自分の夢を思い描くだけで満足をするロマンチスト


夢を掴める事が分かればどんな事もするエゴイスト


掴み取った自分の姿に満足するナルシスト

 

世の中誰でも持ってる癖に、そんな自分を認めない自己中ばかり。

   
   自分もそうだ。   
   馬鹿ばかり。





Despair Worrying Producer〜 V





キララの緊急要請でジグソウチームは早急に集まった。
ただし準備が相当かかる。
技師も医師も先ほどキララの治療を終わらせたばかりなので揃ってはいるが、全員が疲労困憊な上に明らかにデータ不足の状況だ。

  現段階の【ジグソウ】はver.5。
  だがクルルは3のまま。

これではver.3作成時のデータやプログラム、そして3専用の治療コード等が必要になってくる。
その上クルルが勝手に【ジグソウ】を弄っている可能性がある。そうなると尚更あらゆる準備が必要だ。
それなのに、頼みの綱で有るキララは現在【ジグソウ】を使えない。

ver.5の情報処理能力ならあらゆる状況想定を見越した術式工程が早急に組めるが、その本人がついさっきオペを行い全く役に立たない。

だがキララが悪いわけではない。ただ上層部の仕事を真面目に処理し続け忙殺され続けた皮肉な結果だ。
ジグソウシステム【本体】にプルルからのデータを調べさせても、回答は『不明(アンノウン)』。
どうやら壊れ方は相当既存データから外れているらしい。












「…落とし穴…か…」

ポソリと、キララがパソコンや複数のグラフィックモニターと睨み合いながら呟いた。
衛生局に連絡を入れた後、現在キララはガルルを運転手に軍の高速宇宙船で地球に向かっている。
とにかく必要そうな物を全部ガルルの次元空間に入れ込んで大慌てだ。

もはやキララにとって、ガルルは『口喧しい日常生活の便利品』だ。あって当たり前。空気と一緒だ。無くては困る。

ガルル自身はそういう扱いまで落ちている事に気付いているのかどうか…

「コレは…一か八かでもジグソウ【本体】に人工知能を入れるべきだったかもな…。回答が不明じゃ役に立たないにも程が有る…」
「だが確かそれは上層部とお前自身が却下した案だろ?『危険だから』と」
「うんまぁ。どう言う訳か、何回シミュレートしても『私とクルルを足して2で割らない性格』にしかならなかったんだよねぇ」

ガルルの背筋に寒気が走った。まさにゾッとする怪物が生まれると言うことだ。

何故2で割れないのか不明だが、キララとクルルは【ジグソウ】が無くても天才には変わりない。そこにキララの行動力と暴力的なパワー。
非常に好戦的で我が侭でとんでもなく捻くれた性格になるだろう。1人でも大変なのに2人分になったら一体どんな回答を叩き出すやら。

しかも、もしその【本体】がコントロールタワーとなってしまった場合、暴走した際は二人も同時に制御不能の悪魔に変わる。
軍どころか近隣の星まで巻き添えで終了のお知らせだ。

「別に私もクルルも困らないけど上が嫌でしょ、そんなヤツ」
「お前の意見が通って正解だ…手綱の握れん化け物は飼えん」

人工知能を与えなかったのは勿論その理由が最大だが、キララもクルルも何だが互いの子でも生まれるような気分で嫌だったのもある。
実は内緒で面白半分に作ってみたのだが、これがまた予想通り大層憎たらしい人工知能の出来上がりだ。
作ったその時点で歪みっぷりが半端ではない。流石とも言うべき性格の持ち主だった。
その性格の悪さに瞬時にキれた2人が速攻でぶち壊し、お互い『お前ってそこまで性格歪んでた?』と小一時間相手を問い詰める結果となった。

(アレは無いよなぁ…)

 

そんなものが正規で誕生が決定した日には、取り合えず決定に賛同したものをどうやって跡形も無く葬り去るかを考えなくてはならない。

その上作るとなればどう考えても破壊に乗り出す自分が目に見えていたのでキララは上にストップを掛けたのだ。
性格激悪なだけならまだ許すが、自分に反発するとなれば話は別だ。『自分が一番』なキララにとって、たとえ半身であろうが自分に反抗するなんて行為は許せない。

それに面白半分の人工知能は間違いなく上手く成長しないのが直ぐに分かった。
個性が強すぎる二人の性格が上手に一つになるはずが無い。必ず途中でバーストを起こし分裂してしまうだろう。
それが分かっているものに金を掛ける必要も無い。


