アナタに【心】は無いんですか?!
じゃあ。
アナタの言う【心】は一体なんなのよ。
●什麼生・説破・心●
「って言われちゃってぇ!」
ザクザクと季節なんて全く無視したカキ氷を砕きながらプルルが話す。
場所はいつも通りと言うか何と言うか。テリトリーの第8課。
プルルは先ほど突然前触れも無くやってきて、勝手に座って勝手に愚痴り始めた。
そして何故かのカキ氷は持ってきていない。そこまで気が回らない程怒っているのか何なのか。
以上、色々意味不明が重なり何だかんだで現在。
は「今冬なんだけど…」とツッコミを入れる隙も与えられず、延々と止まらない愚痴を聞く羽目になっている。
「何かお姉さん、ハートブレイクって言うか…はぁ…」
シャクっと殆どプルルの怒りの攻撃で解けているカキ氷をようやく食べる。
どうやら一端ココで話は区切りが付いたようだ。
「……終わった?」
「ちょっとぉ…。やっと喋ったと思ったら何よそれ!ちゃんと聞いてたの!?」
口を挟む隙間を全く与えてくれなかったのはプルルなのだが。
「聞いてた聞いてた。嫌でも聞こえてくる…」
相変わらず今日もここには以外には誰も居ない。
そしてそのは現在通常業務真っ最中。
いつも通り3Dモニターとグラフィックを幾つも並べて、インカムで隊員たちとやり取りをしていたのだ。
そこへやって来てマシンガントークを始めるプルル。
勿論それは仕事を中断する理由にはなりはしない。中断してたら残業という悪魔が待ち構えている。
特殊インカムの性能は抜群で、プルルの愚痴はとめどなく入ってくる隊員たちへも聞こえている。
気を使って「また後にしましょうか?」と言われる始末。だからそれでは自分が帰れない。
自分は聖徳太子ではないのだから…と、殆ど辟易しながらもちゃんと全部聞いていた自分がは憎い。
「聞いてた姿勢じゃないわよ!聞くならインカムとモニター切りなさいよね!」
「見ての通り只今業務中デス。つーかアナタなんで今ココにいんの?仕事は?」
「半休取ったの!」
「ならその有意義な半休を何でこんな場所で潰すの?あとそう言った愚痴は同じ衛生局の同僚かガルルに言えって」
「同僚なんかに言っても無駄。隊長になんか話したくも無いわ」
「なんで?」
「『ほぉ、お前に心なんかあったのか?』とか言われるわ。絶対に弱みだけは握られたくないもの!」
確かに仲が悪い二人だが、流石にガルルがそんな事を言うとは思えないのだが。
その想像力と偏見に恐れ入る。機嫌の悪さが普段とケタ違いだ。
元々プルルは人の悪口や陰口は言ったりしない。非常にサバサバしているサッパリした性格だ。
嫌な事が起これば処理の仕方は本人次第だが、その場で終わらせるタイプである。
それをこうやって持ち帰ってくるのだから、本当なら相当きちんと聞いて答えてあげるべきなのだが。
悪いがは仕事中なのだ。
全部聞いていたし答えも考えてはいるが、どうしても態度が間に合わない。
何せずっと手元のキーボードから手は離さないし、視線もプルルを見ることは無くモニターの羅列を追っている。
この状態で【ちゃんと真面目に聞いて答えます】の説得力は0だ。
「ちゃんはどう思うのよ!?」
「っだーもー!何が!?哲学的か論理的か。文系か理系か。どっちで答えればいいの!?」
がつい棘のある言い方をしてしまう。
正直邪魔なのだから仕方ないが、突然やって来て愚痴をぶちまけられればこちらも気分がいいはずも無い。
プルルが溜め込んでいるのも落ち込んでいるのも分かるが、自分の仕事内容を理解している上でのこの行動は流石に苛立つ。
何せは相手が誰であろうと『アポ無し訪問』が何よりも大嫌いなのだから。
「…ゴメン…怒らせたわね」
チラリともプルルを見る事無く、毒を吐いたに漸くプルルが萎縮した。
「別に。プル姐が私を選んで愚痴てくれるのは光栄だよ。ただ時間と場所は最悪だけど」
「………」
の言葉にシュンと落ち込んでしまったプルル。
そんなに分かりやすく落ち込む等ではないが、気落ちしているのは一発で分かる。
もう殆ど解けているだろうカキ氷の器をカラカラとスプーンでもてあそぶプルル。
「ちゃんの言葉はいつも正解。真っ直ぐで、間違いも無く、反発しあう両者も説き伏せる事が出来る」
「え、はっ?何?」
いきなり全く違う方向から切り込んでこられて、さすがのもビックリした。
