ケロン軍にて裏的な意味で最強を誇るだが。
「な、ん…なの?ガルル…」
後ろは壁。前にはが大嫌いな物を装備したガルル。
現在軍入隊以来、最悪の瀬戸際に立たされている。
●至上最悪の鬼ごっこ 〜私が何をした?!〜●
それはほんの五分前。
いつも通り出勤していつも通り仕分けを始めようと椅子に腰掛けた時。
「失礼致します」
と、ガルルが入ってきた。
ここまではいつもの日常の一コマだ。
「はいおは…」
ただし今日のガルルの装備品がを絶句させた。
ガルルの腕にあったもの。
ボール一杯の納豆とかき混ぜる菜箸。
取り敢えずこの状況にの思考が止まりかけた。
朝から何事だ。意味不明過ぎてある意味緊急事態だ。
確かには納豆が嫌いだ。
食感も匂いもダメだ。
とろろ芋は平気なので粘り気が嫌いな訳では無いのだか…
「…えーっと、ガルル中尉…?」
仮に【いつも悪戯を引っ掻ける腹いせに、の嫌いなものを持ってきたもの】と仮定しよう。
だが突然、しかもボールから溢れんばかりの納豆を持ってこられてどうリアクションしろと言うのだ。
確かに食べないが、見るのも耐えかねる程は子供ではない。
泣き叫んで拒絶するとでも思ったのだろうか?
ゲロモンの悪夢と呼ばれる程の男が何故真面目な顔して納豆を?
「日頃より大佐は栄養摂取の仕方が良くないと思い」
ツカツカとガルルが納豆をかき混ぜながら近付いてくる。
ねっちゃねっちゃと、真面目な顔をしてかき混ぜながら。
そのミスマッチ過ぎる光景に、には今は笑うところかヒくところかの判断力も消えかけている。
「い、イマイチ…よく分からないんだけど。まさか局内をソレかき混ぜながら歩いて来たとか?」
「そうですが」
そんな物をかき混ぜながら練り歩くとは、参謀本部を納豆臭と爆笑で制圧しに来たのかコイツは。
誰もツッコミを入れられないのも把握の上でなら質の悪さが酷すぎる。
……等と。
『ツッコミたい』のと『笑いたい(笑うと判断した)』のと『近づくガルル』の三拍子に、何から言えばいいのから分からないに。
「食べていただきますよ?」
「まぁ…そう来るよねやっぱ…」
ついにデスクを挟んで納豆ボールを抱えたガルルが来た。
もしかしなくてもコイツ、頭おかしいんじゃね?
まだガルルが自分の護衛に付いて短いがもう分かってしまった。嫌な現実だ。
ゴン!と勢いよく置かれる納豆。完全に目の座っているガルル。
「食べないよ…。凄い匂いだからそのままUターンして…」
嫌がらせだ。
どう考えても嫌がらせだ。
真面目を隠れ蓑に実は虎視眈々と狙っていたに違いない。
それにしてもガルルは『納豆ボールを持って参謀本部を練り歩いていた』と言うこの事実。
これがどれだけ新米達をビビらせ、他からは爆笑を生むか分かっているのだろうか?
出来ればも爆笑する側にいたかった。
だが今回はピンポイント狙いでターゲットは自分。
まさに悔やまれる…
「納豆がお嫌いですか?」
「エリート仕官様がわざわざ局の入り口からポーカーフェイスで持ってきたとなると余計にね…」
なんとか納豆臭は空調設備で薄れるが、いかんせん距離が近い。
煙草でなんとか臭いを紛らわそうと取り出すが。
「ちょっ!?」
「食してからにして頂きましょうか」
即座に没収されて次元空間に消えた。
まるでゴミ箱のように使われる次元空間を取り上げてやろうかとイラ付くが、さても退路が無い。
デスクには大事な報告書の上に存在感抜群の納豆ボール。
後ろはガラス。だが今日は飛行ユニットが無いから落ちたら死ぬ。
納豆ボールを通過出来ても、そこにはガルル。明らかに自分より身体能力は上だし何故か目がイっている。
流石に納豆程度でガルルを撃つわけにもいかない。自分も巻き添えで笑われる。
あれこれ瞬時に考えるが、流石にこれはも予測出来ない事だったので対応策が見当たらない。
そもそも納豆ボール抱えたガルルなんて誰が想像出来るか。
せめて何かの罰ゲームでやらされているならまだしも、多分本人発案で実行なので痛すぎる。
本部に知れたらガルルファン達の士気は超高速でデフレスパイラル決定だ。
「ガルル…。一つ聞いてもいい?」
「何でしょうか?」
「私が納豆嫌いって、何処の情報ソース?」
確かそんな事を誰かに話した覚えはない。
の言葉にガルルが意外という顔をした。
「そうですか、お嫌いだったのですね」
ま さ か の 墓 穴
やってしまった。
自分が墓穴を掘るなんてあってはならない!!
諜略部隊長として絶対にあってはならない!!
