「ごれは、ゲホッ!ギ、ヅイ…。っ、全く、さっさと拷問に掛けられた方がどれだけ楽か…」
もはや口内が完全に麻痺して味覚は分からないが。
取り合えず痛い。痛くて仕方が無い。地味だがとんでもなく攻撃力が高い。
「ま、嘘は止めましょうって事で。落ち着いたみたいだしケロロ小隊に繋いでくれる?」
ほれ、とばかりにがキーボードをガルルに向ける。
突然向けられたガルルは意味が分からない。
「私が、ですか?」
「だってウチの部隊コードじゃ出ないだろうし。ガルル小隊のコードで1分間お願い。無理矢理くっつけるから」
そう言ってがデスクに向かう。
そこにはガルルの持っているキーボードやモニターから夥しい端末が繋がっていた。
「私でも1分もつか…」
「それが出来たらガルル中尉及び小隊は無罪放免。目標はケロロ小隊のクルル曹長だ」
「クルル曹長?でしたら大佐とも面識があるはずでは」
「あるからブチ切られる可能性高いんだよ。クルルはマザー覗いて今の私の仕事も知ってるし」
クルルとは何処をどうやったのか面識だけでなく、実際仲も良い。
は0から物を作る事が下手だが、クルルが作るマシン達をことごとく改良している。
何より本部にいた頃、電子バトルでクルルと対等の実力があったのはだけだ。
あとはこの『紫の軍人の鑑』に護衛されている似た境遇という意味でも、たまにはクルルに愚痴を聞いてもらっている。
まぁ、色々電波系としても似通っている部分もあるようだ。
「もう流石にマザーからもこっちに直でも覗けないけどね。…よし、ガルル良いよ。やって」
「了解」
ガルルが素早い動きでケロロ小隊地下秘密基地へアクセスをする。
繋がれば、の勝ちだ。
疑いを持ち無視するか。
素直に出るか。
ヴォン!!
『お〜い〜オッサン、こっちゃ夜だ…』
モニターに映ったのはクルルだ。
だらしなく髪もボサボサで、まさに寝起きと言った所か。
基地の中ではケローン♪ケローン♪と緊急合図が喧しく鳴っている。
「すまない、緊急だ」
『あぁ?分かってんだよ緊急回線だし…うっせー音で起こしやがっ!?』
嫌味が途中で止まり猛スピードで手が動き出した。
どうやら完全に覚醒したらしい。
『こんのっ!?そこにいんだろ!!』
「気付くの遅いよ。ホントに寝惚けてたんなら好都合♪今はアンゴル族のお嬢さんもいないようだしね」
『行き成りなにしてんだよオメーは!止めろっつーの!!』
「クルルって寝る事あったんだね?なんか意外かも」
『俺を何だと思ってんだ!?疲れりゃ寝るし今は疲れてんだよ!!』
タン!と、が一足先に手が止まった。
「イェス!私の勝ち!!」
『っだぁ〜…うぜぇ畜生…』
の行動は完全なるサイバーテロだ。勿論軍法に引っ掛かる。
相当悔しかったのか、頭をガシガシ掻くクルル。
「クルル、そんなに掻いたら禿げるぞ?」
『禿げねぇよ。ったくいきなり人を起こしてまで勝手にメインサーバー引っ掻き回すんじゃねぇ。オメーならいつもフツーに出てんだろうがよぉ』
「ホントにぃ?何処の回線からか分かって言ってる?」
『あぁ?ガルル小隊か本部回線から……じゃねぇのかよ。サイアクだな』
モニター越しにクルルがうんざりとしなだれる。
負けを認めたのか煙草を取り出し、デスクに足をかけていつものポーズだ。
これはクルルなりに一応話を聞く体制だ。
ケラケラと笑っていたも表情を引き締める。
「予算請求額、水増しの経理報告に侵略経過報告。馬鹿じゃないの?今日は厳重注意だけど他の隊にも余波が出てるから次は無いよ」
『何でバレたんだぁ?』
「アンタがクルルだから。エンジニアとしての性格知ってるし」
『んなもん証拠になんねーだろうがよぉ…』
「証拠無くしてウチが動くとでも?経理が泣くし、ケロン軍の予算も天知らずじゃないもんでね」
『クッ…』
苦々しいクルルの表情が更に苦々しくなる。
「ケロロ小隊はコッチのテレビでもウケが良い分上も甘い。だからって調子に乗ると薄給から更に薄くなるに加えて予算も半分ね」
