一ミリも動けないような緊迫感の中。


「ふぅ…兄を『お前』呼ばわりか。本当に可愛げが無くなったな

ガララが空気を緩和させるように溜息を付いた。


「階級は同じで今は職質中だ。そして
私の方が実質偉い。私をこのポジションに置いたのが運のツキだな」


軍内警察長。
階級など関係なく全ての軍人を取り調べ、採決を下す決定権を持つ。
特別死刑執行官。
だけが持つ、軍に認可された同胞を殺す権利。


「昔は何も知らず泣き虫で私の後ろに隠れてばかりいたヒナがこうも育t」

 ズガン!!


「おっと、私は何も構えていないのに発砲とはいかがかと思うが隊長殿?」
「…その話は今必要か?」


完全に目が据わっているからの小型銃だ。
ガララの足元に大きく穴が開いている。小型の癖に破壊力がバズーカだ。
と言えば先ほどまでの隊長としての表情が崩れて、苦虫を百匹ほど
一気に噛み潰したような顔をしている。
その様子にガララは余裕の表情だ。
ガルルはのこの余裕の無さそうな顔など初めて見るが、どう考えても
爆弾だったのだろう。


「何が気に食わない。ただの昔話だろう?」
「煩い!」


この兄妹の家は星の中でも指折りの大富豪だ。
ガルル自身が休暇時に家に呼ばれた事があるので実際に見ている。だがその時の姿は見ていない。
話も聞いたこと無かったので、ガララに妹がいた事自体が驚きだったのを覚えている。
自身の過去は立場上偽造されているし、ましてや訓練所に入る前の子供時代など知る由も無い。


、お前が私より遅く産まれた限り仕方の無い事だろう?お前の
ピヨピヨ時代を知っているのは家族だけだ」
うーるっさいなっ!!!ピヨピヨ言うな!!もうこれ以上喋るな!!私の情報が漏れていいと思っているのか!?」
「それは軍内での話だろう?訓練所以前は関係無い。大方
『ガルルに知られたくない』とでも言うところか?」
「黙れ!!少しでも他に漏らしてみろ!?権限フルに使って殺してやる!!」
「ピヨ時代の写真をばら撒かれたく無かったら大人しくするんだな」
「はぁっ!?全部燃やしたはずだ!!」

冷静冷血鉄仮面を必要とされるが、ここまで取り乱し怒鳴り散らすなんて。
慌てるにガララがフッと笑う。


「馬鹿だなぁ。親が許すと思うか?家に戻れば全て元通りにアルバム保存されている。またお前が燃やすから場所は教えんが」
「チッ!今度帰ったら家ごと燃やしてやる!!」
「ウチは別宅も含めて幾つ家を持っていると思ってるんだ。いくらお前でも見つけられんようにしてある。父上に泣きつかれたからな」
「…貴様っ…なんて事を…」
「そしてお前は
本邸に帰る暇も無い。お前がメンタルで私に勝てはしない」


勝ち誇るガララ。
愕然とする
何の話か付いていけないが、どうやらの子供時代は相当な何かなのだと分かったガルル。

 取り合えず、
本当にただの兄妹口喧嘩が負けたらしい。


 



   「……。あの、仕切り直しをしても?」
   「私は構わんがが復活出来るかどうか」



本来の『ピエロ』の一件など、話の骨が
バッキバキ!のスパイラル骨折を起こしている。
取り合えず話を戻さなくては。

「っ、ゴメン何の話だったっけ…」
「ガララ大佐のピエロの話だ!!何のために来たんだこんな所まで!」


どうやら本当に相当打ち砕かれたらしい
アレだけ普段は
【自分が一番オレ様様】なのに、こんな姿は初めてだ。
心臓は誰よりも剛毛でオラウータンよりも毛深く頑丈だと思っていたが、この話題は思わぬ激しい原爆だったらしい。


