「クルル、今暇ぁ?」
どう見ても暇には見えねぇ俺様に向かってが何か持ってきた。
「一回視力検査に行って来い。んで帰ってくんな」
「勉強教えて?」
●『一人だけ』ってルールは無いぜ?●
俺様がこの北城宅に来てそこそこが経った。
この目の前のチビ。名前は北条。
小学生にして兄貴の睦実を尻に敷きながら日々を突っ走る中々根性のあるガキだ。
こいつが睦実以上に中々の性格だっつーのは分かった。
まずアンチバリアが効かねぇ。
未だに隙あらば俺様を食うつもりだ。
いくら俺様が『トラブル&アクシデント』を求める男でも、継続的に命を狙われるのは結構しんどいぜ。
どうやらブレーカーを落とすと【ガチで丸焼き一直線コース】らしいが、まだコイツがいる時に落とした事はねぇから生きてるぜぇ?
そんで、ガキだからか睦実に汚染されてるからか何なのか。
俺が宇宙人だろうが喋る蛙だろうがメカ作ってようが気にしねぇ。
「勉強なら自分の部屋でやれ。俺は忙しい」
「明日算数のテストなの」
「話聞けよ…」
こちとら落下した時に壊れた物の修理で忙しいっつーのに。
あんまり部品も工具も無ぇからこれはこれで辛いもんがある。
「だってクルルは頭良いんでしょ?むーちゃんが言ってたよ?」
「だったらその『むーちゃん』に聞け。何で俺様が地球人のガキの勉強見るんだよ」
「ギブ&テイク。クルルは居候。むーちゃん今日は仕事」
腹立つなマジで。
事実だけどよぉ。
「どうせお前、睦実と一緒で頭良いんだろ?」
「んーん、普通。頭良いのむーちゃんだけ」
「クック、天才の妹は馬鹿かぁ?」
「悪くは無いもん!普通だもん!!だから!!」
ね?とばかりに俺を見てくる。
チッ、この分だとあと二回言葉のやり取りやったら、今修理してる物がガラクタに戻るな…
コイツは人の作る物を平気で粗大ごみで捨てやがる。しかもご丁寧にバラバラに分解して分別してな。
「ったく…。俺様の授業料は高ぇぜぇ?」
「やったぁ!ありがとう!」
ニパっと笑えばちったぁガキらしく可愛い部類の癖によぉ。
「んーでぇ?何が分かんねぇって?」
「あ、そう言えばクルルって地球人じゃないや」
今、そこに気付いたか。
時々マジでバカだな。
「悪ぃが俺達の星の学習内容は地球より遥かに上で、俺様はその中で【天才】と呼ばれた男だ」
「そうなの?でも文字分かる?」
「翻訳機がある。そんなに信じねぇなら教えてやんねぇぜ?」
「ヤダ。信じる」
そーそー、ガキは素直に従ってりゃいいんだよ。
ただし木刀は置け。それの標準装備は止めろ。
「じゃあここなんだけどね?」
「字ぃ汚ねぇよ。翻訳機通せねぇかもな。クック」
「ウソ!?ちゃんと綺麗に書いてるつもりなのに…」
お願いします!と手ぇ併せて翻訳機に必死に祈ってる。
嘘に決まってんだろバーカ。ちゃんと綺麗な字だっつーの。ク〜ックック。
それにしても中身は算数か。
「何が分かんねぇんだよ?」
「えっとね、『ハジキの法則』がなんかいまいち…」
「『ハジキの法則』って何だ?」
「え?」
んなもん聞いた事ねぇぞ?
地球独特の何かか?昔過ぎて俺様がその言葉を覚えてねぇだけか?
取り合えずテキスト見れば、内容は速さに時間に距離か…
「もしかして…クルルの星じゃコレやらないとか?翻訳機通らなかった?」
「やってるっつーんだよ。距離や時間計算は宇宙侵略にゃ一番必要なんだぜぇ?それより」
「なぁに?」
「何で『ハジキの法則』とか言う名前なんだコレ?」
「え?!えっとね、ちょっと待っててね!ノート持ってくるから!!」
別に問題内容なんざカスに等しいが、その『法則』って名前が付いてんだから簡略化と法則性を元に覚えるんだろ?