そんな事を正面切って言われた事など当然無い。
何せプルルの言葉は言い方を変えれば『恐いもの知らずでズケズケ論破してくる超憎たらしいヤツ』と言う訳で。
大抵の人間も自身もそうとしか思っていないからだ。
「だから…ちゃんに聞いてもらいたかったの。【心】なんて不明瞭で確定の無いものをどう表現してくれるか」
「ちょっ、何言ってんの?私は哲学者じゃないよ」
「そんなの知ってるわよ。カケラも見えないわよ」
「じゃあ何だよ…プル姐今日おかしいよ?」
「…こう言う事を分かりやすく論破してくれるのは、私はちゃんしか知らないわ」
プルルの真剣な物言いに、が一つ溜息を付く。
自分の姐御は随分な過大評価してくれたものだと苦笑しながら、モニターを消しインカムを切った。
そして一つ大きな伸びをして、煙草に火をつける。
「…ちゃん?」
「プル姐、コーヒーくれる?私も臨時休憩だ」
のいつもの笑顔にプルルが少し嬉しそうにコーヒーメーカーに向かった。
いつも一緒に姉のように居てくれるプルルだ。女同士にしか分からない感情なども随分世話になってきた。
仕事を中断してまで愚痴を一緒に解消しようと思うのは、多分プルルくらいだろう。
プルルがコーヒーを淹れている間にが頭の中で愚痴の内容を纏める。
数日前に大規模な侵略戦争が起きた。
相手が強敵なのは分かっていたので、当然その時の部隊編成には参加している。規模は大軍と言えた。
そして衝突。
プルルは他の局員と共に【看護部隊】として衛生局から派遣され参加していた。
侵略作戦は無事にコチラの勝利となったが、死傷者はやはり多く看護部隊がホッと息をつけたのは本部に戻ってからだった。
戦死者はドッグタグと共にエンバーミング処置室へ。負傷者は衛生局の院内へ。
全員を送り出し、これでようやくプルル達の仕事は一息ついた。
疲れ切っている同じ局員たちに解散を言い渡す際に労いとして。
『規模の割には死傷者が少なくてよかったわね』
そう言った。
殆どの者が同意見で安堵の表情になったが。
その言葉がいけなかった。
「『アナタに【心】は無いんですか!?』って。今時ドラマでも聞か無いね…」
プルルが持ってきてくれたコーヒーを啜りながらが呟く。
そう言ったのはまだ今年入りたての新人局員だ。
多かろうが少なかろうが、戦死者に対してその言葉はどう言う事なんだと。
死人が出ているんだ、と。
「新人には良くある事じゃん」
良くぞ『プルル看護長』を相手に、そんな台詞を言えたものだとはソッチに感心してしまう。
プルルをちゃんと知っているものなら、そんな死亡フラグ丸見えの台詞などまず言えない。
恐ろしき粛正を知らないのだから、やはり新人だったのだろう。
「ぬくぬく衛生局で看護してた子でしょ?そりゃ恐かっただろうね。今回が初陣なら運悪かったな」
その新人にはプルルの言葉は『死者への冒涜か何か』と思ったのだろうが、単に死者への概念が違うだけの話だ。
何処の局でも新人には良く起こる。
いくら訓練所や仕官学校で訓練や実践シミュレートを行おうと、それは所詮バーチャルでしかない。
訓練で死ぬことは、無い。
リアルではないのだ。
本物の死に触れた時、初めて自分がどれだけの状況にいるか分かる者は少なくない。
特に衛生局はそれが多い。
局内で怪我人の治療をしていただけの者が、いきなり大量の味方の戦死者に触れる。何をしても助けられない。
それでもどんどん運ばれてくる死傷者をまるで流れ作業のように。治療すれば助かる重傷者よりも軽症者を優先させ。
最後には切り捨てる。
己の無力さ。非力さに打ちひしがられる。
戦争中に治療が出来るものは神に近い。だが道具がなければ、薬がなければ何も出来ない邪魔者でしかない。
【己は所詮その程度】だと、やっと気付く。
「プル姐さぁ、アナタもう中堅よ?そんなんで一々傷付いてんの?」
「いつもだったら説教かますわよ。『衛生局は温くない』って。だけど…」
そう、いつものプルルなら『甘ったれるな!』と怒るはずだ。
泣いて叫んで死者が復活するならいくらでもする。軍にいれば誰もが思うことだ。
だがそんな奇跡など、起きはしない。
復活の呪文も無ければ、僧侶や賢者もいない。祈りなんか届かない。カミサマもいない。
ゲームじゃなくて、ここはリアルだ。
それを刻み込めばこそ、死者が少なくて安堵する。
