軍曹がちゃんと会ったその日から。



「冬樹殿おぉおお!夏美殿もおぉお!!お願いでありますうぅううう!!」



どうにも軍曹はちゃんに恋をした…のかな?


取り合えず、
会わせろと煩い。







●前途多難な恋ってヤツだよね?●








「あんったねぇ!しつこいのよ!!会わせる訳無いでしょ!?いきなり入ってきてあんなにビックリさせて!」


何とかちゃんは気にせず帰ったけど、あの後の姉ちゃんの拷問はデビルサマーより酷かった。
久し振りの降臨+ちゃんのおかげで『夏美最強伝説』に
新たに4Pくらい加わったよ。
ママが居なくて良かった。


「会いたいでありますぅ!我輩はこの地球で天使に出会ったであります!!」
「あぁそうね!ちゃん超可愛いわよ!
だからこそアンタに会わせる義理も無いわ!!」

あの日以来、毎日軍曹は姉ちゃんと僕にちゃんに会いたいとお願いしてくる。
その日は姉ちゃんのオンステージで僕はあんまり手出しはしなかったけど。


「夏美殿のケチ!冬樹殿ぉおお!!」
「軍曹、流石に僕も嫌かな」


僕だって怒ってるんだよ?実際久し振りに怒ったし。
あれだけ言ったのに勝手に部屋から出ていって。
ちゃんはしっかりした性格だけど、だからって巨大な蛙が二足歩行で喋ったら普通はビックリする。


「冬樹殿おおぉぉおぉ!!」
「だって僕との約束破って。もし吃驚して泣いちゃったらどう責任とるつもりだったの?」
「我輩はアンチバリア張ってたであります!」
「あれだけ勢い良くドアが開いて誰もいない方が怖いのよ!」


うん、その通り。
てゆーかもう、アンチバリアとか見えてる見えてないじゃなくて。
普通に会わせたくなかったわけ。驚かせたり、泣かせたりしたくないから。
姉ちゃんも僕もちゃんが大好きだから。うん、ソコは僕も自覚してる。
可愛い妹みたいな感じかなぁ?


「私はっ!絶ぇっ対にっ!許さないわよ!!!」


姉ちゃんのちゃん好きは僕の比じゃないから、あの日以来喧嘩が絶えない。
それでも軍曹、挫けないし。
毎日姉ちゃんの本気が炸裂するから僕はちょっと疲れ気味。
家の中もピリピリするから嫌な感じだよ。


「軍曹、姉ちゃんに言っても堂々巡りだから。ほら、僕の部屋に行こう?」

姉ちゃんが落ち着くまで【ちゃん】は禁句ワード。
僕はもうなんか…面倒だから軍曹を連れて部屋に戻った。





















「何でっ…何で会わせてっ…ひっく…」
「ほら、そんなに泣かないでって。今の姉ちゃんには何言っても無駄だから」

部屋に戻ったら軍曹が今度は泣き出した。
不思議だなぁ。

「何で軍曹はそんなにちゃんに会いたいの?」
「言ったら会わせて
「話は別だけど」

被せて拒否したら
「冬樹殿のバカあぁああ!!」と余計に泣かれた。


「だって軍曹、宇宙人なんだよ?ちゃんからは見えないんだよ?」
「そ、それでも会いたいの!可愛かったの!我輩ってば恋しちゃったの!!」
「ふむ〜」
「辺境の地で奴隷のごとく扱われ、心身ともに疲れ切った我輩の前に現れた神のごとき天使であります!!」
「お菓子ならまた作ってくれるから」
「今のスルーは酷すぎやしやせん!?」

いや、だって。
確かにギロロが姉ちゃんにハードボイルドラブ
(ただのギロロのツンデレにしか見えないけど)だから。
宇宙人が地球人に恋をするのも有りなのは分かってるけど。


「軍曹、ちゃんを見てたの…何秒?」


速攻で姉ちゃんに蹴り出されたから、しっかりと見たとは思えない。
帰り際に二階から見てたけど、ちゃん小さいしつばの大きな帽子だったから顔は見えて無いだろうし。


「こっ、恋にそんなの関係無いであります!
一目見て我輩の心は奪われちゃってっ!!」


キャーと転がる軍曹は面白いから放っておいて。


あるのかなぁ?一目惚れって。
それに恋してもちゃんから見えないんだから辛いと思う。
姿を見せてちゃんに怖がられたら軍曹どうするつもりなんだろう?まさかの地球人スーツは僕でも怖いし。