 

 

 

 

 

 




「…キララ、【ジグソウ】は後どれだけかかる?」

恐ろしく冗談ではないタッグを想像してしまい、ガルルが話を変える。
頭脳も然ることながら、この2人はとにかく性格が非常に悪いのだ。ガルルほどこの2人の性格の歪みっぷりを知るものは居ないだろう。

「何とかフルシステムオープンまで21時間24分。オペしてから全然時間経ってないし。コンタクトはあと2時間かかる…」
「フルでなくとも限定起動は出来ないのか?」
「【ジグソウ】に限っては限定起動なんて上手く行った試しが無い。便利だから勝手に開いていくんだ。無理」

現在のキララはコードもラインもサブ機能が一切使えない。コンタクトもゴーグルも無いので完全に『自分の脳』だけでデータ処理をしている。
常人から見れば十分過ぎるほど手の動きは早いが、やはり【ジグソウ】の便利さを知っているキララには何もかもが遅くて苛立ちが止まらない。
モニターも今は同時に3つが限界だ。

「地球に到着する方が早いかもな」
「だろうね。あーあー、私って天才じゃなかったのかな?すっげー画面遅いんだけど…」

キーを打つ早さはいつもと変わらなくても、目で追う文字も処理も全く追い付かない。
一番最初に開発されたPCでも使っている気分だ。時代遅れも甚だしい。

 



【課長、宜しいでしょうか】

 

グラフィックが新しく1つ立ち上がる。

キララを『課長』と呼ぶものは諜略課の者以外は自分の小隊メンバーくらいだ。これでもキララは【大佐】なのだから。

多少抑揚のある声なので、まだ部隊としては動いていないようだ。

 

「あぁ、どうだ?」

【クルル曹長の【ジグソウver.3】移行に携わった者の全リストが揃いました。現在のジグソウチームとはメンバーが若干違います】
「送ってくれ。何か怪しそうなヤツいる?」

普段なら人を揃えるのは部下の役目で、調べるのは軍関係者全てのリストが入っているキララの仕事なのだが。
今は頭脳と照合しているだけで何時間と掛かってしまう。

【現役とメンバーチェンジした者は退役した者ばかりでした。その中で前科がある者はマザーシステムからの回答では【該当者無シ】と】
「まぁ…マザー程度で怪しいヤツが発見出来る方がどうかしてるよな…。他は?」
【申し訳有りませんがコチラでは限界です。一応ジグソウのメインサーバーにも掛けましたがコレといった事もマザーとの差異も見つかりませんでした】
「はぁ…【天下のジグソウシステム】も人工知能を入れなきゃ所詮その程度か。マザーと同レベなら高が知れてるな」

 

呆れたようにキララが吐き捨てる。

【ジグソウ】が使えない今のキララよりも、何の役にも立たないのが現実だ。

 

【システムは人が使ってこその代物。所詮機械は機械です】
「そうだよなぁ…ありがとう。ジグソウチームの方は?」
【もう1時間ほどで出征準備は完了のようです。何やら救護キッドその他、大遠征みたいな事になっているので何を考えているのか、かなり怖いのですが…】
「ん?大遠征って?」


これです、と。ピッと映し出されたモニターには、衛生局ご自慢の専用医療ドッグ。
ガルルのモニターにもそれは映った。

そして2人同時に絶句しかけた。

  「…え〜っ…と、何事だコレ?衛生局の皆様はどっかの大戦争にでも行くとか言ってた?」
  【いえ、『コレ』で地球に向かうようです】

  「凄い意気込みだな…」

モニターに映るのは衛生局で一番優秀な医療ドッグ。ただコレが出動する時は本当に長期の大戦争だけだ。
全ての治療に対応出来る仕組みだが、その分そこいらの宇宙船以上にとにかく馬鹿デカい。
はてさて、ジグソウオペはあんなに大掛かりな設備と言うか何と言うか。とにかく本当に何事かと、キララもガルルもちょっとヒいた。

「あんなに大きいのって…無駄じゃね?…なんか、色々と…。アレ、そんなにスピード出ないはずだけど…」

【全てのパーツの技師も乗っているようで、ジグソウチーム曰くそれだけ大変とのこと。で、出征理由等の申請を早く上へと煩いので…】
「あーハイハイ、『すぐやります』って言っといて。…つか、やる気満々だなぁ。私このドックが動くのどれだけ振りに見ただろう…ガルル覚えてる?」

