「…ガルル中尉」

「ハッ」

 

執務室で今日もドッサリ身長超えしそうな書類を運んできたガルル。

そんなガルルを椅子に座って見ながら大佐が呟いた。

 

「私は外に出たいよ」

「……、はぃ?」

 

 

 

 

 

◆趣味?恋愛◆

 

 

 

 

 

出たけりゃ勝手に出ろ。

 

取り敢えずガルルの内心はそれだった。ただし出られるものならなと思いながら。

この書類たちを捌き切る事が出来ない限り、外どころか部屋からも出すつもりは毛頭ない。

遊び呆けていたせいで仕事のツケが溜まったから出られないという自覚があるのだろうか…。

…無いから言える言葉だ。

 

「大佐、口を動かすのと同時に手や目は動きませんか?」

「動かしているじゃないか…。もう私の右手首は腱鞘炎寸前だ」

 

イヤイヤと子供のように拗ねながらも、凄いスピードで目を通して採決や書類不備などを振り分けている。

仕事は当然だが出来るのだ。伊達に【大佐】などという階級ではない。ただ、やらないだけで。

他の部下の前ではキチンと振舞うくせに、何故か自分の前では素なのか何なのか矢鱈と子供臭い。我侭だ。

今だって【中尉がいなければやらない】と、ガルルにだって仕事が有るにも関わらず命令されてこのザマだ。

コレほどまでに職権濫用をしても良いものなのだろうか。正直に、何考えてんだ。

 

「『今日の分』が終わったら外に出てもいいかい?」

「終わればいくらでも好きなだけどうぞ。終われば、ですが」

「こんな程度、一時間も掛からないよ。ガルル、終わったら付き合ってもらうよ?」

 

瞬間、大佐の眼の色が変わった。同時に動きのスピードも。

その表情にガルルが内心、やっとやる気になったかと溜息半分・ちょっと格好いい半分と複雑になる。

キッと真面目な仕事モードになれば、やはり格好いいのだ。一応恋人だし……一応……い、いちお、う…

 

「ガルル?」

「ハッ!!」

「えっ、…いや、そんな大声で返事は…」

 

自分の大声にビクッ!と強張る大佐に、失礼しました…と一言返す。

女性と付き合った事はあったが、男性で大佐と付き合い始めてからガルルはたまにこうなる。

自分はこうも乙女思考だったとはと、色んな意味で羞恥の海に溺れるのだ。

 

クールで冷静。

そもそも自分は憧れを持たれる側だった筈なのに。

 

逆転するとこうもキャラが変わってしまうのかと、ガルル自身が自分に慣れないのだ。

正直自分が気持ち悪い。

直ぐに心を落ち着けいつものキッ!としたエリート士官の表情に変わる。声も何とか上ずったりしないように声帯にど根性だ。

 

「どうされました?」

「いや、随分複雑な表情をしていたからどうかしたのかと…」

「何でもありません。お気になさらず書類を仕分けてください」

 

純粋に心配されているのが、嬉しく思う。と、同時に『そんなに顔に出ていたのか』とまたパニックになりそうになる。

 

だから、気持ち悪いからやめてくれ俺の表情筋…。

 

絶対にギロロに見せられない顔だ。

というか、誰かに見られでもしたら自殺するかもしれない。

 

 

「ところで大佐、もし奇跡的に書類が終わったとして。外と言っても何方へ?」

「あぁ、別に何処でも良いがね。最近外に出ていないから運動不足もあるし、何処かの侵略戦に勝手に紛れ込もうかと」

「その侵略部隊の邪魔です。軍内の訓練用シュミレーターで我慢してください」

「あんなパターン化されたものはやり飽きてしまったよ。私も君のようにデスクよりフィールドのほうが好きなんだ」

 

フッとガルルを見ながら大佐が笑う。だが作り物だ。笑顔ではない。

確かに大佐は強い。強いからこそ【大佐】という階級なのだが、名ばかりではなく実力が伴っている。

そして管理職なので外に出なくなったが、いざとなれば【グランド・スター】という部隊を率いて戦う事になっている。

 

「【運動不足】だなんて、良くそんな可愛らしい言葉で片付けますね…」

「そうかな?君との夜も十分運動だがソレとコレは別だろう?」

「頭ぶち抜きますよ?」

「出来るものなら。君くらいの戦闘能力がある相手と戦うのも悪くない。そしてズタズタになった君を組し抱いて心までズタボロにするのもね」

 

よし殺そう。自分の平和の為に。

鼻歌交じりで楽しそうにえげつない事を言う大佐に、無意識に次元空間から巨大大砲が出てきそうになったが何とか押し留めた。

 

何で好きなんだろうか。何で付き合っているんだろうか。

男としては中々サイテーな部類に入る気がするのだが…

 

何だか訳が分からず大きな溜息が出た。

 

「ガルル、君は真面目過ぎる。そのうち胃に穴が空くんじゃないかね?」

「空いたら確実に大佐のせいです」

「もっと聞き流すというか、スルースキルを身に付けなければ。そんなに真面目ではこんな男ばかりのむさ苦しい軍隊は何も楽しくないじゃないか」

「…大佐ほど軍内で部下(主にガルル小隊)を使って遊んでいる方もそうそういませんよ…」

「そのくらいしないとストレスが溜まるからね。休暇が中々取れないから蓄積されてしまう」

「私も休暇なんてほぼ無いんですが…」

「だからこそもっと『楽しみ方』を見つけたらどうだ?と言っているんだよ。そうだね、楽しみを見つける事を趣味にするのも悪くない」

 

 

まぁ確かにコレと言った趣味らしいものは持っている訳ではない。

そんな暇もないし、上げるとしたら武器の手入れやそんな感じか?