そして何故か僕の脳内は楽しく軍曹と遊ぶちゃんの絵が浮かばない。


多分…浮かばせたく無いんだと思うけど。

ちゃんと巨大蛙が楽しく遊ぶって言うのは…なかなか想像を絶するグロテスクな光景だよね。
軍曹のデフォがこれだからまだ許される…かなぁ?
何か分かんなくなってきた。


「ぐーんそー、恋より仲間集めが先でしょ?」
「恋も仕事も両立させるのが男ってヤツでありますよ!!」


勝手に燃え上がる軍曹をどうしようかと考えてたら。

「夜中にいつまでも喧しいのよボケガエル!!」
「ゲロォォオオオオオー!!!宇宙人虐待いいぃぃいいい!!」

姉ちゃんの熱はまだまだ冷めそうにない。












 









「はぁ…」
「ふーくんどうしたの?最近元気無いよ?」
「あ、いや。何でもないよ」

今日は学校帰りにちゃんとの買い出しデー。
いつも楽しいんだけど、やっぱり軍曹達が気になって仕方ない。

軍曹にはちゃんに会わないように言ってあるけど、『あの頃』モードになったら何するか分かんないし。
タママは
『僕の軍曹さんにぃ!』と嫉妬丸出しにしつつ、あの日のお菓子の美味しさと天秤が釣り合ってる微妙なライン。
ギロロは興味無さそうに見えて姉ちゃんと仲良しなちゃんに本気で嫉妬してるし。

姉ちゃんからは
『3匹を命懸けで止めろ!』とか言われてるけど。
軍曹の無駄に凄い行動力を考えたら僕も命懸けられないよ。


「何か悩み事?」
「うん、まぁ…」
「今日のふーくん溜め息ばっかだよ?あたし、解決は出来ないかもだけど話だけなら聞けるから」
「ありがとうちゃん」

優しいなぁちゃん。
完全丸投げ人任せな姉ちゃんとは大違いだよ。
でもその悩みの種は『ちゃんと宇宙人の接触を避ける』だなんて流石に言えないし…


「あ!」
「なーに?」
「もしかしてふーくん、恋のお悩みとか!?」


…だったらまだどれだけ楽なんだろうか。
あー、ちゃんの目が
キラッキラ☆し始めた。

「ふーくんはね、女の子に凄く優しいから大丈夫だよ♪」


一体誰を僕の相手に想定して話が進んでるのか。
そもそも僕は恋愛には淡白と言うか興味無いし。


「ん〜、じゃあもしちゃんだったら僕が告白したらOKしてくれる?」
「えぇ?!あ、ああたしはっ!歳の差があるから無理だよ!」

どもって顔真っ赤にしちゃってオロオロして可愛いなぁ。
そう、小学生の歳の差は大人の比じゃない。
学年差1つで犯罪並みの感覚。
2つしか変わらないけど、大人と子供並みに感覚が違う…らしい。


「それにふーくんにはちゃんと素敵なお相手がいるんだよ?」
「いないよぉ。相手の子もこんなオカルトマニアに告白されていい気分しないって」
「もぉー、謙遜は良くないと思うな!鈍感も良くないの!」


とは言われても。
ちゃんは
怒っても可愛いくらいしか僕には分からないので。
話を変えるに限る。

「僕よりちゃんはどうなの?」
「なっ!?い、今はふーくんのお話!じゃないの!」
「あ、もしかしているの?好きな人」

お、一人称がになった。って事は相当動揺している証拠。
いたらターゲットに絶対姉ちゃんの鑑査が入るな。


は家事でいっぱいいっぱいだからいいの!」
「はは、ごめんね?怒らないで」
「ふーくん意地悪さん!!」
「ごめんごめん」


プクッと拗ねちゃったちゃん。
ちゃんとちゃんの後ろには姉ちゃんを上回る鑑査官がいるもんね。
お兄さんの【睦実さん】と言う
最強防衛ラインが。
実際に会ったことは無いけど、ちゃんが言うには相当らしいし。


「……。ふーくん、ちょっとだけ元気になった?」
「え?」
「普段恋愛話なんかしないもんね。でも悩んでる時は興味ない事考えてちょっとでも忘れちゃうのが一番だよ!」


ニパッ☆と可愛く笑ってくれる。
そんなに心配してくれてたんだ。嬉しくなっちゃうよ。

「うん。ちゃんと喋ってたら悩み事忘れてたよ」
「ホントに?良かったぁ♪」


だからよしよしさせてね?
このちゃんの笑顔を見ると撫でたくなるのは
日向家の血筋?
きっとこの子は無意識にα派が出てるんだよ。
今の僕にはママとは別次元の最強の癒し系人物。


「あ、そうだ。こないだ姉ちゃ…」



………。

いた。
ついに軍曹、リミットブレイクで曲がり角で待ち伏せしてたよ!!
タママも一緒にすっごいちゃん見てるし!止めてよタママ!!