生存者がより多く残ったという、心からの幸運への感謝の言葉だ。
新人はプルルの言葉の意味を、履き違えてしまったのだろう。
「ま、どうせその子辞めたんでしょ?頭痛の種は消えたんだからそれはプル姐にとって良い事だ」
「何で分かるの?」
「分かるさ」
不思議そうに聞くプルルにがクスっと笑う。
「そんな聖職者みたいな台詞吐く人間が殺し屋集団の【軍隊】にいられる訳が無い。ついでにそんな子はどこの局もいらない。邪魔」
「………」
「衛生局員なら医療知識は十分にある。アウターに出ても喰うに困る事は無い。そんでいいんじゃない?」
「そう、ね」
ケロン軍の存在は【侵略活動】。
他の惑星を我が物にするために自星を拠点に攻撃をしかけに飛び出していく殺しの為の集団。
その存在目的は、決して自衛目的では無いのだ。
全ては戦うために存在する。
「ねぇちゃん」
「ん〜?」
「…アウターから見たら、私たちって何なのかしら」
「それが聞きたかったんだね?」
頷くプルルに漸く合点が行った。
たかが新人が辞めた程度で、そんな聞き飽きた台詞で、プルルが頭を悩ませるはずが無い。
本当に聞きたい事はこれだ。
の胸の支えも漸く消える。
「アウターから見れば軍人は【英雄】。みんなのヒーローだよ。星の為に命がけで戦う。それは変わらない」
「でも…」
「中身を知らないからね。ただ今回のその子に関しては軍の現実を知った。だから軍はただの恐怖でしかないよ」
その辞めた人間は二度と軍隊の話をしないだろう。
大きなトラウマとなったはずだし、軍を辞める時は全ての記憶はデリートされる。
終始補充が必要な軍へのイメージダウンは大いなる妨害でしかない。
コトリとがマグを置く。
視線はしっかりプルルを捉えている。
「ココはね?みーんな頭おかしいんだよ。狂ってる。狂人しか軍人も他星の何の罪も無い相手を殺したりは出来ない」
「ちゃん…」
米神の横を人差し指でクルクル回す。
その表情は、笑っている。
「だけどみんなそれに気付かない。自分がおかしい事に全く気付く機会を与えられない。『みんな一緒』だから分からないんだ」
「……まさか私の事も、そう思ってた?」
「いや?今は思わない。プル姐は気付いたから。一歩引いて軍を見ればどう考えてもおかしいのは一目瞭然だよ」
「じゃあそう思ってたんじゃない…」
「プル姐は軍人としてとても優秀だ。ガルルだってそう。みんなそう。だけど【一般の個】としては底抜けに失格。勿論私もね」
カチっとが新しい煙草に火をつける。
表情はもう笑っていない。
「でも侵略心や征服欲は本能。それを満たすとドーパミンが脳の中枢し…まぁいいや。簡単に脳内麻薬が出て凄く気持ちがいいわけだ」
「そんなの知ってるわよ…こっちは専門家よ?」
「そーでした。んで、初陣でキメちゃうともう無理。途中で間違ってると気付いても自分を正当化する。本能の麻薬は強烈だ」
「…………」
「無論、私はそれについては批難も罵倒も出来る立場じゃない。人の事言えない」
少佐時代にあれだけの功績を挙げてきた。
戦場に出る事がライフワークと言っても過言ではなかった。
そして功績を挙げると言う事は、それだけ敵を打ち滅ぼしてきた事。
「よく『若気の至り』とか言うけどさぁ。今でも若いのにこれからどうしろっつーのって感じしない?」
「でも、今はちゃん…落ち着いてるじゃない…」
「禁断症状の処方箋を貰ってるからね。落ち着いてないよ全然」
プルルはが何か薬を飲んでいるところを見た事が無い。
衛生局のデータに現在が服用している薬は記載されていない。
興味本位で覗いたが、確かに何も無かったはずだ。
「あー、プル姐勝手に私のカルテ見たんだろ?変な顔してる」
「あ、ゴメン。でも薬は何も…」
「そこは内緒。勝手にカルテ見たならもう教えてあげな〜い♪」
プルルが不審に思うのも無理は無い。
何せの言う処方箋は【薬】では無く、不定期に与えられる【任務】を全うする事なのだから。
知らなくて良い事だ。
「昔私はコレに関して上を中傷した。いらない犠牲は排除が当然だ。でも頭固いオッサン達は動かない。聞く耳も無いさ」
「ちょっ、それいつの話?そんな事したら上から!!」
「今現在のこうなっちゃうって話」
ハハッと笑ってが答える。
【軍の財産・駕籠の鳥】
明晰すぎる頭脳は、結果的に全ての自由を奪ったと言う事だ。