『ふん。…ったく。そこのオッサン経由かぁ?』
「んー、まぁ結果的にはそうなる。ガルル小隊の有りがた迷惑って感じかなぁ?」
全くを怖がらないクルルにも恐れ入る。
だがクルルの改竄をしっかり証拠まで掴んでいるも恐ろしい。
『ゲッ!!ゲロゲロっ?!だ、誰でありますかクルル曹長!!』
『何故ガルルがいる?!』
『眠いですぅ。こんな時間に敵襲ですかぁ?』
『隊長殿達、遅いでござる』
漸くモニターに【ケロロ小隊】が集まった。
がこの中で直接知っているのはクルルだけじゃない。
「ゼロロ改めドロロ兵長、お久し振り。今からでもウチに来ない?」
ニコっと笑うにドロロがビクっ!と全身を強張らせる。
アサシンでトップの実力者のドロロにがラブコールを掛けないはずがない。
『せ、拙者は…その事については何度もっ』
「はいはい。まぁ気が変わったらいつでもね?それにしても随分目に優しくないカラフル部隊だこと…」
『クッ、個性的だろ?隊長、コイツは参謀本部のヤツだ』
『え、な、何なの?参謀本部?…てか、だ、誰でありますか?』
オロオロわたわた。
ここにガルルがいなければもっと面白いテンパリ具合が見れただろうな、と思いながら。
がスッと敬礼する。
「参謀本部・第2部諜略課所属のと申します。この度予算のあからさまな水増しに侵略経過の虚偽報告について厳重注意に」
『え、諜略課…で、ありますかっ?』
「えぇ」
『嘘を付くなですよ!?軍曹さん、諜略課なんて何にもしてない適当な課ですぅ!!』
『え、あ、うん…あれって…噂だよねぇ?』
諜略課の表の仕事は確かに何もしていない。そもそも無いのだからやりようもないのだが。
ただ噂だけはある。
『軍内機密警察部隊』
それだけがしっかり根付いている。
あからさまにに噛み付こうとするタママ。
どうすりゃいいのよと半信半疑のケロロ。
『ケロロ君もタママ君も噂じゃないよ!それにこの方はっ』
『じゃあドロロ先輩はどうやって証明するんです?!こんなの嘘ッパチですぅ!!おのれ軍曹さんを誑かしおってこの女ぁ!!』
『クーックックック。面白ぇだろぉ?』
いつになったら自分のターンが来るのやら。
随分話を聞かない部隊もいるものだと、が溜息を付く。
今の状況を楽しむだけで手助けはしないクルル。
どうやら影が薄く全く聞いてもらえていないドロロ。
と言う名が引っかかり思い出すのに必死のギロロ。
『参謀本部の事務員風情が軍曹さんに何様です!?嘘ばっか付いて!帰還したら一番にぶっ飛ばす!!』
『オイオイいーのかぁ?そぉんな事しちまってよぉ?クックックっ』
まぁ、服装自由なのでは階級章は付けているが軍服ではなく一般事務員と変わりは無いラフなスーツ姿だ。
胸の開いたカッターシャツにペンダントのパンツスタイル。
正直事務員達の方がもっとしっかりカチっとしている。
『あんなだらしない女!軍関係者かも怪しいですぅ!!軍曹さん騙されちゃダメです!!』
それにしても凄い言われようだ。逆には面白くなって来た。どこまで言われるのだろうか。
階級章に気付いた時のリアクションが楽しみで仕方ない。
『こっちも十分だらしねーよ』
『クルル先輩は黙っててください!!』
『おぉっと?そんじゃ俺ぁ黙ってるけど知ぃ〜らねぇぜぇ?』
『ちょっ!ちょぉっと二人とも緊急回線だし今は喧嘩は無し!!今って夜中じゃん!?冬樹殿や夏美殿が起きちゃうからっ!!』
『みんな取り合えず落ち着いてよおぉぉお!!』
『お前等喧しいわ!!何の伝達だったか忘れてしまったじゃないか!!』
黒と黄と緑と青が赤がごちゃ混ぜになっている中。
「あっはっは、元気良いね。こりゃ番組も視聴率取れるわけ、だ…。ねぇ、ガルルどうしたの?」
勝手に騒ぎ散らしているのでも煙草を取り出しのんびり見ていたが、ヤバイ事になってきた。
何やら目を光らせながらユラ〜リと立ち上がる男。