「あぁ、そうだった…いや、もうピエロとかどうでもいい。私家に帰りたい…」
「どうでもだと!?ちゃんと説明をしろ!!」
「……面倒臭い…」
「お前が星から出征許可を出されること自体が異常なんだぞ!?分かってるのか!!」
「兄者に聞いといて…もうヤダ帰る…」
「何を訳の分からない事をっ!」
「ガルル落ち着け。それ以上責めると
本当に倒れるかキレるかの二択しかないぞ」
「っ、しかしっ!」


倒れてもキレても困るが意味が分からない上に帰りたい発言。
何処の駄々っ子だ。いい大人の癖に。
つい先ほどまでの殺気を纏わせた最強部隊長の姿はどうした。


「とにかく2人とも座れ。そして落ち着け。、ガルルの為に説明だけはきちんとしてあげなさい」
「紅茶出して…もー何なのウチの両親馬鹿じゃないの泣きたい…」

それだけ言うと、は応接用のソファにボフっと倒れた。


   「……………」
   「まぁ、殺り合うよりは良い結果に終わったと思わんか?部屋も壊れん」


満足そうに打ちのめした妹を見下げて、ガララも座り内線で紅茶を頼む。

本当に、付いていけない。



















「それで…一体何がどういう事だったのですか?」

漸く復活してきたが嫌そうな顔で紅茶を啜り、向かいでは勝利をもぎ取りニコやかなガララ。
ちなみに【
先ほどの醜態を言えばどうなるか分かっているな?】と、既に脅しがしっかり掛かっている。
ピエロは一体何処に消えてしまったのだ。

「…まだ分かんないのガルル?」
「はっ?」
「ここに来る前に問題出したじゃん。【現在『ピエロ』の存在は確認出来ていない。この状況から想定できる仮説を立てよ】って」

確かにそんな事を言われた。
分からなかった。
そして問題出題から今までの間で、2人の間で【ピエロ】などという単語など一度も出ていない。
カスってもいないノーヒントでどう分かれと言うのだ。


「ガルルには無理だ。さっさと実家に帰りたかったらそろそろ教えてやれ」
「…はぁ…」

がダルそうに煙草に火をつける。
目が遠いのは完全に精神に深い傷を負ったせいだろう。そしてどうせ実家に帰る余裕も無い忙しさへの辟易だ。




   「ピエロなんか
『最初から居ない』。これが正解」
 


居ない?


「な、にを…?」
「私が存在を確認出来て無い時点で気付くと思ったけど。全ては私の1人芝居。でっち上げだ」
「はぁ?!」
「『ピエロ』と呼ばれる存在が居る事は本当だ。だが私はにピエロ駆除の話などしてはいない」
「ならグランド・スターを離れてまで本部に何をしに来たんですか!?」


まさか【久し振りに顔を見に】と言う事はこの兄妹には
絶対にありえない。
たかが喧嘩をするために来たとでも言うのか。


「勿論を呼んだんだ。それ以外に何をする事がある?」
「ただし普通じゃ私は星から出られない。だから『ピエロ』っつー架空の設定を作って出てきたの。完璧な演技だっただろ?」
「ガルル、お前1人を連れて来たと言うのもいざ私との戦闘になった時に
次元空間が必要だからだろうは持っていないからな」
「良くお分かりで。何人もいれば感付かれる可能性も有る。次元空間の有り無しは相当響くからな」


  頭痛のついでに吐き気もする。
  グランド・スター到着、一時間ちょっと。
  この地獄のような時間は一体なんだったのだ。


「……私は最初から
お2人の喧嘩に巻き込まれる前提で連れてこられたのですね…」
「まぁ端的に言えばそうなる」


小隊メンバーも巻き込まれて怪我をしている。
本当に何なんだこの【大佐】と言う生き物は。
仕事をしっかりやる分と比例して、あまりにも私利私欲の為に生き過ぎている。


「…、結局お前は何故グランド・スターに行こうと思ったんだ?」
「呼ばれた理由を知りたかったからさ。ただ『取り合えず来い』って言われたら何かしら疑うだろ?」
「理由も知らず?…ガララ大佐?」
「こっちに来て『ピエロ』の設定を混ぜているとは思わなかったが中々楽しめた。乗ったかいはあったな」
「兄者、結局なんで呼んだんだよ…」


