ケロン軍精鋭スナイパー・ガルル中尉。
彼の瞳に捉えられたら色々全てが最後だ。『終了のお知らせ』が何処からとも無く聞こえてくる。
だがそんな瞳には、時に捉えたくないモノも勝手に入ってしまうもので…
◆ソコはスナイプエリア外で◆
「ふむ、御苦労だったねガルル中尉」
「はっ」
いつもの様にガルルが任務報告を大佐に伝える。
それは『いつも』と変わらない事だ。
だが今日は『いつも』と大分違った。
「…ガルル?どうかしたのかい?」
報告書を受け取り目を通す大佐も些か違和感を感じた。
と言うか、些かどころでは無い。
いつもなら報告書を渡したら一礼をしてさっさと出ていくのに、今日はまだ部屋に居るのだ。
それも【獲物を捉えたスナイパーの瞳】でジッとコッチを見ている。
正直、その射抜く視線を向けられるとコッチが怖い。
「大佐、これは私が大佐に申し上げるにはプライベートであり分相応かと存じますが」
「あ、あぁ…。何かあったのか?」
ギラリと睨み付けてくる時点で十分に分相応なのだが…
言いたい事があるならさっさと言って欲しい。睨まないで欲しい。
いくら相手が愛しいガルルでも。
いくら『別に部屋で二人きりなんだからプライベートも何も…』な状況でも。
怖いものは怖い。
射殺されそうな瞳で見られながらではこっちも報告書なんかまともに読んでいられるわけが無い。
「歯切れが悪いなんて君らしくも無い。ハッキリ言いなさい?」
そしてせめてその眼を止めてくれ。
折角の二人きりだと言うのに軽く殺意の入った眼で見られ続けるのは…
「では僭越ながら」
大佐の言葉にピコピコとガルルが歩み寄る。
何だ、私が何をした?!
まさかの接近に若干後退りしたくなるが、ここは大佐の意地と威厳がある。
「失礼」
プニ。
ガルルの手が摘まんだのは。
「な、何をするっ!?」
大佐の腹の肉だった。
「やはり…。太られましたね?」
「ガルル離せ!一体何なんだ!?」
「何なんだ、ではなく。『不必要な贅肉が付きましたね』と言っているのです」
積まんた肉をプニプニしながら、ガルルはいつも通りのクールな口調だ。
「普段からフヨフヨ浮いている上に最近はデスクが多かった。逆光で紛らわそうとしても分かりますよ?」
「うっ!」
それだけ言うと、ガルルは手を離して数歩下がり。
今度は射殺では無いものの、軽く非難の視線を真っ直ぐに飛ばしてきた。
その眼に大佐は冷や汗以外に何も出ない。
何せ、事実だからだ。
プライベートの関係もあるが、仕事上でも円滑に進めるために『言いたい事は遠慮をするな』と。
唯一ガルルにだけ許した結果がまさかこう跳ね返って来るとは…
恋人同士とはいうものの、半ば強引に関係を作った過去だ。
そのせいか、ガルルは二人きりになると本当に遠慮も容赦も【オブラート】と言う社会生活において非常に大切な物で包まなくなった。
それが可愛い時もある。
顔を赤くしながら普段では考えられない噛みまくりで『愛しています』と言わせる時は男冥利に尽きる。
だが。
『可愛さ余って何とやら』という時が、圧倒的に多いのが現実だ。
「最後に体重を測ったのは?」
「いやっ、あまり覚えていないが…」
「自己体型の管理も行き届かないというのは【大佐】と言う立場を考えいかがなものかと」
フゥ、と1つ溜め息と同時に愛想まで付かれた気がした。
確かに自分は重力装置を無視していつも浮いてはいるが、それは所謂【偉い人】のアピールだ。逆光もまたしかり。
パフォーマンスと演出には欠かせないだけで、決して『楽だから』と言う意味が100%では無い。
それはガルルも分かっている筈だ。
だが分かっていて、それでも体型がカバー仕切れない程変わっているなら由々しき事態でもある。
「ど、どれ程分かるんだい?」
【大佐が激太りしたんだってぇ!!】と軍内に知れ渡れば。
それこそ威厳なんてあったものではない。
「私には十分。逆光が消えれば一般兵は失望する程には」
その見えない言葉のナイフ達をお願いだからしまってほしい。
だが『機嫌でも悪いのか?』と聞いたところで、悪いに決まっている。理由は聞かなくても夜の関係だろう。
何せ心当たりがソコしか無い上に十分にあるのだから…
「よし分かった!今後は私も気を付けるとしよう!」
ほぼ空笑いでこの話の強制終了を願い出る。
とにかくこれ以上の心へ容赦の無いナイフ乱舞とスパイク猛ダッシュは立ち直れなくなってしまう。
「そうですか。心構えが変わって大変よい事かと」
「第一、君に嫌われては私も困るからね」
さぁ誓ったぞ、さっさと退場してくれ。心臓が痛い。
そう願っていた大佐だったが、そうは問屋が卸さない。
「では早速室内ジムの方へ。勿論今からその反重力も切って頂きます」
「はっ?今から?!」
「私と同じだけトレーニングすれば直ぐに戻ります。それとも何かご予定でも?」
報告書に目を通さなくてはいけないのだが…
そう言いかけたが、ガルルの眼がまたスナイプモードに切り替わり言えなかった。
断ればまた遠慮無くハートに大ダメージを思いっきり食らわせる気だ。
だが怯んでばかりもいられない。
【ガルルと同じトレーニング】をすれば今度は身体がズタボロだ。
知恵を回せ!!