多分俺様が教えたら難しすぎてにゃさっぱり分かんねぇ状態に陥るだろうからな。
「はいクルル!こうやってね?円つくって仕切って。は・じ・きを入れるの」
のノートには円の中にT字。上に速さの『は』下二つに時間の『じ』と距離の『き』。
ふーん、そう言う事か。こうやって簡単にしねぇと地球人には理解出来ねぇのか。
つーか俺様は見ただけで瞬時にココまで分かってんのに、何が分からんのか俺にはそっちが分かんねぇし。
「分かった。教えてやろうじゃねぇかよぉ。ク〜クックック」
チビ相手(しかも地球人)に勉強教えるなんざ考えた事も無かったぜ。
「…で、何でソレが掛け算になるんだよ。タローがありえねぇ速度で目的地に到着するぜ?」
「え?あれ…。あ!じゃあ割り算だ!」
「んじゃ何でそうなるか説明してみろよぉ?クッ〜クックッ」
「こっちにしたら正解だから!」
「どんだけ短絡思考だお前は。んなもん俺様が許すと思うか?ちゃぁんと覚えろ」
苛めてやると足パタパタさせて悔しそうにしやがって。
ク〜クックッ。
「はふ…。理解は出来たけど…何か時間かかった」
に教えて一時間ってトコか。
たまに変な奇声を発しながらも何とか脳みそには刻めたらしい。
まぁどーっせ掛けたり割ったりして答えが常識外れだったらやり直せってだけなんだけどな。
地球人の散歩で3kmを2分で到着とか絶対ねぇからな。
「お前の頭の回転が遅ぇだけだ」
「むーちゃんの時は早いのに…クルル、教え方が意地悪だもん」
「俺様は睦実と違ってスパルタだからなぁ。ギブ&テイクならコッチもこのくれぇは教えねぇとなぁ?」
睦実はシスコン馬鹿だからな。
さぞ甘く優しく教えてやってるだろうが俺様はそうはいかねぇぜ?
「もー…頭疲れたぁ…。献立考えてる方が楽しいよぉ…」
完璧主婦思考が。
そういう発言が可愛くねぇんだよ。
「ま、こんなもんだな。次から俺様に頼むときは十分覚悟して頼むんだぜ?」
「はーい…気をつけまーす…」
苛めがいがあるヤツで困るぜ。
さぁて、俺様も作業に戻るか。
「ねぇクルルはさ、むーちゃんの事好き?」
「あ?」
テキスト閉じながら。
何聞いてんだいきなり?
「むーちゃんはね、クルルの事好きだよ。クルルが来てからむーちゃんすっごく楽しそうだから」
「まぁ嫌いじゃねぇぜぇ」
「『マブダチ』って言ってた。凄く大切な友達って意味だって」
「…、何が言いてぇんだ?」
兄貴を取られて嫉妬か?こいつの性格じゃしそうにねぇけどなぁ。
疲れたのかテキストに頭乗っけてじーっとこっち見やがって…
苦手なんだよそう言い目は!!
「あのね、むーちゃんが頭良いの知ってるよね?」
「あぁ。だからどうした?」
じゃなきゃ俺様だってマブだなんて思うかよ。
「むーちゃん、小さい時からずっと頭良かったの。運動も出来た。さっきクルルが言ってたみたいに【天才】って良く言われてたのね?」
「ふーん…」
「でも…むーちゃん嬉しく無かったの。全部分かっちゃうから詰まんないんだって。
むーちゃんは頭の中も大人だったから、友達もみんなむーちゃんを怖がるって。『普通がいい』って。
むーちゃん何も悪いことしてないのにみんなが離れるの」
寂しそうにシャーペンを転がす。
「まぁ…気持ちは分かるけどな」
ドコにでも、ある話だ。
泣きそうになるんじゃねぇよ、ッたくガキが。
「ホント?」
「レベルは違えど俺様もチビの頃はそうだったからな」
「そっか、クルルもそうだったんだ」
ようやくいつも通りに笑った。
お前は馬鹿みたいに笑ってろ。
俺や睦実にゃ出来なかった【素直な感情表現】がお前には許されるんだからな。
「じゃあクルルはむーちゃんの気持ち、分かってあげれるよね?むーちゃんから離れていかない?」
「当たり前だろ?マブダチっつーのはそう言うもんだ」
「うん、むーちゃんが聞いたら喜ぶよ!あ、でも照れちゃうかな?」
「照れた睦実なんぞ気持ち悪ぃだろうが…。つーか」
「ん?」
睦実の心配は結構だけど。
「お前はお前で『天才・北城睦実の妹』で随分な扱い受けて来たんだろ?」