「いや、一番最後でも【最近】じゃないぞ…俺も久し振りどころか存在を忘れていた…。だがいきなり動かせるのだからちゃんと手入れはされていたんだな…」

感心しているのか不安なのか、とにかく医療ドッグに釘付けの2人に部下が小さく溜息を付く。

特にキララだ。すっかり見入っていて、新しい宇宙船でも見ている子供のようだ。

 

【あのー、課長もガルル中尉も。感心されるのは結構ですが、ジグソウチームにそう伝えておきますよ?】

「ん?あ、ごめん。直ぐ伝えといて。やっとくやっとく。今からだけど直ぐやるから」

【分かりました。では今すぐお願いします。課長、いつでもドッグは見れますから】

「いやいや、いつでもじゃないってコレ。こんなデカイのが直ぐ動くって衛生局のメンテチーム凄いなぁ…」

【直ぐ飛べないのは課長が許可をまだ取って無いからですけどね…】

「まさか…無理やり飛ばして『途中で壊れる』なんて事は…」

「うわ!有り得る事言うなよ怖ぇなお前!?」

 

完全に世間話の状態になってしまっている。

この緊急事態に。

 

【課長!言ったら直ぐ行動して下さい。『有限実行』がモットーですよね?】

「も、もうちょっとだけ…」

【来月から課長へのお土産無しですからね】

「ゴメンナサイ直ぐやります」

 

ようやくキララがモニターから視線を外し仕事に戻る。

滅多にアウターに出られないキララにとって、外回りから帰って来る部下からのお土産と土産話が何よりも楽しみなのだ。

 

最強を誇る部隊内は、キララの命令もあるがとにかく上下関係が薄い。

課で生き残りたかったら絶対にキララを『大佐』と呼んではいけない。『課長』でもキララは相当妥協している。

部隊として動く時は「隊長って呼ばれてもまぁ仕方ないか…」と思っているが、それ以外では名前で呼んでタメ口で話したいのだ。

諜略課が立ち上がった当初にキララは自分が少しでも快適に、隊員達も気分だけでも楽になれるようにと、色々と勝手にルールを決めた結果が今のフランクな状況だ。

それは非常に好評だが、諜略部隊隊員一同【それだけはどうか!!】と、名前呼びタメ口だけは泣きながら却下に持ち込んだ程だ。

『自分達の隊長を名前呼びでタメ口』だなんて良く有る話だが、相手が【キララ】となると話は別だ。エリートアサシン達でも無理は無理だ。

何せキララの強さは他に類を見ない。その上鬼才。

『アサシンじゃないのにアサシンより強い』のだから、もう人として構造がおかしいとしか言えない存在なのだから。

 

 

【全く。課長は危機感をもう少し持ってください!普段ならまだしも今はオペからまだ3時間も経ってない状況です。ご自身の事でもあるんですからね?良いですね!】

「そんなに怒らなくても…一応私、みんなより偉いのにさ…」

【子供じゃないんで拗ねないで下さいよ…。そろそろしっかり気持ちをシフトチェンジして下さい!早くドッグの出征許可下さい!もう、ホントに向こう煩いんですから!!】

「分かった!!今から超頑張るから!だからお土産はちゃんとね!!無かったら怒るからね!?」

【ご無理はなさらず。あとジグソウチームからの伝言です】

「えー…聞きたくないからいーよぉ。絶対良い事じゃないもん…」

【いいえ勝手に喋ります。内容は『絶対に無理をしてジグソウを開くな』、とっ…】

その言葉にキララの子供のようにはしゃいでいた表情からストンと温度が消える。
アサシンであっても、この表情のキララには瞬間的に構えを取りそうになる。

 

殺される

 

勝ち目も無く、一瞬で殺される。

暗殺のプロであっても嫌でもそう思わされる。どれだけはしゃごうが、子供のように我が侭であっても、ムードメーカーであっても、それはキララの一部。

本質は最強部隊長であり鬼才だ。何を考えているかなんて一端の軍人に理解出来ようがない。

ほんの2、3秒だが、長く感じた。キララがニッといつもの悪戯顔に戻る。


「今更過ぎるっしょ。私は【ジグソウ】が無くても【天才認定】を貰っている身だ。コレは嫌味として奴等にしーっかり伝えといて」

【っ…わ、分かりました…】


今無理に起動すれば間違いなく【キララのジグソウ】は壊れ、地球に付く頃には一気に二人同時手術になる。
下手をすれば【ジグソウシステム自体】を失う事にもなりかねない。