「今更軍の体制を変えることが不可能なのは分かる。長い歴史もある。だから諦めた。諦めたから、私は他の誰よりもアウターに出る資格が無い」
プルルには何を言えばいいか分からない。
の言う事はいつも正しい。間違いや矛盾が少しでもあれば口には出さないからだ。
今言った事も、やはり正しいのだろう。
一歩引けば全体像が見える。単純なことなのに、軍はそれを許す暇もきっかけも与えない。
の言葉に自分が一体今まで何をしてきたかを考えさせられる。
少し考えただけで寒気がした。
自分は平気な顔をして何という事をしてきたのだ。
「まー、今の話は黙っといて。バレたらなんか軍罰食らうから」
「分かったわ…」
「頼むよぉ?もうこれ以上何か仕事増やされたらマジギれしてここ破壊するかも」
自分じゃなくてが?
「ちゃ…」
「まぁそう言う事!で、話を最初に戻すけど『心はいかに』って事だったっけ?随分脱線したけど」
「え、うん。そう…だけど…」
無理やり言葉を遮られた。
これ以上この話をするなという事か。
「確かに【心】と言うものは抽象的表現に過ぎない。人それぞれの感情を指すものか、物理的に心臓と考えるのが一般的」
「え、えぇ…そうね。でも出来れば『ちゃんの言葉』でお願いするわ」
「了解。別に私、プル姐に【心】はあると思うよ?つーか誰でもある。ただその辞めた新人とは違う【軍人の心】だけど」
「軍人…」
「ん〜、そういう不明確なものは語り始めたらキリが無いからチャチャッと私なりの考えで行くね?」
少し何かを考えた様子の後、が口を開いた。
「アウターしかり、辞めた新人しかり。私はそういう人たちの心は【ダイヤモンド】だと思うわけだ」
「はっ?」
随分真剣な表情で。
何か良く分からないたとえ話が始まった。
「なんか…。…何言ってんの?頭大丈夫?」
「いーから最後まで先生の教授を聞きなさい!」
プルルの眉間の皺に少しムッとしながらが続ける。
「軍隊に【宝石】はいらないわけ!綺麗に輝くだけの宝石はね。何でダイヤかって言えば、思うほど希少価値が無いし硬いだけだから!」
分かる?と、が言うものの。
「ダイヤは希少価値あるわよ…それに鉱物の中で一番硬いのよ?」
「甘い。だからこそいらない。だからこそアウター。ついでに今時ダイヤは人工的にも作れるのに何が希少価値だって話」
「確かに人工的にって聞いた事あるけど…」
「今や人工的に作れる鉱物。ついでに言うけど、アレ、元は『炭素の塊』。それなのに女の子はダイヤに憧れる。何でだと思う?」
「えっと…」
「お手頃価格で一番認知度が高い手の届く宝石がダイヤ。確かにカラーによっては凄い値段も付くけど、所詮そんなモン」
どうだ、とばかりに腕を組む。
まぁダイヤモンドについては分かったが、哲学表現が少なすぎて良く分からない。
参謀本部の人間だから理系タイプは仕方ないのだろうか…。
「プル姐、ダイヤ欲しく無くなったでしょ?」
「まぁね。炭素の塊とか言われちゃったら…」
「そう、炭素。だから人工的に作る時は人や動物の骨でOK。実際そうやって遺族やペットの形見で作る人も結構多いし」
ダイヤモンドのイメージ崩しは十分に効果的だったが。
そこからが言わんとしている事が全く分からない。
「さっきも言ったけど、軍に宝石など不要。輝くだけが取り柄ならいらん。目立つ。最強の硬さは他と相容れない。何処にでもあるし作れる」
「…だからアウターの人々って事?」
「だって軍人が目立ったら一発で撃ち殺されるよ?量産可能でも意固地で他と一緒にやっていけないなら邪魔じゃん」
ここまできて何となくプルルにも分かった。
確かに軍人が『宝石』を持っていても何の役にも立たない。持つべきは鉛の弾丸。
硬いというのは心の事だろう。孤立しては意味が無い。
思えば宝石店に行けば何処ある訳し、量産も出来るのだ。
「全く、中々小難しい例えをしてくれるわねぇ…」
プルルが一つ溜息をつく。
「『私なりの解釈でいい』って言ったのソッチ」
「はいはいソウデシタ」
もう少し噛み砕いて喋れないのだろうかと思いもするが、分からなくもない。
小綺麗な言葉を並べられても正直反吐が出る。道徳的解釈など耳が腐る。
『軍人』に、綺麗な言葉は痛すぎる。
「じゃあ私たちはどうなの?」
さぁ、アウターは綺麗なダイヤモンド。
自分達は一体何に例えるつもりだ?