しかもこんな凄く下らない事で!!
「栄養価を考え偶々持ってきただけでしたが、これは都合が良い」
ガルルがポーカーフェイスから、ニヤっとアルカイックスマイルに変わった。
そんなガルルのしてやったり顔など見たくも無い。
「んなもん買ってる暇があったら仕事しろ!!」
「っ―!?」
ピン!とが怒り任せに閃光弾を炸裂させる。
今日は課の人間は全員外だ。その上護衛役が反旗を翻すなど堪ったものでは無い。
誰にも頼らずに逃げなければ!!
急いで課から飛び出すが、ガルルも負けてはいない。
直ぐ様納豆ボールを抱えて追いかけて来た。
「大佐!納豆を食べなさい!」
「いい大人が阿呆か!?つか叫ぶな!大豆なら摂取してる!!」
「摂取の方法が身体によいとは思えませんね!」
「ボール一杯の納豆の食べさせられた方が身体壊すわ!!」
の考えでのガルルの今回の行動過程。
中々まともに食事をする暇の無いの強い味方はソ●ジョイやカロ●ーメイト等の10秒メシに栄養ドリンク。
確かにガルルは口喧しく『食事をキチンと!』と毎回言っていた。
取れないのはのせいでは無いのだが、とにかく『軍人たる者身体が資本!』と喧しかったがは当然無視だ。
多分その辺りでガルルの思考が変な方向に行ったのだとしか考えられない。
「私から逃げられるとお思いですかな?」
「チッ!」
既に横にはガルルと納豆ボールが平走している。
なんだこの面白い光景はと暖かく見守る局員達。
走れば走るほど局内が納豆臭で汚染されるが、とにかくは目的地まで走らなければ。
「大佐も前線から離れてしばらく経っていますから」
確かにデスクに入ってから体力低下は現在進行形でひしひしと感じている。
だがそう言う問題以前にガルルの身体能力が基本的に高過ぎる。
「何で納豆に拘る!?大豆摂取だけ考えれば豆乳だって飲んでるじゃんか!!」
スタタンっ!とアサシン顔負けの動きでが天上裏に入りある場所へ向かう。
目的地は天井裏にある専用武器置き場。そこにある改造新型飛行ユニット。
参謀本部配属が決まった時に、自分の次元空間は取り上げられてしまったので一々取りに行かなければならない。
飛行ユニットさえ手に入れば、最悪『参謀本部・納豆まみれ』は免れる。
こんな馬鹿馬鹿しい事で自分もガルルも名前が出たら【どんだけ平和なんだケロン軍本部】という話だ。
前線で必死に生死のやりとりをしている兵達に顔向けなど出来ないし、仕事もし辛い。
苛立ち走りながらがふと思う。
自分はともかく、ガルルはどうなる?
隠してあった【専用飛行ユニットU・改良型】を拾いながら考える。
ガルルは『大佐の護衛役として』と一言言えば、いくらでも良いように話は合わせられるでは無いか!
気付いてしまい一気に怒りメーターのチャージが上がりながら、急いで外に飛び出せば。
「甘いですよ大佐」
流石スナイパー。
局の屋上からガルルの銃が真っ直ぐ自分を狙っている。
「貴っ様ぁぁああ!!上官に向かって撃つ気か?!」
普段は上下関係など無視のも怒りのせいで口調が荒れる。
だがケロン軍一の精鋭スナイパーのガルルだ。流石にヤバい。
もうここまで来たら此方からも応戦しなくてはと銃を取り出すが。
みょーん!!
当然撃たれた。先に構えられていて間に合う筈がない。
しかし…なんだか音がおかしい上に弾が遅い。目で追える。
そもそも銃の形からは見た事が無い。レーザー銃じゃないのか?
「ご安心を。コレは中身を納豆に改造した弾丸。当たっても納豆が飛び出すだけ!」
ふむ成る程。
銃弾が特殊すぎて相当重たいのと発射する銃の出来も悪いな。
なーんて分かったところで、当たれば即座に納豆まみれ。
何を安心しろと?!
冗談じゃない!!