ウンザリしている
本当に呼ばれた理由を知らないのだ。


「まぁ父上たちの事を黙っていた事も有るし話そう。正直に言えば諜略部隊員の炙り出しだ。一向にこれだけは分からん」
「は〜ぁ?」
「お前が来れば必ず動くと思ったからな。だが溶け込み具合が一向にブレん。呼び損だった」
「……うちの部隊が
秘密裏だって、忘れたか?」
「あとはお前とガルルの関係が何処まで行ったのか気になってな。まぁコレも全く進んでいない。
面白く無いものだ」


やれやれと、優雅に紅茶を啜るガララ。


「2人で来るとは想定していたが何と言う進展の無さ。お前たち2人に男女と言う認識は無いのか?」
「…そうか…私をこんな大々的な暇つぶしに使ったんだな?」
暇だからなココは。あとはの動きや行動力。そして『ココ』にいつまで我慢して居られるか、そんなもんだな」
よしガルル、次元空間全開にしろ。武器は勝手に私が選ぶから居るだけで良い。自衛はしろよ」
「お、おい!?」
「『ガルルを傷物にしない』と言う条件だったろう?」
「知るか!!」


ユラ〜リと立ち上がるはどうやら完全に復活したらしい。
暇潰し扱いに加えてこの場所に居させられたこと。
この兄妹に限らず、普通の感覚を持っている者なら誰でも怒る。



「おぉそうだ、すっかり忘れていたが帰りは牢獄にぶち込んだ者を連れて行ってくれ。周りを嗅ぎ回っていた『ピエロ』だ。ストレス発散に処刑も良し」
お前も今から【処刑】する…理由なんか何とでも付けれるからな…」
「まぁそれでも私は構わんがさっさと帰りたいんじゃないのか?星というか、実家に」
「―っ!?ガルル帰るぞ!!兄者に構ってる場合じゃ無い!!」


弾かれたように思い出したのか、がそのまま部屋から出て行ってしまった。
どうやら本気で帰るようだ。


「ちょっと待て!?…ったく…」
「ガルル」
「何でしょうか!!」
「折角遠方から来たんだ。お前に一つ
最強のアイテムを与えておこう」


ピラッとガララが一枚の写真を出す。
何だ何だ?と受け取り見てみると…


に困ったらコレをアイツに見せろ。あのじゃじゃ馬を取り押さえられる者は星にいないからな」
「…もしも私の勘が当たっていれば、コレはまさか…」
ピヨピヨ子供時代のだ。中々可愛いだろう?そして人体の不思議について考えさせられる一枚だ」


まさに絶句ものの写真だ。
そしてまた、ガルルも
人体の不思議について考えさせられる事になった。
どこをどう間違えたら【コレ】が【アレ】になるのだ。


「おーいー!!さっさと来いガルル!!運転手はお前だろうが!!」
「っ、では失礼します大佐!…あの、一つ質問を」
「何だ?」
「何故こんな写真を今お持ちで?」
「それ一枚では暫く動けん。執務室を壊されては堪らんからな。言っておくが私はお前が一番だ」
「最後は聞えませんでした。では失礼します」
「あぁ、また顔を見せてくれ。あと写真だが見せて復活したあとは化け物になっているから
本気で逃げる時の足止め用にだけ使うんだぞ?」
「…それくらい、分かります…」


明らかに疲れて哀愁を漂わせているガルルを見送り。
ガララが本部にアクセスしたのは。


 


「…プルル看護長、今2人は帰ったぞ」
『そうですか。お疲れ様でしたガララ大佐』

  何故かプルル。
  何故か嬉しそう。


『それで、ちゃんどうですか?』

勿論プルルはピエロがどうだの、ここで何が起こったなどは知らない。
聞きたい事はそうではない。

「良い方にメンタルは改善されていると思うぞ。私を見ればとにかく
マンモスみたいな牙で突進する癖が無くなった。落ち着いたものだ」
『そうですか。良かった…』
「少佐時代の血の気は多少減っただろう。それどころか私の前で顔を赤くして照れるなど…逆に私がどう反応して良いか分からん」
『お2人の喧嘩は日常茶飯事で凄かったですからねぇ』
「全くだ。だが全体的には良い兆候だろう。大人になってからの照れた顔など初めて見たが、中々やはり妹だなと痛感したよ」
ちゃんはとっても可愛いんですよ?漸くお気づきになられました?』
「だがなぁ…」