「私たち軍人は【チタン】」
「え?」
「だぁから、チタン」
「チタンって…あの、茶色い…?」
「そうだよ?」
チタン。Titanium。原子番号22。
軽くて丈夫で扱いやすい。ちなみに色は茶色。
「えーっと……。それは何故かしら?」
の考え方が全く分からない。
先ほどのダイヤモンドの件と一緒で出だしが全く分からない。それはやはりが頭が良過ぎるせいなのか。
いくらなんでもダイヤモンドとチタンは無いだろう。
それより慰める気など全く無いのかこの妹分は。
「ほらー、プル姐チタンを馬鹿にしてるっしょ?凄いんだよ?」
「何が凄いのよぉ。チタンこそダイヤよりもっと沢山あるじゃない。ダイヤの後だから期待しちゃったわよ」
「何回も言うけど、軍に宝石はいらないの」
「そしてチタンは加工可能で量もあって使い捨てな軍隊には持ってこいって?」
「はっ?何言ってんの。チタンってレアメタル扱いだよ?」
「え、嘘」
がプッと笑う。
「それ、合成チタンとかそっち考えてなかった?純度の高いチタンは完全に『レアメタル』。結構値段も高いさ」
「そうなの?」
「今CMで多いもんね〜、『チタン加工』って言葉。でもアレさ、建築にも使われるほど頑丈なんだけど」
正直プルルはチタンなど茶色のイメージ以外は何も知らない。
鉱物の話などされても分からないから、まさかのレアメタルに驚いた。
「プル姐、ちょっと面白い顔してる」
「煩いわね!どうせ勉強不足よ。それで?!」
「怒らない。プル姐の言うように熱を加えれば加工可能だし丈夫。それに何より、アレルギー反応が最も出にくい金属でもある」
「つまり、誰と組ませても反発する事が無いって事?」
「そうそう。それにね?ちょっとコレ見て」
まだ少し怒っているプルルに苦笑しながらが一つホログラムを立ち上げた。
そこには綺麗に輝く一つのリングが浮かび上がっている。
赤・紫・青とグラデーションになり、シルバーにゴールドも混ざっている。
それぞれが綺麗に混ざり合い玉虫色のように不思議な輝きをしている。
「コレ、綺麗だと思わない?何だと思う?」
「綺麗だけど…不思議な色ね。何かのパワーストーン?こんなの宝石ショップでも見たこと無いわ」
「そりゃ無いよ。コレ、チタンに焼きいれて色付けたんだもん」
その言葉にを見れば、ニッと笑っている。
「熱を加えて磨けばこんなに綺麗な色になる。茶色じゃないんだぜ?」
「へぇ…」
「チタンもアクセサリーに十分だと私は思う。金アレの子は特に欲しいだろうよ。ただ加工代その他を考えるとコスト掛かり過ぎだし、一般認識のチタンは【茶色で安物イメージ】で需要が無いし、誰も考えない誰も買わないから売ってないだけ」
確かにチタンのアクセサリーなど聞いた事が無い。
あっても欲しいと思わない。
「最もアレルギーが出にくいし、これだけ綺麗なんだから売ってても良いと思うけどね。加工は難しくないし」
そう言ってはホログラムを切った。
「さて、私の見解は以上。丈夫だし磨けば十分綺麗。焼きによって個性的な色になり何度でも加工も出来る。ついでにレアメタル」
「宝石じゃなくても、綺麗なものはあるって事ね」
「そ。値段はそこそこするけど、ソレは個々の経験値代と思えばいい」
プルルの言葉にが満足そうに笑う。
「軍に【宝石】はいらない。【丈夫】で【個性と協調】の反発する二つ、それに【柔軟性】と【意外性抜群】が必要だと思うわけ」
