おろおろ そわそわ
「…おぃ、ウゼぇよ…」
「ウザく無いもん」
今日のは何か変だ。
●お前の為の挑戦じゃねぇぜぇ?●
このあり得ない程リアクションを持ち得ねぇが今日はさっきからおかしい。
まぁ一般的に見たら全く落ち着いてるように見えるだろうが、毎日見てるこっちにゃ分かる。
「さっきから空見てなぁにをソワソワしてんだぁ?」
今日の天気は見事な曇天。
雨は降ってねぇがさっきから雷が凄ぇ事になってる。
ドカン!と落ちても『わー…』と棒読みで終わり。一応こいつはコレが正常で通常だ。壊れてねぇよ。
相変わらず驚くって事を知らねぇらしい。声が出るだけまだマシな方か?
「ねぇクルル…」
「ぁん?」
「停電するかどうか、分かる?」
「ククッ、よっぽど運悪けりゃな」
停電か。成る程、それの心配か。
どうせ冷蔵庫の中身がどうとか可愛く無ぇ理由だろうけど。
「冷蔵庫に何かヤベぇのでも入ってんのかぁ?それともまさか睦実の夜食のレンジか?」
「別にむーちゃんのご飯はどうでもい」
ドゴン!!
の言葉を遮るようにまたどデカイのが一発で落ちた。
今のは睦実の心の叫びだな。電波で届いたんだろうよ。
「…いんだよね、別にどうでも」
「そうかよ…」
相変わらず酷ぇ妹だなお前も。ったく、【もうちょい睦実に優しくしろ】っつってんのによぉ。
そして当たり前だがリアクションは無い。
「ブレーカーと違って直ぐに電気付かないから…夜だし…」
「クッ?」
ソファで体操座りの。
オイオイまさかの?
「お前、暗いトコ駄目なのか?」
「嫌い…」
ククッー!成る程な!!
『ブレーカー落とすと丸焼きコース』っつーのはそういう意味だったのか。
「ククッ、お前にも怖ぇもんあったんだなぁ?」
「だって人間だもん!まだ子供だもん!!」
パタパタとむくれて悔しそうに足をばたつかせる。
そういや、コイツまだガキだったな。ヤベェ、今ガチで忘れてたぜ。
つーかガキはカエル見て嬉しそうに捌こうとしねぇっつの。
「クルルだって怖いものあるでしょ!?だってあるの!!」
「ククッ、俺様は生憎『大人』でなぁ?俺様を恐がらせるなんざよっぽどだぜぇ?」
「お化け屋敷とかも?」
「あんなもん全部マシンで制御されたオモチャだろうが」
「小さい頃に恐かった事とか無いの?!なんかばっかバレたのヤダ!!」
「ククーッ!!俺様はガキの頃から軍にいたから恐い事なんざねぇんだよ」
…若干嘘だけどな。
あー、嫌な紫思い出しちまったじゃねぇかよアホ…。
アイツは恐かねぇけど苦手で大っ嫌いだったしなぁ。
「クルル可愛くない!!」
「可愛いくてたまるか。ずっと言ってるが見た目『コレ』でも中身はお前や睦実よりずっと年上なんだよ」
「じゃあクルル捌く!それなら恐いでしょ!?」
「ちゃんと麻酔掛けて縫合もキチンとやれよぉ?」
「えっ?」
………。
相変わらず真っ直ぐな瞳で残酷だなお前ってヤツは…
確かに今現在一番恐ぇのはからの『食材扱い』だな。マジでやるし。
「食うなっつーに。ったく…」
しかし、まさかのの弱点がこんな普通レベルだったとはな。ある意味驚きだぜぇ。
停電なら自然現象で八つ当たりの丸焼きにも出来ねぇし。
もしかしてのいーリアクションが見れるかもな。ククーっ!!
DVDに焼いたら睦実にも日向家にも超売れるぜぇ!!
RRRR♪
ぁん?のケータイか。
「あ、電話だ……うわ、むーちゃんからだし…余計にテンション下がった…」
出たな心配性のシスコン馬鹿兄貴が。
今日はラジオで外だしな。
「もしもし?……うん、雷が……、え?じゃあ何でに掛けたの?」
さぁて、何をどうやっても今のお前じゃは守れねぇぜぇ?
自然現象にお前は勝てねぇんだよ!クックッ。
「クルルー、むーちゃんが代わってって」
「あ?何でお前経由なんだ?」
「知らないよぉ。はい」
まぁ俺らが電話でまともに会話なんかしねーからな。電波で分かるし。
メールじゃねぇって事はマジで緊急か?
