【限界】を感じた心は跡形もなくぶち壊せ。

ズタズタに引き裂き捨ててしまえ。


プライドも全てを失い絶望を感じた時。



そこから何もかもが、また始まるのだから。





Despair Worrying Producer〜 X







地球の日向家は、現在酷く混乱と重く澱んだ空気に包まれていた。
勿論原因はケロロ達の説得のせいだ。


  突然大量のケロン人が来る。
  小隊の指揮権がプルルに移り、そこにガルルが来て、更にその上官までやって来る。
  秘密基地への突然の出入り禁止。
  クルルの容態等。


だが必死なケロロ達の説明も、夏美も冬樹も理解が出来ない。
説得する側のケロロ達にだって現状理解が半分も出来ていないのだから当然だ。
ただ言われた命令をこなしているだけである。分からなくとも命令に従うのが軍人だ。
しかし生憎夏美も冬樹も『地球人のただの中学生』で、軍人でもなんでもない。そもそも宇宙人の事情など知った事ではない。
そんな相手に『取り敢えず納得してくれ』は、どう考えても無理がある。


「軍曹…」
「全くの意味不明もいいところよ!!何でいきなりギロロのお兄さんに加えてその上司まで!?」
「ゲロォ…軍の極秘らしくて我輩達も良く分からないのでありますよぉ…」
「と、とにかく事は【クルルの治療の為】としか分からんのだっ!夏美落ち着いてくれ!!」
「ボク達だってガルル中尉になんて来て欲しく無いですぅ!!」
「だったら追い返しなさいよね!?コッチだってお断りよ!!クルルが何か病気でもプルルちゃんが付いてるなら大丈夫なんじゃないの?!」
「拙者達もクルル殿の病状を知らないで御座る故…」

リビングでは延々と話が堂々巡りである。
大人の男4人とモアが雁首揃えて正座して、地球最終防衛ラインの怒鳴り声にモゴモゴ唸るだけだ。
勿論恐いに決まっている。夏美の手が出たら命が終わる。


「姉ちゃん、ちょっと落ち着こうよ。軍曹達も困ってるんだしさぁ」
「アンタじゃないんだから落ち着けないわよ!!本当に侵略目的じゃないなんて信じられるの!?いい加減、我が家は宇宙人のサービスエリアでも道の駅でも観光地でも無いのよ!?」

 

ガン!!と思い切りケロロ達の前で床を踏み抜く勢いで足を降ろす。

その音に小隊メンバーとモアが本気で恐怖にビクつく。

 

「アンタ達が勝手に暢気に住み着いているだけなの!!分かってんの!?冬樹も!?」

「え、僕?!」

「アンタが一番馴染みすぎてんのよ!!」

多少はケロン人が突然来ても、『あー、また何か来た…』と夏美も毒されてしまい動じなくもなったが。
流石にここまで一気に分からない事の山積みでは落ち着きようが無い。いつリミットブレイクしてもおかしくない。
ガルルの存在はまさにトラウマもいい所の人物。それが来る時点で4人の言葉の信憑性など一瞬で消える。
本当に【ふざけるな】と言う話なのだ。死んでも追い返して欲しい。そのまま死んだら速やかに散って構わないから。


「大体ギロロのお兄さんだけでも恐いのに!その【キララ】って上官は何者なのよ!?」
「だ、誰と言われても……ドロ沼く〜ん!!!」
「えぇ!拙者で御座るか!?」

ケロロの甲高いヘルプの声に、全員の視線がドロロに集中する。
良く考えればキララと言う人物を口で説明できない事にケロロはたった今気付いた。

  彼女は、何もかもが謎なのだ。

この中でキララを知っているのはクルルの次は『やらないか』(
仕事を一緒に)とラブコールと言う名の、周りから見ればただの【上官圧力を使った超強引な部下への勧誘】を何とか必死で拒否し続けているドロロだ。
モアも含め四人が精々分かっているのは【大佐】と言う階級。参謀本部の課長。何かヤンキー。軍内なのに有り得ない私服。……精々その程度だ。
それ以外の、例えばキララの正確な仕事内容等は全く持って何も知らない。


 

 