「そうねぇ…」
「その上【磨けば光る】おまけ付きのチタンじゃ不満?」
「なぁに?そのお買い得みたいな言い方」
「だから安くないのチタン!純度高いとマジ高いんだぞ?!」
自慢げに話すが何だかおかしかった。
まさか鉱物で例えられるとは思わなかったし、しかもチタン。
だがアウターはまさに宝石だろう。綺麗に光り、傷付く事を恐れ、平穏に過ごしている。
ココは使い物になる鉱物が必要だ。
輝きは戦歴で磨きがどんどん掛かる。アウターから見た【ヒーロー】が実はチタンでも面白いじゃないか。
個性的に光る軍人達は、沢山汚れてもまた磨けばいい。
「ちゃんはホントに面白いわねぇ」
「ちょ、笑うって失礼じゃん!こっちはプル姐の為に真剣に慰めてんのに!!」
「ありがとう。でも【お前はチタンだ】って言われて気分のいい人間なんて居ないわよ?」
そう言うとプルルは席を立った。
「ちょっと!説明聞いてた!?」
「聞いてたわよ〜。それじゃあ私帰るわね」
「はぁ?なーんーなーのっ!!時間返せ!!」
クスクスと笑いながら叫ぶを尻目に、プルルはそのまま部屋を出た。
突飛で、何にでもなれ、丈夫で、個性的。
説明だけを聞いていればまるで【そのもの】ではないか。
「宝石はいらない、か。ま、使い捨てよね。結局」
は口に出さなかったが、加工強度にも限界がある。何度も何度も加えられるわけではない。
古くなれば、使いすぎれば、それは壊れる。
入れ替わりの早い軍隊に宝石なんて高価なものは必要ないのだ。
は老朽化した『上層部』と言うチタンが早く耐久限界になり、廃棄処分になる事を願っているのだろう。
「全く…あんな変な話されたら、落ち込んでたのが馬鹿馬鹿しくなるわねぇ」
そう言いながらもプルルの心は晴れていた。
の見せたチタンは綺麗だった。
混ざり合う色達のグラデーションは見たことの無いものだ。
自分もその色の一部となり、軍を彩っているならそれもまた悪くないだろう。
「ん?どうしたプルル。お前は今日休みじゃなかったか?」
「あら隊長」
擦れ違ったのは小隊の隊長であるガルルだ。
ココにいることは目的と言う事は分かっているだろうが、不思議そうな顔をしている。
大方、何でカキ氷のカップを持っているとかその程度だろうが。
「今日はの機嫌が悪い。会わん方がいいぞ」
「隊長、私たち軍人は【チタン】ですって」
「はっ?」
「我等が大佐がそう仰ってました。では失礼します」
何のことだ?とガルルに混乱だけを残してプルルは参謀本部を後にした。
多分後で自分のせいで更に機嫌の悪いに何かしら悪戯かトラップを仕掛けられる事だろう。
「はーぁ、考えすぎも美容に良くないわよねぇ」
すり替えの例え話でも、気分は悪くない。
今度はお詫びにちゃんとお土産を持って可愛い妹分訪ねるとしよう。
end.
●●●●●
タイトルは「そもさん・せっぱ」と読みます。一休さんでも出て来る禅問答のヤツ。「そもさん(この問いはどうだ!)。せっぱ(答えはコレだ!)」的な意味です。
たまにはプルルお姉さんも何か悩んだりしないかなーと。
焼きの入ったチタンを綺麗と思うかどうかは個人の見解ですが、私は綺麗だと思ったので。
もしどんな色か見たい方は、「バイク・マフラー・チタン」で検索すれば直ぐに出てくると思います。
この後ガルルは意味の分からないの怒りをぶつけられればいいと思う(笑)