「…ごめん。…もう大丈夫だから…」

【課長…、本当に無理だけはしないでください。では】

 

通信を終えてキララが溜め息を付く。

     ジグソウ(機械)と自分達。
     一体どちらの心配をしているのやら…

 

 

 

 

 

 



 



「自慢の諜報略奪部隊もあまり役に立たなかったな。それに珍しいな?部下に八つ当たりなんて」

「ちょっとね…思うところがあったもんで。ったくもー、気分悪い。…戻ったらちゃんと謝らないとなぁ。悪い事しちゃった」

「そうしろ。お前の本気はアサシンでも怖がるんだ。で?次は何をするんだ」

何をするも何も。
とにかくあのバケモノ級の医療ドックの出征許可を急いで出さなくては。


「ガルル、グランド・スターに緊急回線繋ぐからお前はしっかり耳塞いで運転に集中してろよ」

それは、つまり。

「…ガララ大佐に?」

兄妹仲が軍どころか宇宙ランキングでも上位に食い込む程仲の悪い、この世で最も嫌いな兄のガララを動かすという事で。

「そう。ムカツクけどアイツを動かさんとどうにもならん」

ガルルにとってはセクハラが待っているという意味だ。これは本当に出来る限り聞かないに限る。
キララが先ほどみたいな殺気は篭もっていないがこれまた嫌そうな顔と声でグランド・スターへ緊急回線を繋げる。
数秒後。


【ハイ。中央母艦グランド・スターです】
「参謀本部諜略課のキララだ。ガララ大佐を速攻呼び出して貰いたい」
【現在ガララ大佐はお休みになっております。ご予約等は…】

 

その言葉に。

あまり切れてはいけない折角一生懸命繋げた神経達が。

大量に一気にブチ切れた音がガルルにしっかり聞こえた。


「緊急回線使ってんだよ!何がお休みだ!?叩き起こして引っ張り出せ!!」
【で、ですがっ!】
「いーからさっさとしろよチャキチャキ働け!コッチは不眠不休だボケ!!私も階級は『大佐』だそれでも文句あんのかっ!?」
【ありません!少々お待ちくださいっ!!】

そう言うとモニターの向こうの受付役が急いで動き出した。
キララと言えば本気で頭に来たのか、あと少し突付けば今にも船を壊さんばかりだ。

「あー!!!腹・立・つ・なっ!!」

ゴス!っとガルルの運転席が壊れない程度に蹴られた。
怒りのぶつけ所が少ないにも関わらず、良く見付けてやってくれるものだ。

「落ち着け!と言うか蹴るな!事故る!」
「これでパジャマで出てきたら…もう私、何するか分かんない…」
「死にたくなければ何もするな。今の速度で宇宙船が壊れたら無事で済まない事くらい分かるだろう…」

軍で一番早い宇宙船をウラシマ効果の出ない限界の超高速で走らせているのだ。
壊れたらもう事故を通り越して昇天確実だ。『天国一直線便お二人さまご案内』になってしまう。

【っ、大佐が起きられました!切り替えます!!】

現役どヤンキーをマジ切れさせた恐怖を体感したらしい。先ほどの受付係の声がかなり震えている。

この受付係りはまだ入隊したてなのだろう。

2人は一発で兄妹と分かるほど似ているし、何よりこの大佐兄妹の仲がどれだけ悪いかを知らないと言う事は当然新米となる。

視界に相手が入っただけで。気配を察知しただけで。損害を全く考えない喧嘩…と言うより戦場以上の殺し合いが始まると言うのに。
色々可哀想に…、と何となくガルルが同情していたらパッとモニターが切り替わり、そこに映っていたのは。


【…何だキララ…】

こちらももの凄く不機嫌大爆発のガララだった。
デスクに肘を突いて両手を組み、その上に顎が乗っている。いわゆる『碇指令のポーズ』だ。
流石は兄妹。元々良く似ているがキレると眼が完全に一緒だ。
軍服のままで執務室なら仮眠中だったのだろう。寝起きが悪い上にこの世で最も嫌いな妹のキララからの強制起床なので更に拍車を掛けて機嫌が悪いようだ。
普段の穏和な企み顔や『実は1/fが含まれている』と噂される、安らぎの揺らぎボイスからはかなり程遠い。