「…さぁてとぉ?しっかり説明して頂こうかしらドロロ?」
「あ、えっーと…」

正座するドロロの真上から夏美の強烈な視線が襲い掛かる。完全に光っている。下手を言えば殺されるのは明白だ。
突然話を振られて焦るのもあるが【キララと言う人物】の何処までを話していいのか線引きが分からない。
何せ軍の中でもキララの役職自体が相当難易度の高い隠れモードなのだ。

「とっ、取り合えず夏美殿。キララ殿は本当に戦意は無い筈で御座るよ!」
「へー、言い切る理由は?」
「キララ殿は…その、もの凄くお忙しい方で御座る!第一、星から出る事を禁じられている身で御座るし、大体こんな遠方惑星の侵略程度で本部が缶詰を解いてくれる筈無いで御座る!!…あ、それに参謀本部の人物で御座るしクルル殿のように力技は全くで御座るよ!!」

しどろもどろと、何とか色々隠したり嘘を付いたりの説明だが。
正直ボロボロだ。自分が何を言っているのかドロロ自身も良く分からない。

「ねぇドロロ、それだと【星から出せない程危ない】って風にも聞こえちゃうんだけど…」
「うっ!…ぐ…っ」

冬樹の言葉が尤もだ。そして事実その通りの超危険人物でもある。
いよいよ夏美の逆鱗とパワードスーツのボタンにあと数ミリで触れそうだ。

「ならば…簡潔に白状する御座るが…」

言ってもいいのか分からないが、夏美の逆鱗とキララの逆鱗では《レベル1》と《レベルメーターなんか思い切り振り切って、慈愛の心が光より早いスピードで遥か彼方に飛んで行ってしまった状態》程違う。何をされるか本当に分かったものではない。
そんな事を思いつつ、とにかく今はいつ来るか分からないキララの説明をしなければ。
到着してからの説明でのタイムロスは勿論命令違反だ。コレではプルルの逆鱗にも触れる。
完全なる裏ラスボスのキララと中ボスのガルルとプルルのブチ切れは、RPGを始めたばかりで武器も装備もレベル1の自分達で太刀打ちできる相手ではない。
一撃でゲームオーバーだ。そんな相手に立ち向かうなど血迷っているとしか思えない。


「キララ殿はたった1人で地球を簡単に降服させる知略も力もあるお方。今でこそ参謀本部におられるが、侵略部隊を率いていた頃は誰もが1度は憧れた女性軍人で御座るよ」
「えっ?…ちょっ…そんな凄い人が来るの?!全然安心出来ないじゃない!!てか女性!?」
「女性で御座る。そしてその様な方がこのような辺境の星の侵略程度で動く事は無いで御座る」

動かないのは軍に缶詰なのも有るが、基本的に我が侭で面倒臭がりというのが一番の要因だ。
だがそこは黙っておいた。あとからキララの耳に入った時に自分が生きているか分からない。

「拙者達ケロロ小隊やあのガルル小隊が同時に仕掛けても、キララ殿には赤子を捻るも同然。アサシンのエリートから更に厳選した者だけを集めたケロン軍最強部隊の隊長務めておいでで御座る。拙者が知るのはそこまで」

「……そ、んな…恐い人が……」

ドロロの説明は夏美の逆鱗をすり抜けて恐怖に触れた。
黙って聞いているが冬樹も同様だ。

  「キララ殿は、怖いで御座るよ」


シン、と場が静まり返る。
ドロロの言葉に血の気が引いたのはケロロ達も同様だ。
確かに女性軍人の中でも抜きん出た実力に加えて、悲惨な惨劇を生き残った人物として訓練所ではテキストにまで載っている。
男女問わず誰もが1度はその強さに憧れるし、実際式典に出れば眩い美しさにファンクラブまで存在する。
だが彼女は突然表舞台から消えた。

そして参謀本部に引込んでいたかと思ったら、まさかのアサシンを率いる隊長とは…


「あ、あの〜、ドロロくん?キララ殿ってぇ…参謀本部の課長さんだったよねぇ〜?」

あの『何をしているのか誰も知らず、実は何もしていないのでは?』と噂で有名な【謎の第8課】の課長の筈だ。
扉を開けてもキララ以外は誰も居ない。酷い時は誰も居ない。

開けたらお菓子が散乱してたり。キララが1人カラオケをしていて無理やり付き合わされたり。何故かガルル小隊が無残な姿で転がっていたりと。

全く持って本当にあらゆる意味で【謎過ぎる課】として誰もが知っている。

当然【参謀本部・第2部第8課】としては何もしていない。第8課としての仕事内容を聞いたとしても、課長のキララだって知らない。
【第8課】と言うのは本来の【諜報略奪部隊】と言う、ケロン軍最強裏部隊の隠れ蓑に過ぎないのだから。