む〜、とガララが考え込む。


「アレは君が言うようにフラグが立っているのか?のツンデレは知っているが何も無かったぞ?」
『それがウブで可愛らしいんじゃないですかぁ!折角の2人きりでしたし♪』
「まぁ
【困ったら取り合えず殴る】が無くなっただけいいが、ガルルも良く分からん。本当に好いているのかね?」
『隊長は私もちょっと分かりかねますがちゃんは本当です。女の勘は当たりますよ?』
「ふむ…。一番近くに居る君が言うのだから間違いないだろうが…」

とっても詰まらなそうに溜息を付く。

「暫く振りだから多少は発展していて
泥沼にでもしてやろうと思っていたから随分な肩透かしだ」
『純情で照れ屋ですから、あんまり下手なことをして怪我させる事は止めて下さいね?治療するのは私なんですから』
「分かっている。引き続きを頼む。随分君を慕っているからな」
『了解。では失礼いたします』


こんな感じで実は
三流昼ドラの実体験を期待していたガララ。
そして
2人の進展具合を期待していたプルルだった。












そんな2人の全く別の思惑など微塵も知らず、とガルルは帰還する事になった。
その間は延々と実家に連絡を取りつつ、諜略部隊を向かわせていた。
とにかく子供時代は今のにとって
死ぬほど見られたく無いらしい。


「クソッ、なんかまた家増えてる!!全隊員に通達!家だけじゃなくて会社も子会社もとにかく関連がある場所は全て調べろ!!」
「見事な職権濫用だな…」
『課長!ご自身のご家庭状況を分かって仰ってますか!?』
『会社も子会社もって、それ以外にも隠し場所なんていくらでもありますよ!?星丸ごと探すことになっちゃいますよ!
「頼むから!頼むから金でも何でも握らせていいから見つけ出してくれ!!本当に頼むから!!」
『そもそも課長の子供時代の姿を知らないのに探しようが無いです!せめて一枚でもデータ下さい!!』
「それは嫌だ!!でも頑張って!!」
『では課長の今のお顔から逆成長データを作成して…』
「ソレも止めてぇええええええええ!!!!!!」


まさに無茶苦茶だ。
いくら特殊最強部隊でも、隊長のがコレでは隊員たちも流石に混乱の極みである。

(可愛らしいお嬢様だったがそんなに嫌なのか?確かに
ふわふわピヨピヨしていたが…)


面影はしっかり残っているし、一発で子供のと分かる写真だった。


「絶対!絶対に消して!!多分裏コードデータとかも有ると思うから!全部消して!!」
『課長、取り合えず落ち着いてください!まず【ピエロ】を持って帰るの忘れていませんか?!』
「あっ…。ガルル!?」
「ちゃんと連れてきた…。落ち着け。取り乱すにも程が有るぞ?」


最強部隊の隊長も所詮人の子。
冷血を求められるをここまで崩せる一枚の写真を持っているガルル。


   
少しだけ、お守りのような感じだ。



「あ!!ヤバイ兄者殴るの忘れた!!もーヤダもーヤダホントヤダ!!!」
「いい加減静かにしろっ!!」





end.

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ペルソナ(仮面)がクラッシュしたのは大佐ではなく課長でした。ピエロなんて全てソロプレイで自爆とも言います(笑)
もっと殺伐兄妹大喧嘩となる予定でしたが、課長が1人でパニックになる方がいいかな〜と。
最強を誇る課長を倒すには、子供時代のピヨピヨお姫様な写真で一撃です!

プルルお姉さんは何処に潜んでいるやらか分かりませんw