「クルルの【ジグソウ】が部分的にだか破壊された」

見たことも無いガララのヤンキーなのかとにかく柄の悪い顔つきにガルルが引きつる。こんな表情は多分兄妹間でしかしないのだろう。
まさにキララの男版だ。似すぎていてそれも恐い。確か歳は相当離れているはずなのにそっくりすぎる。
だがそんな事はお構い無しでキララは喋る。

「ジグソウチームは纏めてあるから直ぐに出征許可を出せ。あと私とガルルのもな。かなり急ぎだ」
【…命令するな喧しい…】

ガララは捲し立てて飛び込む妹からの言葉に顔が既に凶悪だ。
今はガルルが居ようが居まいが関係無いらしい。きっと視界に入っていないのだろう。

「あと地球で色々やるからその後始末もだ。私も今ジグソウが使えないから手間取る」
【…だから煩い…自分出来るだろう?…コッチは4日寝ていない…】

それだけで起こしたのか?と、ギン!と睨み付けてくるガララに。
背後で同じ顔の女版が殺気全開になったのがガルルには分かった。



   「ケロロ小隊の指揮官はテメーだろうがボケぇええええ!!じゃなかったらテメーなんかに連絡するかぁああああ!!」




再びガルルの背凭れにガン!!と一撃を加えたあと。

「良く聞けこの寝ボッケーが!!!【ジグソウシステム】が壊れるなんてありえ無ぇんだよ!それが壊れたし対象者がクルルで指揮官はテメーだ!どう考えても私から上に言うよりスムーズに全部行くだろうが!!」


【………】

「ケロロ小隊は【ジグソウ】自体を知らねぇしプル姐しか動け無ぇから今必死なんだよ!そもそも私は『ケロロ小隊とは全く関係が無い』のに何で兄者より先に連絡来るんだよイミフ過ぎんだろ!?そこら辺どうなってんだよ!!何か巻き込まれた感が満載だしマジふざけんなっ!!」

【……キンキン煩い…】

「煩ぇ黙って最後まで聞け!!事の重大さは分かっただろ!?んでもってこれが一番スムーズで自然な流れなのも!!」


数秒ガララの瞳が閉じた。
そして。


【…お前のジグソウは何故起動していないんだ?】
「色々あってね!!ったく、やっと頭回りだしたか…」

言うだけ言って少しはスッとしたのか、キララの怒鳴り声がようやく止まった。
ちなみにガルルは耳鳴りが止まらない。狭いのだこの宇宙船は。

【取り合えず上層部だな…何も言わずに出てきたのか?】
「一応『兄者に呼ばれた』って事にしてやったよ。手柄はやる。今衛生局は戦争並に体制整えてるから、あとは兄者が『緊急要請』で呼んでそのまま地球へ送れば良い」
【ふむ、流れは分かった。直ぐに『要請』という形にしよう】

漸く凶悪顔が解凍されているが事が重大だ。
急いで本部に要請を出しているようだが表情はかなり厳しい。

「マジで急げよ?クルルがぶっ壊れたら兄者だって厳罰どころじゃない」
【待ち構えるのは死刑以上だろう?とにかくキララ、お前が使い物になるまでにクルル曹長はもつのか?】
「プルル看護長様の腕次第。あと地球人に大量接触とケロボールも使うから宜しく」
【何とかするが殆んど事後報告になるな…。あまりハメを外さないように。あと上からの処分の覚悟は何処まで有るんだ?】

 

ガララの言葉にキララがハッと鼻で笑う。

そして。


「んなもん無ぇよ。有るわけねぇだろ?」

【なに?】

「処分対象は指揮下にいるケロロ小隊からの緊急回線が最初に回らない兄者の方じゃねーのか!?じゃあな!!!」



会話は強制的に終わった。
と言うか、キララが一方的にモニターを切った。



「…大丈夫か…?」
「何と、か…」

ゼーゼーと、終始これでもかと叫びっぱなしだったキララがボスンっとシートに倒れる。
まだ軽く息切れしている。

「ゴメっ、嘘……そろそろ目ぇ飛び出る…頭、痛い…」

切れ切れの言葉たち。
短時間で義眼を酷使し過ぎたのだろう。
まだ術後間も無い上に新しい義眼なので、上手く神経が馴染んでいない。

「少し寝ていろ。今出来る事は全てやっただろう?」
「うん…」

ガルルから冷えたタオルを貰い、キララのトーンが一気に下がる。
冗談一切無しで、あまり脳神経に無茶を加えると【ジグソウ】を開く時間も遅れてしまう。
パソコンはそのままにシートを倒して眼を閉じる。叫んだせいで本当に今にも義眼が勢い良く飛び出しそうだ。