「中身で何であれ上官に銃を向け発砲までするとは何事だ!!軍罰物だぞ!分かってるはずだろう!?」
「たかがオモチャですが?」
「オモチャでも!アホだろガルル!!」
局内で発砲されなくて良かった反面、この納豆ごり押しの男は何者なんだ。
「大体貴様は私の護衛役だろガルル中尉!」
「護衛を務めるならば相手の健康管理も必然!」
「どっかの執事かお前は!?」
会話の間もガルルから全く容赦の無い納豆弾の嵐。
飛行ユニットUのスピードとシールド、そして納豆銃が『超旧式一発狙撃リロード型』なのがせめてもの救いか。
取り敢えずガルルの弾が切れるまで降りることも出来ない。ガルルより上空にいなければ。
下手に着弾して誰かや壁が納豆まみれになったり、敷地内が納豆まみれになれば普通に上から怒られる。
ガルルの行動は多分それも全て見越した上でだろう。
その証拠に本部中央タワーに近づくとガルルはわざと外す。
「楽しいか!?ねぇ私を納豆地獄に落としてそんなに楽しいのか?!」
「健康の為に致し方無い事!さぁいざ神妙に!!」
「お縄につけるかボケっ!!」
飛んでいく弾からは一々納豆臭も噴出されるようで、もうは相当気持ち悪い。
銃を壊そうにもが持っている銃は勿論殺傷能力があり、ガルルに当てずには相当の無理がある。
それに参謀本部だけで無く、何事かとアチコチから人が見ているのだ。
だがガルルを止める者はいない。
『あのガルル中尉』がまさか納豆弾を撃って楽しんでいるなんて想像も付かない上に、は知名度はあっても顔は極力出していない。
はたから見れば【ガルル中尉が一般事務員に攻撃している】という形になる。
勿論ガルルが撃つのだからは敵性宇宙人。
つまり状況は圧倒的にガルルが有利なのだ。
止まる事の無い納豆弾丸の嵐を掻い潜りながら。
楽しそうなガルルなどの見たくないものの上位に食い込む。
何故なら、苛めてこそのガルルだから。
しかも自分をターゲットにして楽しむなど…
「身の程知らずが」
静かーに。
がキレた。
突然ズガガガガガン!とガルルの周りを取り囲むように発砲した後。
「全隊員に通達。動ける者は今すぐガルル中尉を止めろ。参謀本部屋上Fブロックだ」
ガルルの何処までか計算された行動かは、もはやどうでもいい。
階級章は通信機の役割も果たしているが一人にしか繋ぐ事が出来ない。
そこでは勝手にそれを改造して諜略課専用の通信機を作った。全員にも決められた相手複数にもチャット状態に出来る。
『ハっ!』
数人が答えたが、聞いていた部下たちは内心冷や汗を垂らしていた。
が【全員一斉命令】を掛ける事自体がもうMAXヤバイ。ご立腹などと可愛いレベルじゃないのだ。
元々血の気がもの凄く多い。軍本部所属の頃は戦場がライフワークと言ってもいいほどだった。
普段はイタズラでストレス発散をしているから手は出さないし、表に出るときもクールに決めているが。
正直今でも、喧嘩を吹っ掛けられれば『三倍で買うから表に出ろ』と喜んで言いながら相手を叩きのめす。
「納豆弾とか言う訳の分からんものを使っている。死にはしないが気を付けろ」
『了解!!』
「あとそんなしょーもない物を作ったヤツを速攻で割り出して私の前に引きずり出せ。私自ら消してやる」
こんな特殊軍内諜略部隊長様をガチで怒らせると。
人前だろうが何処だろうが。
本気で何をするか分からないのだ。
「それ以上撃つようなら貴様も無傷で済むと思うなガルル!!」
のレーザー銃も遠慮なく発砲される事になった。
数分後、近場にいた数人の隊員によって漸く終了。
流石はアサシンからの精鋭達。隊長の大暴れの危機を防ぐために本当に急いでやってきた。
誰にも見つからないように素早くガルルを運んだので、見ていたものにはガルルが消えたと思っただろう。
ただし全員が納豆弾を食らっていた。どうやら弾を斬ったり弾いても納豆が爆発する仕掛けだったようだ。
ちなみにガルルも当然納豆まみれだ。
「課長…あの、ちょっと…」
「…うん、早く…シャワー浴びてきて…。残りやっとく…」
納豆まみれで泣きそうな部下たちを見てようやく落ち着いた。
この後何をトチ狂ったか分からないガルルは、触りたくないのでワイヤーでグルグル巻きにしてからプルルに渡され。
気付けと言う口実で最強レベルの『ドスッとぉ!!』にて漸く粛正されたと言う。
「プル姐…何だったのこの人…」
今頃三途の川と綺麗なお花畑を見ているだろうし、むしろ渡ってしまえと思いながらガルルの部屋から出てが溜息を付く。
女性の少ない軍内において、階級こそが上だがプルルは姉御のような存在だ。
実際プルルもを妹のように可愛がってくれている。
「ちゃんが過労で倒れないか心配してたのよ?なんか最近良く栄養について聞かれたし」
「って事は納豆発案はプル姐からか…」
「クルちゃんの時はオクラまみれにしてビャービャー泣いてたわ。ホントに隊長ったら…」
馬鹿よねぇ、と。
にはプルルの心の声と高笑いが聞こえた。
「はーぁ、ちゃんは強い部下持ちで反則だわ」
「何が反則なの全く…仮に納豆まみれになっても泣かないし…」
「でもある意味泣けるわよね。良い大人が納豆まみれって♪」
ぷるるんvと笑うこの人が一番恐いとは思った。
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中尉殿がなんてこったいですね。馬鹿です。
プルルとさんの位置づけはこんな感じで。そしてプルルは隊長を戦闘面では超尊敬だけど他はあまり…(笑)