は全く分からない上に区切りも無く延々と続く状態だったが、それも終わりようやくお盆を置く事が出来た。
そして即座にキララがお茶に手を伸ばす。相変わらずモニターを見ながら良く正確に物が取れるものだ。

「…ん?これ紅茶だ…しかも美味い…」

モニターから視線を紅茶に移し、不思議そうな顔をしながらチビチビと紅茶を飲むキララ。
その様子に夏美も不思議な気分になる。

もしかして紅茶に煩いのだろうか?

「夏美ちゃん」

それに気付いたプルルが夏美に笑いかける。

「キララちゃん、フレーバーがキツいもの大嫌いなのよ。だから紅茶も基本的に好きじゃないんだけど、アレは気に入ったみたい」
「そ、そうなんだ…良かったぁ…」

気分を害して何かされるかと思っていたので心底ホッとした。

「しかもモニターから視線を外すなんて相当よ?やっぱり夏美ちゃんの淹れる紅茶は格別みたいね」

「そ、そんなに褒められるとっ」
「ヤバイ、コレ本当に美味しいぞ。…ねぇ日向夏美、コレって持って帰れる?淹れ方とかなんかこだわりあんの?」

突然の興味津々な表情に夏美が焦る。
モニターから、ましてやそのまま相手の表情まで見るのだから相当気に入ったのだろう。

「あ、いえ!そんなに難しいブレンドじゃないですから!」
「コレは課のみんなに絶対自慢しないと…。…よし、小隊メンバーカム!!」

パチン!とキララが楽しそうに指を鳴らす。
それと同時に4人がザッ!とキララの前に並ぶ。

「お前達もコッチが終わるまで暇だし居心地悪いだろ?そこでだ、1つ命令を出そうじゃないか」
「ゲ、ゲロォ…キララ殿の楽しそうな命令ってヤな予感しかしないであります…」
「オーケー、聞えないように言う気が無いなんていい度胸だケロロ。さっきのガルルなんて目じゃない命令をご所望のようだな?」
「すいませんでしたああぁぁあああ!!!」

ここでキララが立ち上がりガッ!と片足を椅子に置いて腕組みをする。
なんだか知らないがもの凄く勝ち誇った表情だ。

「お前達は今から地球の美味しい【お勧めグルメ】を探してこい。勿論今の日向夏美の紅茶のように売っているものではなく『個人の手作り』が条件だ!良いもの見つけたらこのキララ様が特別に小隊一同にクルルの弱点を教えてつかわそうじゃないか!!」

ドドンっ!!と背景に日本海の荒波が見えそうなキララ。まるで何処かの殿様だ。
だがこれは凄い事だ。何せあのクルルの弱点!!!

「ゲロマジすか?!」
「クルル先輩に弱点とかあったですかぁ?!」
「マジも大マジ。ちなみに『アンゴル族のお嬢さん』ではない私だけが知ってる弱点だ。最低ラインは『この紅茶』。しっかり超えるものを持って来いよ?ちなみに私は相当グルメだからソコを忘れんな」

これでもキララはケロンの超大富豪のお嬢様だ。(地球で言う西澤邸並)
普段は10秒メシの癖に、舌の肥え具合は半端ではない。

「つまりはキララ殿がまだ出会った事の無い、庶民の味でも何でも、とにかく『キララ殿が美味と感じる物』を探し出せと言う事で御座るか。また中々の難題を…」
「そう言う事だ。高級だからって食べた事あったらアウト。ただしコレほどのハイパーハイリターンは二度と無いぞ?」
「た、確かにかなりのローリスクハイリターンには変わりない…やって損じゃないぞケロロ…」

小隊メンバーが意気込んで共鳴している中。

「あ、日向夏美。コレホント美味しいからお土産に包んどいてくれる?流石にタダは無理?」
「えっ、本当にお土産ですか?」
「うん、お金払ってでも欲しい。でも使うと思ってなかったから換金して無いし…2人、どっちか持ってる?立て替えといて」
「そもそもキララちゃんは財布を持ち歩かないじゃない。私が日本円に換金したのを持ってるわ。ちゃんと後で返しなさいよ?」
「そんなっ、お金なんて結構ですよ!!じゃあ包んでおきますから」
「え、マジで!?やった!ありがとね!!」