「…ねぇ、地球の方…大丈夫かな」
「ケロボールはどうやら未だに地球人の少年の手の内らしい。説得やその他、プルル1人でどこまでやれるか…」

小隊に対してはプルルの最強の武器である『女王の威圧』でどうとでもなるだろう。
問題は地球人に対してどう出るかだ。

「確か…死刑じゃなかったっけ?武器取られたら…」
「第8条だ。まぁ今更だろうソコは。今回は少年に保管されていたからこそ助かった形になる。それよりケロボールの保管理由は少年がケロロ君との友情の証らしい。それをケロロ君ならまだしもプルルが言って素直に渡すかどうか…」
「逆にプル姐だから…『安全』とみなして渡してくれるんじゃないの?」
「それが一番だな。あとは地球人達をどう言いくるめるか…」

不安は耐えない。
問題は山積みだがここはプルルに任せるしかない。


「ねぇガルル…」
「どうした?」

  痛むのは、人工神経か、自分の神経か。

「たった1つのシステムが部分的に壊れただけで、軍がこんなに大慌てだよ。…馬鹿馬鹿しい…」
「キララ…」
「そう思わない?壊れても【軍人がたった2人死ぬだけ】の話なのに…。少なくとも私はそう思うよ」

「その2人が軍にとって財産となるのだから…必死にもなる…」

既に2人は軍人として扱われていない。軍の所有物であり、【財産】なのだ。
人でもない。アンドロイドでもサイボーグでもない。ならば一体何なのか。いつの間にか、【軍の財産】と呼ばれるようになっていた。

軍人としてでは、無く。

「…もう直ぐケロンも滅ぶよ…」
「どれだけ昔の話だ。もうそこまで星に自然は無い」

星自体が科学で全て固められている。
石の一つ、砂の一粒も、もうケロン星には金を出さなければ手に入らない。

今星にある自然は全て外部の星から移植されたものだ。それをケロンに合わせて品種改良してある。元々の自然は厳重に幾重ものガードの中だ。
高度科学文明は、自分達の星さえ『機械』に変えてしまった。

   星にとって。良い事なのか、悪い事なのか。
   そんな事は関係なく自分達の為に。


「…まるで滅んで欲しいような言い方だな」

 

オペの前もそうだった。

今日のキララは【ケロンの消滅】を望んでいるかのような事ばかり言う。

ガルルの言葉にキララの口元だけが笑う。

 

「滅べばいいさこんな星。どれだけ私達が他の星を潰して滅ぼして来たと思ってるんだ?【ウチに限って】とかお粗末な事は無い」

「…………」

「数え切れない種を滅ぼしてきた。なーんの罪も無い他種の軍人『以外』も皆殺し。あまつには種の存在の象徴である星も消してきた。そろそろケロンじゃない?」

「キララ…」

「ケロンが宇宙1の科学力とか馬鹿だろ。科学力を上回る力なんていくらでもある。それが『自然現象』だ。科学で殺したケロンに生き残れる道がある訳無いだろ」

 

ガルルには二の句が告げない。本当にそうなのかどうか、分からない。

【鬼才】がはじき出した故郷の未来はそれしか無いのだろうか。

コレが…キララの本音なのだろうか。


「…何か、虚しくなる…ケロンじゃ『本物の自然を見た事が無い子供が普通』だなんて、地球人には信じられんだろうな…」
「地球も徐々にケロンと似たような道を歩み始めているが文明の発達が間に合っていない。それに星の性質が合わないようだが……どうしたんだ?」

科学の星で生まれて、今や科学者の塊のようなキララだ。
普段はこんな事、絶対に言わない。

「…さっき言ったじゃん」

地球に着くまで、眠っていよう。
違う。
神経に電気の熱が溜まっているから静かにして冷やすが『正しい表現』だ。
排熱があまり上手く行っていない。


「馬鹿馬鹿しいって…」

 

 

熱暴走を起こす危険が有る【生命体】がいるなんて。

それが自分だなんて。

 

 

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