宜しくないオーラを発しながら思い切り息を吸う。
クルルに『音量下げろ』とメールを送った瞬間、も勿論耳を塞ぐ。
「貴っ様等ぁ!!全員並べえぇえ!!!!」
ガルルの今日1が出た。
もしかしたらこの完全防音の部屋から声が漏れていたかもしれない。
そのくらいの迫力と音量だ。いつものクールは何処に行ったガルル。
そして音量は下げただろうが、それでも凄い殺気のバリトンボイスに全員が急いでモニターに敬礼状態だ。
「タママ二等兵!!」
『はっ!はいですぅうう!!??』
「君は先ほどからこの方に『たかが事務員風情』や『誑かす』等と、随分な発言をしているが君こそ何様のつもりか言ってみたまえ」
『えっ…えっと…そのっ…』
ガルルの鬼畜スイッチが完全にONだ。
その様子に置いてけぼり状態のは煙草を吸いながら《絶対コイツ老いたら教官だわ…》と思う。
「答えられぬようなら口を慎め。我がケロン軍が全て軍人だけで構成されているわけではない。大半は事務員たちの活躍あってこその我々と未だに理解が出来ていないようだな」
『あ、う…も、申し訳ありませんですぅ…』
事務員をないがしろに思う軍人も結構多い。
縁の下の力持ちは軍人ではなく事務員達なのに。
「ケロロ軍曹!!」
『何でありましょうかああぁぁああ!!』
「君まで混ざって全員で騒いでどうする。隊長ならばその場での判断が重要ではないのかね?」
『はいでありますうぅぅう!!まことに申し訳ございませんでありますっ!!』
「クルル曹長!!ドロロ兵長!!」
『クッ…』
『ハっ!』
「君達が一言真実を言えば全ての場は収まった」
ドロロは言っていたのだが…。
「最後にギロロ!!」
『ハッ!』
「何を傍観している。私がここにいる時点で態度を改めるくらいは分かるだろう。実弟として情け無いぞ!」
クドクドクドクド…。
コレはガルルの説教慣れしていないと倒れてしまわないだろうか?
お前はどこの学校の校長だと言いたいいが、取り合えず口を挟み辛い。この勢いだと自分も巻き添えだ。
五分後。
「…ガルル中尉、もう…いいんじゃない?」
もはや敬礼も出来ず必死に涙を堪えて正座で堪えている五人。
まだ苛めるつもりなのか。
てゆーか私のターン、いつくるの?
「大佐、貴女もご自分の立場をもっと重要視していただきませんと。下のものに示しが付かない」
たった今、ターゲットがにチェンジした。
それにが煙草を揉み消し溜息を付く。
だから面倒なんだよガルル…と、鬼畜スナイパーの凄い視線にも応戦だ。
「私が軍内にて軍服を着ていないことについて何か問題があると?我が部隊の方針に口を出さないで頂こうか中尉」
「貴女がそれを許す事に私は異存はありません。しかし他の部隊や軍人への接触の際には自分を証明するために着用すべきです」
「階級章はつけているし問題は無い。私はどう扱われようと構わない」
「そうして気付いた者が慌てるのを楽しむのは良い趣味とは思いませんね。無駄な時間を過ごす事になるだけです」
長引かせたの、アンタじゃん…
改めて「ガルル面倒臭い…」と、嫌な再確認を終えて。
「元より我が隊は表には出ない。それに軍隊としての組織の者が参謀本部の者まで顔を知るのは無理があるのではないか?」
「っ…しかしっ…」
「本部省・参謀本部・教育総監部・衛生局。この中に佐官クラス以上の人間など数知れん。中尉、貴殿も私の護衛などにならねば名は知っていようが顔は知らぬままだろう?」
「…………」
「侵略部隊の前線工作部隊ならばそんなもの覚える暇も無いだろう。それでも彼らに無理を言うつもりか?」
「………。無用な口出し、失礼致しました」
「彼らへの今の叱責は自らが軍全ての佐官・将官の名と顔を覚えてからの話だ。今の貴殿に彼らを責める資格などない」
「はっ…」
ガルル沈黙。
足が痺れてしんどかったケロロ小隊一同もこの光景に痺れも消えた。
ガルルを、黙らせた?