ニコっと子供のように笑うキララ。
本当に表情がコロコロ変わると夏美は思った。恐い表情も見たが、既にそれを打ち消すだけの元気に我が侭を発揮している。

最初に来た時、冷酷な表情になった時。

この二つを忘れさせてしまうのがキララの演技力だ。ギャップの幅を最大限に広げ、最初から『この性格』だと錯覚させる。

「よーし準備は良いかぁ!?それ行けヤローども!!折角遠出したんだからキララ様に美味いもん食わせやがれー!!」
「っしゃぁ!行くでありますケロロ小隊!!いざクルル曹長の弱点を!!」
「『了解!!』」

まるで子供のように楽しそうにはしゃぐキララ。空気はとっくに緩和している。
これも一つの姿だ。幾つもの姿の中で、キララ自身が一番好きな自分でも有る。

「モアもおじさまのために頑張りま〜す!」
「ハイちょっとお待ちっ!!」

「キャアァ!!??」

モアが擬態解除をして飛び立つ瞬間、素早くキララがモアのコートをガシッ!っと引っ掴んだ。その拍子にモアがルシファー・スピアから落ちる。
あまりにも思いがけない攻撃だ。と言うか、自分を掴んで落とすなんて何と言う凄いパワーの持ち主だとモアが驚く。
そしてバランスを崩して引っくり返るモアをガシっとキララがしっかり抱き止めた。まさに『正しいお姫様抱っこの見本』だ。

「お嬢さんは残念ながらおじさまじゃなくて私の為に頑張って?」
「えっ?わ、私ですか?!」
「アナタですよ?クルルのサブやってたんでしょ?かなり期待してる」
「そそそんなっ!!それにモアは中に入れませんしっ!!」
「いや、今この中での指揮官私だから入って良いよ。それにぃ…」

モアをゆっくり降ろしながら、ちょいちょいっとキララがモアを手招きする。
少し恐いながらもモアがキララに顔を近づけると、小さな声で。

   「…若かりしケロロの凛々しい軍服姿の写真とか、見てみたくない?」

何と言う魅力的な言葉。

モアにとっての『かいしんのいちげき』が炸裂した。当然瞬殺に決まっている。

「是非モアにお手伝いさせて下さい!!」
「ゲロぉ!?ちょっとキララ殿!モア殿に何言ったの!?」
「乙女の秘密ですぅ。それにケロロだけタッグって卑怯じゃん?そーれ行って来ーい!!」

 

 


こうしてケロロ小隊四人は各方面に散って行き。
冬樹もリビングに戻り、夏美も夕食の準備にキッチンに。モアはキララに片手間で済む食事を買いに頼まれ出て行った。
ただ睦実だけがまだ三人の様子を屋根から見ている。だがそんな睦実に構うほどキララは睦実に興味が無い。
早速会議を始めるが、流石に地球語ではクルルの状態を察知されるのでケロン語での会議だ。

「ん〜、やっぱ現段階で【進行性無し】とは言い切れ無いなぁ。さてどうしたもんか…」
「まぁね。一応他への影響は出ていないけど…」

改めてクルルの脳内配線データを見るが、三人の表情は険しい。
特にキララは義眼接続がキチンと完了してからの改めてだ。まだ【ジグソウ】もゴーグルも使える訳ではないが、それでも最初よりは良く見える。


「クルルの三半規管爆破があまりに突発的だったからなんともなぁ。他も突然来る可能性も有る。でも『今の私』じゃ限界だわ。【ジグソウ】が無いとホント不便」

 

以前健康診断で撮影した【クルルのジグソウ】の配線データと見比べているが、差異が全く見あたらない。

PCで重ね合わせ照合をかけてもどうやら無理のようだ。もしまだ爆破部分があるのならば自力で見つけ出さなくては。

 

「つーかコレ相当粉々なんだけど…手術で破片取り除くの大変そー。他のコードや機能にも影響出てるだろうし、こりゃジグソウチーム死んだな。ご臨終だ」
「頭の中が爆発するなんて誰も考えないものねぇ。まぁ何とか茎乳突孔動脈(けいにゅうとつこうどうみゃく)は無事だけど…」
「え、ゴメン何語?今【ジグソウ】動いてないから医学用語無理ッス」
「三半規管に栄養を送る動脈よ。徹底してクルちゃんを壊したいならココも切断されててもおかしく無くないでしょう?」
「それって三半規管だけに影響が有る動脈?」
「主に鼓膜周りと顎。まぁ動脈も神経も、どれでも切れちゃいけないんだけどね。……ちょっといいかしら?」