「なぁんだぁ?仕事しとけ」
『怖がってるだろ?停電したら頼むよ』
「あー…。泣き叫ぶなら俺ぁ引っ込むけどな」
『いきなり消えるのが駄目なんだよ。…これだけは本当に、駄目だから』
随分ガチな声だな?
いつも絡みだと煩ぇ位騒ぐくせに。こんなにマジでローテは初めてだぜ。
何が起こるか全く分かんねぇ。
『さっさと停電する前に寝かせて。嫌なトラウマがある。怖い思い、させたくないから』
「へーへー。そんじゃな」
ったく、たかが暗闇の何が怖いんだぁ?
幽霊信じる可愛げも無ぇなのによぉ。
「ほれ返す。睦実からはさっさと寝ろだとよ」
「うん…。じゃあもう寝るね?お休みクルル」
本当に怖がってんのか?
どうにもイマイチ疑わしい顔でがやっと立ち上がった。
取り合えず落ちるかどうかも分かんねぇのに何を怯えてんだか。
トラウマにしても何だって話だろうが。
「寝ろ寝ろ。ガキはさっさと」
バツン
チッ、嫌なタイミングで停電か。
まぁ俺様のノーパソは元気だしケータイの明かりもあるし。
薄暗いだけだから問題無ぇだろ。
「…、ん?」
ノーパソの光で何とか見える。
が動かねぇ。立ち尽くしてやがる。
いきなりでビビったのか?
「おぃ、さっさと…」
「ひっ!?やっ…嫌っ…」
俺の声に全身が強張る。
オイオイ、マジか?
壁に背を預けてズルズルと座りこむ。
完全に何かに怯えてやがる。自分の影にか?人影?
何処を見てんだよ。
何が見えてんだ?
「おいっ」
「嫌ッ!!ごめんなさい!ごめんなさいっ!!」
「ちょっ…」
「お願いだから!いい子になるからっ!!」
「おい?」
「もっと頑張るから!!迷惑かけ無い子になるからっ!!暗いのヤダ!出してっ!出してぇ!!」
泣きながら必死に俺には見えない『何か』に懇願する。
「!!」
「ごめんなさい!!痛いのも我慢するから!!もっと頑張るから!!もうっ…『イラナイ子』はヤダっ…ヤダヤダヤダ!」
壊れた玩具みてぇに『嫌』と『ごめんなさい』を繰り返す。
俺様の声が全く届かねぇ。怒鳴っても逆効果だ。
チッ!まだ治験が終わってねぇ薬だっつのに!!
自分で治験なんぞ最悪だ!!
「おい、…」
「『イラナイ子』にしないでっ……ひっく…『』はちゃんといるのに…無視しないで…」
「あぁ、無視なんかしねぇ」
「も…ヤダっ…の声…聞いてっ…ここにいるのに…っく…消さないでっ」
「分かってんだよ。北城はちゃんと『いる』だろ?」
「でも大人はが嫌い!【イラナイ子】だから嫌いっ!!誰もを見てくれない!!【出来損ない】だから!!」
「…」
パチンと電気が戻った。
目の前には泣き崩れてボロボロの。
何なんだよ…お前がこんな有り様とか無ぇだろうが。
「泣くんじゃねぇよ…誰もお前を閉じ込めたりしねぇ」
もう泣くことしか出来ないみてぇだな。
頭を撫でてもビクッ!と怖がる。払い除けるのも恐いんだろうな。
顔も膝に埋めて何も見ようとしねぇ。ただ怯えるだけ。
存在を無視され続けた、これが本当の『』なのか。
「誰も無視しねぇ。もう痛いのも我慢しなくていい。お前は幽霊じゃねぇんだから見えてるに決まってんだろ」
地球人化の薬、一応成功か?