…いや趣味じゃなくて仕事の一部だな。というか、大佐のお守りで精一杯だ。

 

 

「悩む表情もなかなかソソるね」

「視線は書類でお願いします。無趣味で結構ですので」

「苛めすぎて悪かったよ。機嫌を治してくれ。さて、出かけようか」

「えっ?」

 

見たくも無かったので視線を外していたら、いつの間にか書類整理が終わっている。

終わったであろう書類をあちこちに転送していた。

やっぱり仕事は出来るのだ。やらないだけで。

バサリとマントを翻しながら大佐が、不機嫌と不満しか感じ取れない表情のガルルに近付く。

 

「さぁ、付き合ってもらうぞガルル?」

「……。どちらへ?」

「そうだね。近くの星へピクニックでも行かないかい?」

「はっ?」

 

さっきまで戦う気満々だった癖に。

いい大人の男が、二人でピクニック?

 

「気分転換は普段やらない事をやるのが一番だ。やらず嫌いで案外面白いかもしれないだろう?」

「…、大佐。どう考えてもその光景は多者からは視覚的暴力かと思われますが。それでもするのならば護衛の手配をします」

 

何を考えているのかさっぱり分からないガルルの手を取り大佐が笑う。

今度は、本当の笑顔で。

 

「単純に、『デートに誘っている』と気付いて貰えないのは寂しいね」

 

護衛手配をしようとしていたガルルの手が止まった。

 

 

デート?

………。

え、何言ってんだこのオッサン?

いや、自分もオッサンだけど…

 

 

「そんな暇があるならば仕事をして下さい!」

「何を言う。もう終わった。『今日の分は』と私は言っただろう?そして君に『付き合え』とも言ったはずだ」

「大佐の仕事は書類整理以外にもどれだけあるとっ」

「そんなに真面目に育てた覚えはないぞ?ほら行くぞ。さぁデートだデート」

「貴方に育てられた覚えはありません!!手を離してください大佐!!」

「恋人同士の大切な心の触れ合いじゃないか。身体ばかりだとセフレ感覚になってしまわないか心配でね」

「口を謹んでくださいませんか本当にっ!!」

 

どうしてこういう時は手も口も足(反重力で動いていないが)も同時に動くんだ!!

グイグイと引っ張られてはガルルも抵抗が出来ない。単純な力比べなら大佐の方が強い。

さっさと執務室から出て専用の宇宙船に向かっている。

 

「さて、思い付いたのがついさっきで君の手作り弁当じゃないのが残念だが。この際ソコは妥協だな」

「何処に行くつもりですか!?せめて誰かに言わなければっ!!」

「フラっと遊ぶ事も出来ないのは本当に面倒だね。聞かれれば適当にその辺の星でいい。ほら乗って」

「うわっ!?」

 

グイっと押し込まれて宇宙船に乗り込む形になったガルル。

なんなのだこの勝手気ままな男は!!

 

「私が運転しよう。ピクニックは君の手作り弁当まで延期だ。今日はドライブデートに変更だ」

 

そして本当に運転席に座り、本来数名が必要になる宇宙船をたった一人で発進させてしまった。

 

 

 

 

 

「ガルル、何処か景色のいい星を知らないかね?」

「……。ドライブじゃないんですか?」

「星ばかりは見飽きた。何処かの星の景色を見ながらのドライブだよ」

 

楽しそうに運転している自分の上官。自分の恋人。

何で好きなんだろう。何処に惚れているんだろう。

ソコについて良く考え検討すべきなのだが、全く考える隙を与えてくれない程振り回してくる恋人。

面倒臭い子供。

 

「…大佐」

「なんだい?流石に怒ったか」

「私の趣味が見つかりました。貴方の操縦】です

 

振り返った大佐は少しキョトンとしたあと、またいつもの笑顔に戻った。

そして自分も、やはりその笑顔が好きなのだから。もうどうしようもないのだろう。

考えたって分からない事だらけなのが恋愛と言うものだ。

 

「良い趣味じゃないか。ちなみに私の趣味は知ってるかい?」

「えぇ、私をいかに限界沸点突破ギリギリまで持っていくかでしょう?怒らないギリギリまで」

「ま、それも一つだ。もっと大きく言えば君を存分に振り回して色んな表情を見る事だけどね」

「見終わったらこの関係は終了ですか?」

「さぁ。それはまたその時に考えればいい」

 

その時にならなければ、分からない。

 

「そうですね」

 

流れる星達を見ながら、『上官』ではなく『恋人』の運転する宇宙船に乗って。

 

今から二人で何処へ行こう?

この先二人は何処に行ける?

 

それを考えて楽しむのも趣味の一つに加えておこう。

 

 

 

End.

 

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【大ガル祭2】が始まったので、『今回も絶対参加してやるんだー!!』と勢いで書きました。やっぱ好きだ紫。

前回に引き続き相変わらずガルルが乙女ですが、違うんです。大佐が大人過ぎるんです。包容力抜群!!

ケロン体だと格好いいイメージの大佐ですが、自分の擬人化だとめっちゃキララに殴られてばっかりなんだよなぁ(汗)