プルルがPCで新しいデータを出す。
それを見てキララが即座にそっぽを向くが、ガルルが頭を挟みゴキっ!と元の位置に戻す。

「ヤーダァー!!この類のデータ嫌いなんだってば!!」
「我が侭言わずにちゃんと読め。プルル、これは?」
「医療ドックにデータを送って、そして向こうからの疑問のまとめです」
「もー…。へーへー分かりましたぁ。読めばいいんでしょー…」

流石に頭を固定されてしまい、仕方なくキララは出てきたデータをもの凄い勢いでスクロールしていく。
読んでいるか疑わしいが、ちゃんとキララは目を通している。
その間にプルルがガルルに説明をする。

「そもそも【三半規管を壊す事】に何の意味が有るのかって事から。破壊対象が【ジグソウ】ならクルちゃんの三半規管だけなんて変だし本体を狙ってもおかしくない。【クルちゃん】ならジグソウを狙わなくても本人を狙うはず。どうして相手は【ジグソウ】の事を知っているのか。【破壊理由】は。等など類似疑問を省くとこんな感じです」
「ふむ…確かに。目的がバラけ過ぎているな」
「あーあー、2人とも考える必要なんか無いって。ガルル、もう頭離してお願いちゃんと全部読んだからキララちゃんイイ子だから嘘付かないよホントだよ頭ホントに離してってば流石にそろそろ痛いよマジで意識が飛んで行きそう…」

突然首を持っていかれたのでキララは痛くて仕方が無い。
その上先ほどの次元空間のやり返しだろう。挟む両手の力が万力のように少しずつ強くなっている。

「ならお前はどう思うんだ?」

キララの頭を離し、2人が回答を待つ。
ちょっと痛い首を擦りながらキララの答えは。

  「『んなこと知るかボケ』以上」

キララは表情も変えず当然のように一息で言い切った。
だが流石にそこまでキッパリ言われて2人とも驚く。

「だってそれらの疑問を解消する為に私が来たんだ。まだ調べて無いのに分かるわけねーじゃん?」
「そ、そうだけどっ…」
「上がグダグダ言って来るなら『キララ大佐が【御自分にジグソウを入れられてみては?】と仰ってました』って言っとけばいい。脳みそぶっ飛ぶ覚悟があるならな。大体疑問の中にどうして【自分達のミス】が1つもが無いんだ?偉そうに御託並べやがって…」


  完全に見下した顔でキララが新しい煙草に火をつける。
  自分で出来ない事を自分より出来る者に強要する等、馬鹿にするにも程が有る。


「まぁ【ジグソウ本体】には近付け無い程強力なウォールを組んで有るからハッカーじゃないだろう。単純に【三半規管だけしか壊せなかった】のかもしれない。でも私は個人的に軍外部からの干渉は無いと見てる」
「だとすると、やはりver.3移項の時に何かあったと言う事か?」
「可能性はソレが一番。…でもさぁ、それも相当昔の話だし『今更このタイミングで何で?』って感じがいなめないというか…」
「ふむ…」
「【地球の環境汚染度がジグソウには耐えられなかった】とか【単純にヘッドフォンにホコリが堪ってた】とか。可能性なんて下らない物も含めたらキリ無いから考えるの止めね?調べた方が確実に早く分かる」
「そうねぇ。無駄に頭使うの止めましょうか」
「あとはまぁ、断言は出来ないけど相手は【クルルに恨みが有る】と思う。フツーに考えたら何よりも一番納得行くだろ。だってクルルだよ?」