てゆーか庇ってもらってなんですが。
このおねーさん、超怖いんですけど…。
「全く、どれだけいると思ってんだか…。さてケロロ軍曹殿」
『は、はいであります何でございますかぁぁああ!!?』
「前線で活躍されている皆様の睡眠時間の無駄使い、大変申し訳なく思います。忘れていそうなのでもう一度警告しますね?」
さっきガルルを沈黙させたキツい表情から、最初のほんわかと笑顔に戻る。
正しく誰も、が何故通信してきたかを全く覚えていなかった。
だが別のことを思い出した男がいた。
『…まさか…という名はっ…【地獄の日】の唯一の生き残りではっ…』
『ゲロ?』
『えっ…ギロロ先輩、まさかそれ…』
地獄の日。
の訓練生時代に起こった悲劇の日。
それは伝説と語られ、知らない人間はいない。
「ただの同姓同名ですよ」
ニコっと笑いサラっと流そうとしただが。
『ククッ、嘘付いてんじゃネェぜ?』
「嘘ではなく、偶然ですよ」
『敬語で喋んな気持ち悪ぃよ。センパイ達も本物じゃなきゃそっちのオッサン黙らせる事出来ると思うかぁ?』
確かにそうだ。
ガルルを理詰めで黙らせるなんて相当だ。しかも見てるだけで怖かった。
「クルル、ホントあんたの性格マジ歪みねぇな…単品で上に挙げたろか…」
『ククーッ!!褒め言葉だぜぇ?それより俺様のメインサーバー元に戻せよ。滅茶苦茶にしやがって』
「回線切ったら勝手に戻るよ。ワクチン入れてあるから」
二人の会話に緑と黒と赤がドロロよりも青くなる。
『で、でもぉ!いないからこそ『伝説』のはずですぅ!!』
「伝説等とは勝手に後から出来上がり私自身は関係の無い事です。しかし存在は『いない』ままとしていてください」
『…みんな、参謀本部第2部諜略課は、噂じゃなくて本当でござるよ…殿はそこで課長として部隊長を勤めてるでござる…』
『ちなみにぃ。課長は大佐か中佐の佐官クラスしかなれねーんだぜぇ?そいつは大佐だ。クーックック』
ドロロとクルルの言葉に顔色がもっと悪くなる3人。
『ゲロオォォオ!!??しっ、失礼致しました大佐殿ぉおお!!』
『嘘ですぅぅうう!!噂が本当だったなんてっ!!??』
『まさかこんな場面でお会いできるなどっ!!!』
三者三様、なんだか驚く方向が全く違うが、なんとも喧しい事になった。
そして完全にバレて面倒になった。
軍本部で部隊を率いていた頃の活躍、そして現在参謀本部での部隊編成での活躍。
普通は両方をこなせる人物などいないのだ。
「クルル、ドロロ、それ以上バラさない事。ケロロ軍曹殿?」
『はっ!はいであります!!!今しがたの我輩及び我が小隊の失言、まことに申し訳ございません!!』
「いえ。佐官など参謀本部は特に多いですし。接触の無い上司の顔や名前など覚えても無駄ですのでお気になさらず」
『し、しかしっ!!!』
んな事言われても。という状態だ。
上下関係に厳しいのが軍隊。しかしそれを極端に無視する。
だからバレると面倒なのだ。はいつもの言葉を投げかける。
「ふむ…。では大佐殿じゃなくて普通に名前で呼んでいただけますか?」
『了解でありま…はっ?』
「大佐は堅苦しいから好きではないし、元々表に私の存在は極力出しては困るのです。返事は?」
『りょ、了解しましたぁぁああ!!!』
「それでは任務達成に力を注いで下さい。夜分失礼しました」
ニコっと笑いが敬礼すると、モニター越しに小隊全員がビシリと敬礼していた。
プツンとモニターを切る。
「あ”〜…耳痛ったい…。元気過ぎるわ…」
瞬時にしかめっ面になる。
何だか無駄に体力を吸い取られた気がしてならない。
「それが取り柄のような小隊です。突然大佐が現れれば何処もあぁなりますよ」
「だから『大佐』の肩書きウザいんだよねぇ。ガルルも勝手にキレるし…。さて、クルルが懲りて水増ししなきゃ良いんだけど」
「流石に無いと思いますよ。随分懲らしめましたから」
「ガルルがね?ぶっちゃけガルルもケロロ小隊にあんなに怒る資格無いんだよ?こうやってここに捕まって全く…」
「えぇ…存分に懲りましたよ…」
ふぅ、と漸くガルルは力が抜けて煙草を取り出す。
慣れない改竄などするものでは無い。
「んじゃガルルは釈放ね。もう戻ってくんなよー?」
「えぇ、二度とこの部屋は勘弁して頂きたい」
「ストレスでケロロ小隊に八つ当たりなんて超可哀想〜。いい大人がもう泣きそうだったじゃんか」
「緊急回線を使ったにも関わらず全員揃うまでの遅さは堕落を極めています」
こうして煙草が消えるまでと話し。
ガルルが釈放とばかりに扉に手を掛けるが。
ガッ!!
開かない…。
「…。大佐?」
「まだコーヒー、全部飲み終わって無いでしょ?」
その時のは後光の差す聖母の微笑みだったという。(ケロン軍在籍・Gllさん談)
●●●●●
クルルの改ざんなんてザラだと信じて疑いません(←)
黄と課長は仲良しだと良いなと勝手に。紫に纏わり付かれる同じ境遇(笑)
ケロロ小隊と絡ませた当たりからどんどん長くなって結局上下に分けました。