「確かに皆に『課長か名前で呼べ』と申されるが、軍階級は正真正銘【大佐】で御座る。仕事内容までは拙者も存ぜぬがアサシンを部下に持つ以上、実力は侵略部隊にいた頃と変わらぬかそれ以上なのは確か。そこにクルル殿を進化させたような知略も持っているで御座る」

クルルが進化した頭脳にそこまでの戦闘能力とはまさに『最恐』。
いつもモニター越しだとただのヤン姉でゲラゲラ笑っているだけだが、キララはれっきとした【大佐】と言う階級なのだ。

全くそう見えなくても残念ながらそうであり、実際は佐官に甘んじているだけで将官であってもおかしくない実力と実績を持っている。
上層部は普段のヤンキーな仕事っぷりのキララを知らないので、是非とも将官に上げて存分に将官クラスのドレッシーでヒラヒラな軍服とその美貌を見たい。

だが本人が『参謀の課長は軍階級で【大佐】だからしゃーないけどぉ、これ以上肩書き上げたら何かウザイし、もしンな事したら取り合えずで本部丸ごとぶっ壊す方向なんでー』と、それはそれはとても御上品な言葉に上手に変換して拒絶するので、取り合えず今は【大佐】で落ち着いている。
そもそも『あのガルル中尉』を平気で足に使っている時点で、どれだけ恐ろしい存在かは分かる筈だが…。


「…無理っ…」
「姉ちゃん?」

夏美が全身を擦り始める。鳥肌が一気に出たのだろう。

「無理よ無理無理!!!そんな人が来たら地球終わる!!ギロロのお兄さんだけでも強いのに!!」
「夏美殿、御安心召されよ!二人が来る理由に侵略目的は絶対にござらん!医療ドッグまで動いているのだから本当にクルル殿の治療だけで御座るよ!!」
「無理よ!てゆーかボケガエル達!何でアンタ達までビビってんのよ!?」

ドロロの説明に夏美同様、顔が青いケロロ達。

「だって知らなかったもん!!キララ殿は管轄全然違うし!!コッチだって真面目になるとメガトン恐い事くらいしか知らなかったでありますよ!?」

つい先程の通信の時だ。
ただでさえ【大佐】なのに、それを忘れさせてしまう程普段のキララはただのヤン姉。

私服のせいで余計に一般人に見える。それに加えてタメ口OKでケロロと張れる程子供っぽい性格だ。
だが真面目になると口調も何もかもが変わりギャップが酷い。怖いのだ。
どれだけ一般人に見えようが、伊達に【大佐】はやっていない。そして実際仕事の間はどれだけ冷酷で非情なのかも、ケロロ達は知ることは無い。




「待って姉ちゃん落ち着いてって!!ギロロもタママも、軍曹も知らなかったんだよね?」

冬樹の言葉に首を縦に降る3人。勿論知るわけがない。
ドロロはアサシンNo.1であり、キララからのスカウト対象に入っていたから表面上を薄ーく知っていただけだ。

「姉ちゃん焦らずに行こうよ。軍曹達だって今知った事が多いみたいだし、ギロロのお兄さんと来るならきっと話せば分かる人だよ」
「分かんなかったらどうすんのよ!?今クルルが動けないなら小隊なんて全っ然使い物にならないんでしょ?!私のパワードスーツだって限度ってもんが有るわよ!!嫌よいきなり今日で人生終わるなんてぇえええええ!!」
「ナッチーさん大丈夫です!いざとなれば私が黙示録撃でその方を!!」
「ゲロォ!?モア殿だみだよ!!管轄が違っても我輩たちの上官だから!!てか我輩達の上官の妹さんな訳で!!」
「モアちゃんが出てもどっちみち終末じゃないのよぉおおおおお!!!もーやだぁぁあああああ!!!!」

完全にパニックに陥ってしまった夏美。
同じくパニックで現実逃避がしたい全員だがそうもいかない。
ワンワンと泣き叫ぶ夏美を止められないでいたら。





 「こんにちはっとぉ♪」

 




庭先から聞こえた声に全員の視線が飛ぶ。

 