念を押して言われて見れば、クルルに恨みを持つ軍人も相当多いだろう。
何せクルルだ。一番しっくり来る。

「私がver.3に移項した時には何も起こってないってのも有るからさ。余計に意味分かんね」
「それって【クルちゃんのジグソウ】にだけ何かを仕掛けていたって事?」
「それか私に何か起こる前にver.4に移項したから無事だっただけか…。【ジグソウ】は一端本体のメインサーバに保管して一定期間安全性を確認してから私達の頭に入れる。それを個人攻撃で操るのは相当難しい筈なんだけどね。【ジグソウ】入れてる私でも作業工程を考えるだけで嫌になる」
「ジグソウチームはあの大人数だぞ?そんな事をしたら直ぐバレるだろう」
「そう思いたいが医療ミスもありえるし隠蔽(いんぺい)もね。『チーム・●チスタ』の衛生局版みたいな。まー、実際クルルの【ジグソウ】に潜ってみなきゃ分かんねって事だ」


  ここで一端話の区切りが付いた。
  全てはやってみなくては分からないのだ。


「キララちゃん、義眼は大丈夫?」
「神経接続はオールクリア。新しいヤツらしいけど流石ジッ様って出来だよ。コンタクトも入れてるから星にいたときよりずっと『良く見える』。クルルの治療中に爆破は無いと信じたいけど、相当な無茶するしなぁ…って感じで先に謝っておこうかと検討中でもある…」
「ちょっとそんなに無茶するの!?」

遠い目をしながら、決してプルルを見ないようにキララが語尾を濁しながら呟く。
こんな事を言って怒らないわけが無い。
だが後からバレたらもっと恐い説教が待ち構えているので先に言って置くに限る。

「まだ1日経ってないのにまた爆破したら本当にキララちゃんタダじゃ済まないわよ?!ジグソウチームからとの二重の意味で!!」
「心痛いよその言葉…。確かにジッ様のガチ説教は怖いだろうけど時間は無いし、私は早く帰りたいし、犯人だってとっ捕まえ無いと。【ジグソウ】の3と5を併用して使うんだからそりゃ負担はね。まぁ医療ドッグあるしクルルが直れば帰りは私をドッグの中で直してもらえばいいかなーみたいな」
「そんな危険な事!私は絶対に許さないわよ!?」

バン!とプルルが机を思い切り叩く。
確かにクルルはver.3でキララはver.5。作りが違うのは確かだが、機械を脳と同居させているのだ。

どれだけの脳神経負担を掛けているか、衛生局員であるプルルが知らないはずが無い。

「ジグソウチームだってそんな無茶なやり方は許可しないわ!ただの自殺行為よ!!」
「私が死んだら【生きたジグソウ】が居なくなっちまうし、そりゃ許可は出ねぇだろうよ」

「そういう意味じゃなくてっ!!いい加減にしなさい!ふざけないで!!」


目くじらを立てて怒鳴るプルルだが、キララの表情は平静だ。
スっと目を細め、キララがプルルを横目に見る。

 


「じゃあ他に誰がやるの?」

「っ…!」

「私の代わりに今から【ジグソウ】を埋め込んで誰か死んでくれる?」

 

その視線だけで心臓が凍りそうだ。

 

「ソッチの方がジグソウチームは許可しないさ。みんな自分の命が大事なんだから。私はふざけてない」
「だ、だけど…キララちゃんが…」
「この方法しか無いし、私しか出来ない。仕方無いだろ」

ふぅ、とキララが肩の力を抜く。
現段階で【ジグソウシステム】を扱えるのはキララのみ。
他の誰にも出来ないのは明白だ。

「まぁ私の方が5だから併用の際の負担は少ないと見込んでいる。私だって『何でクルルの為に死ぬんだ?』って話。だから『修復続行不可能』と判断した場合は悪いがクルルは本部へ送って回収・分解だ。改めて本格的にジグソウを取り除いて徹底的に調べないと。つーか最初からクルルが死んで良いならさっさと回収して今頃帰ってるよ。マジで私、死ぬかもだしね」
「キララちゃん…」
「戦場以外で死ぬなんて真っ平ゴメンだ」












 


すっかり日も沈み闇の中で星達が光る。
まだ2人がコッチに来て1時間と経っていない。モアが戻ってくるまで、短い休憩だ。

「…相変わらず今回も上手に『駒』を動かすなお前は」

静かになった庭でガルルがキララに声を掛ける。もう地球語だ。
仕事と言うよりこれはもう生死をかけた戦いだ。始まる前に少しでも別のことを考えていたい。

「あぁ、小隊?お土産欲しいじゃん。私って地球に来たの初めてだし、この紅茶の出会いはマジ感動だもん」
「土産なんぞ幾らでも手に入るだろう。ケロンでも売っている」
「甘いね。こういう『家庭の手作り』っていうのが希少価値なんだよ。それに…」