鏡で見て無ぇから何とも言えねぇけど手足は地球人化してるし、まぁ俺様が失敗は有りえ無ぇけど。
が小せぇ。
こんなに小さかったんだなお前…
「、俺様が嫌でも見ててやるしウザかろうが話し続けてやるから安心しろ」
は動かない。顔を上げない。
俺様はガキのあやし方なんぞ知らねぇから、せいぜいゆっくり撫でるしかねぇ。
これ以上は掛ける言葉も知らねぇ。ったく睦実のヤロー、もっとしっかり教えとけっつーんだよ。
他人への慰めやあやし方なんか一番不得意分野だっつーのに…
何にも出来ねぇからしばらくそのままの時間が過ぎて。
ようやくが顔を上げて俺様を見た。
『コッチ』に戻ってきたな。何とかでけぇ眼に俺様は映ってる。
「…だ、れ…?」
「あん?今この家にクルル様以外に誰がいんだよ。運んでやるからとっとと寝やがれ」
抱き上げたらやっぱり小さくて軽い身体。
もう泣き止んでるが、さっきの事を俺様に見せたのが不安なんだろうな。
ずっと服握られっぱなしだ。
部屋を開けてを寝かせて。それでもは俺様を離さねぇ。
「離せって。んで早くガキは寝ろ」
「…クルル…なの?」
「だぁからそうだっつってんだろうが。じゃなかったら泥棒だ」
「……ゴメンね…煩かったでしょ…」
「いーからもう謝んな。お前は家事全般の為に必要なんだよ。俺様や睦実を餓死させる気か?」
「…ん、…そうだね…」
ようやく服から手が離れた。
やっと落ち着いたか。
「いいか、【俺様から逃げられる】なんて思うんじゃねぇぜ?ククッ」
やっと少し笑って、そのまま気絶するみてぇに眠った。
「ったく…地球人化して触った第一号がマシンじゃなくてかよ…」
20分後。
睦実が血相変えて帰ってきやがった。
勿論の事はメールしといたからラジオなんかやってらんねぇだろうよ。
ちなみに俺様の地球人化は直ぐに解けた。まだ改良点があるな。
寝てるに安心したのか、コッチも漸く安心したのか俺様の前に座った。
「ありがとクルル…」
「別に。大方、お前とのデキの差に折檻されてどっかに閉じ込められてたってトコか?」
前に聞いた『睦実との比較』か。
ここまで大人からやられてたとはな…。
「うん…俺のせいでは言葉と身体の両方の虐待を受けてた…。よく地下室に閉じ込められてた」
「助けなかったのかよ」
「…助け、られなかった…。俺が何をしても全ての虐待にしか繋がらなかったっ」
ガリっと唇を噛み締める睦実。
睦実の助けはにとっての『有難迷惑』って事か。
「俺…兄貴失格だよ。俺がと同じ事をされたら耐えられない。は強いよ」
幾つの時の話か知らねぇけど、良くここまで立ち直ってるぜ。
大人のエゴを存分に叩き付けられてきたんだろうな。
俺様が今まで見てきたは全部誰だったんだ?
「は全部俺のせいなのに俺に全く当たらないんだ。『全部自分が悪い』っていっつも言うの」
「あぁ…言ってたぜ…」
「少しも責められないと、俺の無力さを見せ付けられるから辛いよ。俺も【イラナイ子】ならは普通に暮せたのに…」
「…イラナイ子…なぁ…」
がしきりに言ってたな。
とにかく『誰も自分を見ない』って。
ガキは大人より感受性がもの凄く強い作りだ。
自身も虐待を忘れて無いのも凄いぜ。健忘もせずに覚えてるなんざ、良く精神疾患に掛からなかったな。
「…睦実、お前も自分責めんな。が気ぃ使う」
「…うん…」
「あと昔は昔だ。今はちゃんとお前と俺が見てやりゃいいんじゃねぇかぁ?他にも愛されてんだしよぉ」
ホントに面倒臭ぇ兄妹だぜ。
こんなトコ落ちて来ちまった俺様も運のツキかぁ?
けどトラブル&アクシデントだ。
上等じゃねぇか…
「おら、シケてんじゃねーよ!テメェが罪悪感感じてる暇があったら過去を忘れるくれぇ楽しい今、だろ?」
「そう…だね。クルル、に付いててくれてありがとう」
「へいへい。何かで返せよ?ギブ&テイクだ」
明日にゃ笑っていつも通りにな。
それを続かせてやろーじゃねぇかよぉ。
ククーッ!面白ぇ挑戦だぜぇ!!
(…そう言えばクルル、どうやってを運んだの?)
(治験段階だが地球人化したぜぇ。どんな顔か見る前に戻っちまったがな)
(はっ?!それの開発は止めてよ!擬人化したらに近寄らせ無いからな!!)
(ククー、惚れられたら困るってかぁ?)
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まさに別人のようなツンデレ曹長。このままこのバックボーン真っ黒な兄妹の両方に惚れなさい。←