「ふーくん?」
「あ、いや…」

よしちゃんに反応なし!やっぱり見えてない!!
接触する前にこのまま帰らせないと!!

「ちょっと待っててね?」
「?…うん」

軍曹は生ちゃんを直接見たせいか動けないみたいだし。
アイドル効果なのかな?締りの無い顔だ…


「ちょっと軍曹!タママまで一緒に!」
「ゲーロゲロゲロっ。冬樹殿…
こちらとて我慢の限界であります!!」
「フッキー、ボクは止めたですぅ!でも軍曹さんが雨でもないのに『あの頃』化しちゃって!」
「いざ殿の元へぇえええ!!」
「軍曹ダメだってば!!」

あぁああ!行っちゃうし!
…でも見えてないならいっかな?
ちゃん、幽霊信じないし声が聞こえても見えてないならスルーする子だし。


「もー、軍曹ってば…また姉ちゃんにシバかれるよ…」
「フッキー!今の軍曹さんアンチバリア切ってるですぅ!」
「げっ!それ先に言ってよぉ!!」


振り向けばちゃんと軍曹が見つめあって…
ダメだちゃんがしゃがんだ!!本当に見えてるんだ!!

う、わぁ…ちょっとどうしたらいいの僕!?他人のフリ?!
ちゃんリアクション薄い子だけど流石にダメだよ!!
これはもう
『軍曹は僕のおもちゃ』でごまかすしかない!!


「は、初めましてであります!!」
ちゃん!ごめんそれ僕のおもちゃだから気にしないで!」


「初めましてじゃないよ?こないだふーくんの家にいた緑の蛙さんだよね?」


 えっ?


のクッキー、美味しいって言ってくれたよね?嬉しかったから覚えてるよ


ニパッ☆と笑顔で軍曹を撫でるちゃん。
ちょっと待って…
じゃああの時も見えてたの?!


「蛙さん、お名前教えて?あたしは北城です」
「わ、わわ、我輩は!ガマ星雲第58番惑星宇宙侵略軍特殊先行工作部隊隊長ケロロ軍曹であります!!」

慌ててビシッと敬礼する軍曹。
あの時アンチバリアが効いて無かったことに軍曹の方が驚いてる。


「……。ごめんね?長いお名前で分からなかったからもう一回…」


うんまぁ、そうなるよね。
フルで役職まで言っちゃうんだから軍曹もパニクってるんだ。

「あの…、ちゃん?見えて…」
「うん。こないだは気付いちゃ駄目かなって黙ってたの。なっちゃん、
蛙さんの存在消そうとしてたから」


じゃあ庭のギロロなんて完全に見えてたって事じゃん。

あの日は全部スルーで過ごしてたのか…

そのスキル凄いよ。感心しちゃう。



「あ、黒い蛙さんも一緒なんだ。こんにちは。赤い蛙さんは一緒じゃないの?」
「えっ!ボクも見えてるですか!?ボク今アンチバリアをっ」
「うん。あ、緑の蛙さんの名前…」
「ケロロ軍曹であります!」
「…ぐんそー?」

クリンとした目で僕に
分からないの意思表示。
そりゃ10歳に軍隊階級なんか分かるはず無いよ。
これはもう僕が説明した方が早い。


ちゃん、絶対秘密にしててね?」





  こうしてこの蛙達は蛙じゃなくて宇宙人。
  地球侵略を企むケロン星からやってきた軍隊だと一頻り説明をした。
  この道、人通りが無くて助かったよ。






「じゃあ緑の蛙さんはケロロで、黒い蛙さんがタママ。宇宙人。侵略者…で、合ってる?」
「うん、簡単に言えばそんな感じ…」

ちゃんなら黙っててくれると信頼出来るけど…
これって絶対ダメだよ。ホントにダメだよ。
僕まで姉ちゃんに刑を執行される。
それにしても…

ちゃん、冷静だね?」

二足歩行の喋る蛙を見て、
この驚きの無さ。


「うん?吃驚してもしょうがないかなーって」


大人の対応。

ありがたいですちゃん。


「ケロロはふーくんのお家で暮してるの?」
「そ、そうであります。現在我輩は日向家にて地球侵略を企んでっ…
るー!!わけではなく!あのっ!!」
「でも、無理だよね?」
「ゲロ?」