キララの表情が変わる。
部隊長としての顔に近い。瞳は身体を射抜くように鋭く口元も弓形に笑っている。

「コレで奴等の【クルルへの関心と心配】は相当薄れた。奴等にとっても良い暇潰しの餌を与えてやったし、私も土産が手に入る」
「上手くいけば夏美ちゃんの紅茶とセットで一石五鳥かしら?みんな何を持って来るのかしらねぇ」
「正直奴等には期待していないがな。奴等は居るだけでも鬱陶しいのにクルルへの関心でさらに邪魔だった。日向夏美の紅茶から『土産の発想』は散らすには丁度良いタイミングだったし、地球人も私達への不信感は十分取れただろう。1人を除いてな」

キララは屋根にいる睦実を煙草で指す。
言葉は分からずとも睦実は全てを聞いていたのだ。不信感が薄れるはずが無い。

「予想外のイレギュラーだが、たかが1人で私達に何が出来る?ケロン語の翻訳機なんて持って無いのに良くつまらん話を聞いていたものだ。暇だなお前?」
「…………」

挑発的なキララの言葉はしっかり睦実に届いている。
だが睦実は動かない。ただ聞いている。キララも別段返事など期待していない。

「ま、今出来る限りの舞台環境は全て整えたつもりだ。あとはアンゴル族のお嬢さんが4時間しか活動出来ないと聞いてるが、その4時間を上手い事私達の時間にはめられるかだな。コレばっかりは予測出来ん」
「はぁ…全く、今回はホントにキッツい任務だわ。タイムリミット付きなのもあるけど…」

 

ふぅ、とプルルが冷めた紅茶を啜る。

 

「頭脳戦なのが悔しいわ。しかも【ジグソウ】が相手じゃ私は動きようが無い。ただ見てるしか出来無いなんて最悪よ…」

「今回は『そう言う勝負だった』ってだけの話だ。いつでもバカスカ撃ち合うだけの原始的な戦争はとっくに終わった」

「そうだけど…」

 

不満気なプルルにキララが少し笑いかける。

 

「『意思を持つ駒』をいかに上手く動かすかが騎手(プレイヤー)としての私の手腕だ。ケロロ小隊ほど動かしやすいが予測もし辛い駒も珍しいが、今回は排除出来たと確信が持てる。勝って見せるさ。私を誰だと思ってんだ?」

 

駒が勝手に動いて王手を掛けてもそれはキララの勝利では無い。

あくまで騎手を務めるキララが盤上を読み、駒を動かし、そして王を倒さなければ意味が無い。

それがキララの言う【勝負】だ。

「今回は対戦相手のプレイヤー情報が全くの不明だ。上手く頼むぞ」

「未知の相手が実は自分達が作り出した相手だなんて、矛盾だらけにも程が有るけどな。やってやるよ。私をナめるな」
「もしケロロ君たちがキララちゃんに『駒』って呼ばれてるなんて知ったらどう思うかしらねぇ?」
「知る必要は無いさ。命令通り動き力を発揮すればそれでいい。『ケロロ小隊』と言う駒は有る意味今回は敵陣だ。さっさと消すに限る」

それだけ言うと、キララはPCを閉じた。

「何か言いたいなら今のうちだぞ?」

顔も見ずキララは睦実に問う。

この程度、気配で汲み取れる。
睦実も口を開いた。

「…何でもかんでも、人も『駒』扱い。取られても悲しまないんだ。部下が死ぬって事なんでしょ?」
「お前に理解は求めないがそうだ。それに取られたものは取り返す。そもそも取られぬようにする事が私の仕事だ」
「それって『王様』気取り?」
「違うな。王は【王と言う役割を持った駒】だ。私はそれら全てを使役するプレイヤーだ。軍隊はチェスボードに良く似ている」
「まさかガルル中尉やプルルさんに対してもそう言う考えな訳?」
「時には駒として動かす事も有る。出来る力を全力に引き出してな」
「そう…」