「え…あっ……えっと…」
「ま、内緒にしてぇなら俺ぁ聞かねぇけどな。聞いてやってもいいぜぇ?」
「……ビックリした…」
「あん?」
「そんな事聞いてくれたの、クルルが初めて…」
曇る表情。まぁそうだろうな。
大人は自分の都合が大切で、分かってやろうともしねぇからな。
「むーちゃんには、内緒ね?心配するから言っちゃダメだよ?あたしが悪いだけだし仕方ないもん」
デキの良い睦実の妹だから当然大人はにもそれを要求する。
けど、今勉強を見た感じでも分かったがは普通だ。特に悪い訳でもねぇが。
「…むーちゃんと比べられて、馬鹿って一杯言われて残念がられるの。だからむーちゃんの事『お兄ちゃん』って呼べないの」
「睦実の迷惑になるってか?『』としては見てもらえないってかぁ?」
「そんな感じかなぁ?『北城睦実の妹』って。天才の妹の癖に普通だって。世間じゃあたしが普通じゃ…ダメなのかな?」
でっけぇ黒い目が滲んでいく。
「なんかね…大人の人たち、の事、出来損ないみたいに言うの…いらない子みたいに…」
「…睦実には?」
「だってむーちゃんこんなの聞いたらもっと傷付く!自分のせいってもっと自分を責める!!」
だからってよぉ。
10歳じゃ大人たちの嫌味も受け流し切れねぇだろうが。
ずっと溜め込んで睦実にも話せなかったなら相当しんどかっただろ。
あーもー、ボロボロ泣くんじゃねぇよ…。
「…おい」
取り合えず泣き止み始めたから。
ったく、俺様のガラじゃねぇぜこんなガキの世話なんか。
「っく…、な、なに?」
「お前も俺様のマブダチにしてやっても良いぜ?」
「えっ?」
お前は俺や睦実とは違った意味で頭が良い。
勉強の天才と人生の天才は、全く意味が違う。
睦実は前者だ。お前は後者だろ?
「いーの?あたし、二人みたいに全然頭良くないよ?」
「クックック、マブダチは『一人しかダメ』なんて事は無ぇんだぜぇ?」
ガキの癖に大人ばりの事をやってのけて。
世情に対しての天才のお前にとって、社会や大人なんか面白くも何とも無いだろ。
「、お前もそのうちどーせ睦実みたいになるぜぇ?」
「え、やだ。むーちゃん変だし」
即答で拒絶だな。すんげー拒否反応だけどもう遅ぇぜ?
10歳でこんだけやってりゃ十分だ。
「お前も睦実の妹なんだから十分変人だろうがよぉ?学校で相当猫被ってんだろ?」
「うっ…」
「周りに合わせてたら馬鹿んなるぜ?」
「……。それって、クルルがあたしの【マブダチ】だから言ってくれてるんだよね?」
「まっ、好きに捉えな。まだのレベルは低いが俺様は大人だから懐でけぇんだよっ?!」
「ありがとうクルル!嬉しい!!」
いきなり抱きしめんなよビックリしたじゃねぇか。
ったく、そんなに俺様の存在が大切かお前等?
まぁギブ&テイクだ。
しょーがねぇから、寂しがり屋な兄妹の面倒くらい見てやろうじゃねぇかよ。
「でもむーちゃんカテゴリーの人間はヤダ!!」
そこは譲らないんだな。
「んじゃ睦実に言っときゃいいだろうが」
「ダメ。むーちゃん、あたしが嫌味とか怒ったりすると泣くから面倒臭い…」
だろうな…。
あいつ自覚のある激甘シスコンだし。
「ほれ離しやがれ。今のは睦実にゃ内緒だ」
「マブダチの事?」
「ちげーよ。睦実カテゴリー拒絶の事だ」
「うん!指切りげんまん♪嘘ついたらクルルが丸焼き〜♪」
指切れねぇよ馬鹿が。
(なぁクルル、最近が機嫌良いんだけど。俺の居ない間にどうやって仲良しになったの?)
(クックッ、今やハグは当たり前の関係だぜぇ?まだ手は出してねぇけどな)
(は?お前…もし間違いでも出したらじゃ無いけど丸焼きコースだぜ?)
(俺様からじゃなくてから抱きついてくるんだけどな。ク〜ックック)
(俺だって最近してくれないのに!!)
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ちょっとずつクルルの心境変化が進めばと。そして先輩のロリシス度も出てない癖に勝手に上がればと(笑)