『睦実さん!!??』
「あっはは……なーんかもの凄くタイミング悪いとこに来ちゃったみたいだね俺って…」

相変わらずの不法侵入は健在の北城睦実の登場だ。
だが相当の苦笑いだ。何故なら全員の視線に射殺されそうだからで…
普段なら勿論こんな空気の悪い時に声など掛けないが。

「ど、どうしたんですか?!あっ、今お茶出しますね!!」

パニクる夏美は一気に乙女に戻り何とか違う方向へのパニックへ向かっていった。コレはコレで良いのだろう。

下手に『地球最強人物』に勝手に宇宙人から認定されている夏美がパニックを起こしても、それはそれで怖い。

宇宙人限定の無差別殺人が起きてもおかしくない。

 

「いいよ夏美ちゃん、お構いなく。すぐに帰るから」

 

だが夏美の騒ぎ声が止まったのはいいが、やはり空気が重い。
いつも明るい日向家なのに重力が間違えたように重い。


「今日は榛名のお使いでクルルを迎えに来ただけ」
「く、クルルですかっ?」
「そっ。今日は強制帰宅の日。榛名も心配…は〜、して無いか。まぁ連れて帰らないと俺も家に入れないから」
「あぁ、榛名ちゃん…」

北城家には睦実の妹の榛名(10歳)が【絶対権力者】として君臨している。
破天荒な兄を尻に敷き、アクシデント大好きなクルルのイタズラに目を光らせながら、電波な二人を飼い慣らす最強の妹だ。
見た目は流石睦実の妹と言うのもあり、ビスクドールのように可愛く性格もとても良い子なのだがそれは外だけだ。一歩家に入れば家庭内では全く容赦は無い。

人様に迷惑を掛けるという事を平気でする2人が大嫌いで仕方が無い。榛名はとても常識的でかなりの主婦思考なのだ。
だからかどうかは不明だが、睦実とクルルにだけは当たり前のように木刀で殴り包丁を振り回す。

何故か身内への攻撃は、やり過ぎだとは思っていないらしい。


「榛名ちゃん元気にしてます?」

榛名は年齢からも性格からも【完璧な妹属性】の持ち主なので、日向家からもケロロ小隊からも、誰からも可愛がられている。
女性陣も含めて全員から『オレの妹!』状態だ。
ただし誰よりも血の繋がった兄の睦実が、ハイパーロリシスを発揮しガードを固めているので中々近寄れないが。

「いつも通り『あうっ』としながら『なっちゃん大好きふーくん大好き』で元気だよ」
「ちょっ!我輩は!?」

噛み付くケロロに睦実はいつも悲しげな瞳しか向けられない。
まさかケロン体の時はいつも【捕食者の目】で見ているとは流石に睦実も言い辛い。
特にケロロだ。榛名を『我輩の天使!!』だ何だとほざき、睦実に負けないロリシスを絶賛発揮中である。
だが榛名はケロン体を『生きた食材』としか思っていない。それ以上でも以下でもなく文字通り『ナマモノ』だ。

「あのさぁケロロ。何度も言うけど、世の中知らない方が幸せなこともあるんだって…」

若干悪食な癖を持っている榛名の中では宇宙人だろうが『カエルはカエル』なのだ。食べてみたいと思ったらもう遅い。
逆に『宇宙人』という付加価値が付いてしまっているので、余計に榛名は隙あらば捌こうといつでも準備万端だ。
だからクルルは北城家にいる間はキャラが変わったように大人しい。冷蔵庫にはしっかり蛙料理のレシピが張ってある。榛名は本気だ。

 

「榛名殿の事なら何でも知りたいに決まってんでしょ?!こんの天敵ロリシス兄貴がぁぁあああ!!!」
「まぁ全く否定する気は無いけどさぁ…」

 

特にケロロは緑なので一番【食用ガエル】として食べても安全と思われてるとは一生知らない方がいい。
睦実も榛名への邪魔者排除は徹底しているが、それだけは言わないように決めている。あまりに哀れすぎる。
榛名が良くクルルに「足の一本くらい駄目?」と愛らしい表情で、包丁片手に素で聞いている場面を見ている睦実はもうどうしていいやら。
勿論駄目に決まっている。