空と海の狭間のような蒼い瞳はキララを侮蔑していた。


  「アナタってサイテーだ」


瞬間、ガルルと銃とプルルのメスが睦実に飛ぶ。
だがキララのワイヤーが一瞬早く睦実を捕えて横に倒した。

「止めろ」

戦場のような2人の表情に、守られて少し驚いている睦実。それを見る無表情のキララ。
今の2人の行動は完全なる殺意から来ている。キララがどれだけ軍の為に、そして仲間を生かす為に戦場で血を流してきたかを嫌と言うほど見知って来た2人だ。
その彼女への侮辱は、とても生かして許せるものではない。

「私を何も知らん者に今の言い回しは誰でもそう思う。私もソイツを何も知らん。構うな」
「悪いけどコッチが構うわ。地球人で『殺したい』と思ったのはアナタが初めてよ睦実君…」
「子供は帰れ。お前に何も出来る事は無い」
「いい加減にしろ。二度言わせるな」

キララのキツい口調に2人がようやく武器を仕舞ったのを確認してキララもワイヤーを仕舞う。
だが殺気は消えていない。その様子にキララは2人に愛されていると喜んで良いのか複雑だ。
どうにも落ち着きの無い年上2人をどうにかしなければと、キララが心で溜息を付く。


「北城睦実、今の通り私はお前を知らない。だから次は私だ。今から私の質問に答えろ」
「えっ?」
「おいキララ、何をする気だ」
「睦実君には黙ってろって…」
「問題無い。それに本人データなんかいらん。全く関係無い事だ」

無表情からからニヤリとキララが笑う。

「『変数型』の意味は分かるか?」
「…PCで…プログラムを組む時の…」
「そうだ。なら『インティジャ』の意味は?」
「せ、整数…」
「『16進法』は何バイト?」
「整数の2バイト」
「『16進法の分解脳』は?」
「整数型変数で16の4乗。アンサイントが無ければ0からで……65535だ」
「成る程」

愉快そうにキララが笑う。全てはプログラムを組む際に必要最低限の知識だ。
パソコンでは0と1の2進法だが、プログラマは16進法を使う。
睦実は何でこんな質問をされるか分からない。

「あの、」
「まだ終わらない。『倍精度』はどうだ?」
「…ロングなら8桁。ショートなら4桁まで」
「『16進法表記』は?」
「0から9。残りの足りない分はAからFを使う」
「宜しい。上出来だ。どの程度の物を組めるかは別だが、その歳でそのプログラム知識はクルルといると楽しいだろ?」
「…何が言いたいの?」
「最後だ。即答しろ」

睦実の言葉を無視してキララが口を開く。


  「今までの問題の流れからはじき出される【孤独な数字】はどれだ?」
  「えっ?」


一瞬聞き返してしまった。
またプログラム設定の質問だと思い込んでいた。

「残念、一番大切な問題なのにな」

そう言うとキララは立ち上がり伸びをする。

「キララちゃん…今のは何?」
「ん?簡単なプログラマテスト。地球じゃ【UNIX】って呼ばれてるらしいけど参謀本部で使ってるソフトと基本的な仕組みは殆ど一緒。プログラムの授業で起きてりゃみんな分かる程度。2人は中尉に看護長だ。プログラム作成は出来無くても構わんが当然理解は出来るだろ?」

その言葉にガルルもプルルも一瞬で視線が別々の方向に飛んでいった。

「あの…今のは何なんですか?」
「クルルへの愛情テストとでも思えばいい。ただ最後が答えられなかったのは残念だ」
「…孤独な、数字…」
「そう。孤独で特別な数字だ。クルルにピッタリだろ?お前がいて初めてクルルは孤独から抜け出せる。だから答えられたら多少手伝わせてもいいと思ったんだが」
「っやらせて下さい!!クルルに会わせてください!」

  クルルに何があったのか。
  少しでも自分が役に立つなら。
  会いたい。

「無理だ」
「どうして!?」
「問題の途中で気付いたが、お前は根本的にケロン語が読めないだろう?」
「…っそれは…」

勿論読めるはずがない。

「それにケロンで最高峰のプログラムだ。もしケロン語が読めていたとしてもお前の知識で理解が追いつく内容じゃない。…さて」

キュッとキララが煙草を灰皿に押し付ける。

「お嬢さん、早く戻ってこないかな…」


クルルを助けなければ。

 

 

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