ケロロとタママを見て相変わらずニコニコしてるちゃん。

「だって侵略するにしても日本を拠点に選ぶ時点で間違えてるよ」
「ゲロッ…そ、そりはぁ…」
「さっさと地求人なんて駆逐して処分しちゃえばいいのに」

何でしないの〜?と。
それはそれは、とっても可愛い顔して
とても恐ろしい質問を…。
それは軍曹たち、やろうと思えば出来るんだよ。


「わ、我輩達はそんな原始的でダサい侵略なんてしないであります!!冬樹殿も夏美殿もみんながちゃんと仲良くっ!!」
「ホントに?平和的なんだねぇ」
「勿論であります!!殿がいるのに壊滅なんて滅相も無い!!」


何だか凄いぞちゃん。
完全に侵略者を無意識に手名付けてる。


「あ、もうそろそろ帰らないと冷凍物が」
「え、あ、ごめんねちゃん。足止めしちゃって!」
「ううん、ケロロとタママと喋れてよかった♪またお菓子作ったら食べてくれる?」
「勿論であります!!」
「ボクもですぅ!
っちのお菓子は高級菓子店の美味しさとは違って手作り独特の美味しさなんですぅ

「嬉しいなぁ
タママはお菓子好きなんだね?リクエストあったら言ってね?」
「やったですぅ〜!!」

スカートをパンパンと払ってちゃんが立ち上がった。

「ねぇふーくん。ケロロとタママを抱っこしてみていーい?」

とか言ってる間にちゃん、軍曹持ち上げちゃうし。

「また今度会えたらいいね?」
「はいであります!!絶対会うであります!!」
「タママもまたお菓子作ったら、食べてね?」
「楽しみにしてるですぅ!」
「うん、二人とも好き」

ニパ☆っと最強ちゃんスマイルで
降ろされた二人が腰抜かしてる。
ぎ、ギロロみたいに湯気が…
大丈夫かなぁ?あんまり熱いと持って帰れないんだけど。






 



「あ、ふーくんちょっと内緒話」
「え?」

一生懸命背伸びしてるちゃんに僕もかがむ。

ヒソヒソ話ってなんだろう?

「ケロロはふーくんにとってなぁに?」
「何…って言うと?」
「侵略される側?敵?消えてもいーい?」
「え、いや。出来れば軍曹は消えて欲しくないよ…友達だし」
「そっかぁ…。じゃあやっぱ宇宙人って
身体を切っても再生するものなのかな?」


何となく言いたいことは分かってきたよ。

ちゃん…もしかしなくても…


「軍曹は食用蛙じゃないから…止めたほうが良いよ。一応宇宙人だから」
「ダメかなぁ?さっき抱っこした時も結構いい感じで肉が付いてたし、
足の一本くらい」
「お願い。大切な友達だから食べないで…」


軍曹。
僕は軍曹の恋した天使は
若干悪食の癖がある事を教えてあげるベキなんだろうか。
今のところ食べてみたいのと聞いたことあるのは【らくだ】【ワニ】【鳩】。あとは【蛙】
そして軍曹を完全に『食料』として見ていることについても…。


 

 


こうしてちゃんとはそこで別れたけど。

「軍曹の恋って多難だよね…」
「ゲロ?そーりゃあ宇宙人と地球人ってトコから多難でありますが、それでもまずは挨拶出来たんだから順調な滑り出しでありますよ♪」
「でもぉ…言い難いんですけど、軍曹さんって
もの凄いロリコンって事に…」
「恋に歳の差なんて関係ねぇんだぁい!!」


現実問題、
食材として捌かれそうなんだけど。
宇宙人を調理して食べようだなんて発想、恐れ入るよちゃん。




 




ちゃんに会わせたぁ!?何やってんのよ冬樹!!)
(姉ちゃんゴメン。でもちゃん、元からアンチバリア効いてなかったみたいで)
(え、嘘?じゃああの時も見えてたって事!?)
(らしいよ。それに軍曹たち見てちゃんの悪い癖が発病し出してる…)
(えっ…。それは流石に止めて!いくら蛙でも流石に宇宙人なんて食べたらお腹壊すわよ!?)








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美味しいですよ?ワニとらくだ。←