「あ、また新作お菓子にチャレンジするからタママにジャッジを宜しくって」
「やったぁ!榛名っちのお菓子ですぅ!」
「あとドロロとお茶する為に和菓子に挑戦するみたいだからそっちも。まぁジャッジと言うか、お茶を宜しくって感じかな?」
「それは拙者も良い抹茶を煎じねば。承知仕(つかまつ)ったでござる。いつでも楽しみにしていると言伝を頼む出御座る」
「で、ギロロのは甘くないものって事で色々試作中。夏美ちゃんやモアちゃんには『また女の子でお茶会しようね』って。伝言はこんなもんかな?」
「ちょっとー!!何で我輩だけ無いの!?」

実はちゃんと有る。榛名は1人だけ何も伝言をしないなんて小さな虐めのような事はしない。

だがとてもそのままケロロに伝えられるような内容ではない。睦実もここに来るまでに何と言い換えようか考えていたが結局思いつかなかった。

 

「ケロロは…普通のお菓子でいいからじゃない?」
「何だよそれぇ!?我輩だけ無いなんて!!普通のでも美味しいけど榛名殿酷いで有りますぅぅううう!!」

本当は『ちょっと煮込ませて?切らないから大丈夫だよ?』と伝言を貰っているのだが、とても言えない。言えるわけが無い。
榛名が絡むと賑やかになるのはいつもの事だ。
これが【最強の妹属性の力】だ。本人の知らない所で全くどうでもいい騒ぎが始まる。

 

 



「で、全員此処にいるのにクルルは?ラボ?」

やっといつもの日向家の空気を取り戻したかに見えたが。
『クルル』の一言でまた空気が沈んでいく。
北城家の絶対命令の1つに【榛名の迷惑にならない区域なら何処に行ってもいいが、3日に1度は帰って一緒に食事を取る】というものがある。
勿論破ることなど許されないし、破るなら事前にキチンと理由を言わなければ後から榛名の小学生ならではの豊かな発想力から生まれる、『まず大人ではそこまで恐い事考え付かないし、実行したら後始末をどうするつもりなんだ』と言う恐ろしい制裁が下る。
今日でクルルはその3日目だ。
巻き添えを食らって纏めて木刀で『地獄への直行便参ります!』と言う事になる前に、こうやって睦実は迎えに来た訳だが。


  「ねぇ…どうしちゃったの?今日は榛名が張り切ってカレー作ったし、絶対クルルを連れて帰りたいんだけど」


誰も口を開かない。
勿論【榛名の絶対命令】の事は全員が知っている。おかげで以前より若干クルルは健康だ。
榛名も別にコレは命令として言っている訳ではない。単純に体調の心配しているだけなのは全員が分かっている。

ただ、こうとでも言わないと言う事を聞かないし、実際に制裁を加えないと平気で帰って来ないから有限実行するだけで。

「あ、の…睦実さん」
「なに?」
「今日は秘密基地が立ち入り禁止で…その、クルルも帰れないと思います。榛名ちゃんに伝えて下さい」

沈痛な冬樹の言葉だが。

「秘密基地が立ち入り禁止?だから全員此処にいるって事?」
「今現在…我が小隊の指揮権はプルル看護長に移行されているであります。中にいるのはクルルとプルルちゃんだけで…」

秘密基地に男女2人きりだなんて。
そう軽く茶化そうと思ったが睦実は止めた。

何故2人しか入れないのか?

プルルに指揮権?彼女はお馬鹿なケロロ小隊の見張りで居るだけの筈だ。

「クルルが病気って事?」
「そう…らしいで御座るが、我々も一向に病状も教えてもらえず追い出された次第で御座る故」

全員が追い出されるほどの病気。


  本当に病気なのか?空気感染の可能性でもあるのか?バイオハザード並の危険な感染力?基地内でパンデミックでも起こったのか?
  ならばプルル1人でも危ないはずだ。小隊を追い出すような事はせずに助力を頼むのが普通だろう。
  それとも小隊にも日向姉弟にも、知られてはいけない他の何か?

  自分の恋人に、一体何が?


「こっちも理由を教えて貰わないと俺は帰れないし、榛名が包丁装備で乗り込んで来るけど」

実際にコレが現実なので睦実も帰れない。何よりクルルを連れて帰らないつもりもない。
連絡は最低限以下しかしなくても、これはおかしい。


「クルルが、どうしたの」


耳から入った自分の声が、酷く冷えているのを睦実は感じた。

 

 

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