「…ガルル、私にはまだ仕事がある」
「えぇ私にもありますよ。その時間を割いて大佐に付き合います」
自分の為とはまた嬉しい申し出だが、既に死亡フラグがギンギンに立っている。
腕組みをして『さっさと付いてこい』と言わんばかりのガルルに泣けてくる。言い返せない自分にも。
だが負けっぱなしは好きではない。
真っ直ぐな堅物のガルルを口説きオとした(※半分は権力)自分をナめて貰っては困る。
悪知恵を働かせれば圧倒的に自分の方が上なのは分かっている。
そしてしっかり思いついてしまった。
「私にも君にも業務があり、それを割いてのプライベートの増加は実に効率が悪いと思わないかい?」
「えぇ悪いです。非常に悪いですよ?」
これを『毒舌』と取るか『嫌味』と取るか『恋人の為の愛の助言』と取るかは大佐の惚れた弱みでギリカバーだ。
まだ何か言い訳があるのか?と、静かに待っているガルルに大佐が近づく。
「ですから反重力を…」
「良い案がある。夜の時間を足せばいい話ではないかい?」
「はあっ?!」
耳元での囁きに一瞬で理解したのだろう。
ザッ!と離れようとするガルルの腕を大佐がガッチリ掴む。
ガルルが離そうと振り払うが生憎大佐の力は強い。ダテに【大佐】はやっていない。
焦りを見せたガルルに大佐の口元がニヤリと歪む。
今度はこっちのターンだ。
「何故離れるんだい?セックスは実に効率的なカロリー消費に加えて快楽も得られる。かつ業務に支障もきたさない」
「し、しかしそれは体力低下にも繋がります!」
「問題の出ない回数を毎日続ければ支障は無い。継続は力なり、だろう?」
どうにも自分との色事になると真っ赤になりウブな反応を見せるガルル。
それがまた可愛いのもあるが、照れ過ぎて回数が少ないのも事実だ。
今までは無理強いを出来るだけ抑えていたが、これは何と良い口実。
まさに鴨がネギを背負ってやってきた様なものだ。
「どうした?顔が赤いぞガルル中尉」
フル回転で逃げ道を探しているだろうガルルに、ソッと囁けばビクっ!と反応をする。
これで思考停止は決定だ。逃げ道を作るつもりなどサラサラ無い。
カチコチに固まっているガルルを抱き締め『勝った!』と内心ガッツポーズを決めていたら。
「……ぃいでしょう」
「ん〜?」
腕の中のガルルがポソリと何かを呟いた。
ヨシヨシと「可愛いなぁ」と撫でていた大佐だったが、次の瞬間それもまた振り出しに戻る
「私も男です。腹を括るまでの話!!」
「え“っ?」
さっきまでのウブが何処へやら。
何ですか、この男気溢れる言葉…
「大佐を満足させ、尚且ダイエットとなるならそれを私の最重要ミッションとするだけです!」
「おい、ガルル…?」
抱き締めていた腕をバン!とはね除けたその表情は、まさに戦地に向かう男の顔。
ヤバい、変なリミッターが吹っ切れている。
と言うか、ミッションとすれば恥ずかしくも何とも無いと言うことか!?
「鼻先に人参があったほうがやる気が出るならばその方法で構いません。では私は通常業務に戻ります」
「待てガルル!私を馬扱いとはっ」
「夜までにその日の書類等を全て片付けておいて下さい。あとカロリー消費の回数は、体力に関係無く遂行して頂きますので」
それでは失礼しましたと。
パタン、といつものクールモードで部屋から出ていってしまったガルル。
「えー…っと、コレはぁ…」
何かヤバくね?
そう思ってももう遅い。
その夜から大佐の体型が戻るまで、明らかに睦み合うとか愛情確認ではなく。
まさに『特訓!』と言うに相応しい連夜を過ごしたとかなんとか…
End.
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【大ガル祭り】様にどうしても参加したくて、「小説なら出来るじゃん!」と祭りも後半戦になってから飛び入りさせて頂いた作品です。
それにしても、ガルルがなんと言う強き受けに!立派に成長しちゃって!!(違)
超ツンデレなんです。恋人が太るなんて嫌な乙女なんです。格好良い大佐でいて欲しいんです。
…大佐無双や夢小説とはまた全然違う性格になった二人。。。私は紫に一体どんな夢を見ているんだろうか(汗)