最近オレんちのお隣さんがやけに喧しい。

 

 

…あ。

 

静かんなったって事は…

 

 

 

ピンポンピンポンピンポンピンポン!!

 

 

 

 

 

◆いやホントゴメン許容範囲外!◆

 

 

 

 

 

 

 

このもの凄いラッシュを止めるべく玄関を開ける。

そこに居たのは、案の定の人間だ。

 

 

「オミちゃんしばらく榛名を匿って…」

「匿ってこのピンポン連打が止まるなら喜んで…」

 

 

ったく・・・誰が『オミちゃん』だ。

オレは『納谷雅臣』(なやまさおみ)だっつーのに。表札出てんだろうが。一度もまともに名前呼びやしねぇ。

 

この昭和の悪ガキのイタズラよりタチの悪い事を仕掛けてくるチビ。

隣の北城兄妹の妹、榛名。

オレにこの部屋を紹介してくれた叔母が、家賃を2割負担する代わりに条件として【この兄妹の面倒を見ろ】と言ってきた。

話を聞けば『高2と小4の二人暮し』。フツーに危ないだろ。詮索はしなかったけど、どうなってんだよ二人の親。

叔母もそれが相当心配だったみたいで。んで、ちょうど新しい部屋探しをしてたオレに紹介したって訳。

いい立地だし部屋も悪くない。オレみたいな1人暮らしには贅沢なくらいだ。適当に面倒見て2割り払ってくれんならやるだろ普通。

 

で、引き受けて住み始めてもう半年くらいか?

条件に対してのオレの読みと予想は激しく外れた。

 

 

何か知らんが異常に懐かれてる現在。

 

 

オレのこの態度と口の悪さはどうやら叔母が何か言ったらしく気にしない方向に捨てられたらしい。

大体最初の紹介の時にいつも通り『オミちゃん』とかこいつ等の前で呼ぶから…

 

 

 

「オミちゃん、連打するよ?」

「やった瞬間、俺はお前を事故に見せかけて階段から落とす」

 

ったくもぉ…。

相変わらず、いつ見てもチビぃな榛名。言うと怒るけど。

それに加えて既に連打の構えが完璧だしな。やる気満々かコラ。余計萎えるわ。

 

 

「また睦実か?」

「むーちゃんなんか知らないもん!!」

「了解。中で聞く」

 

 

取り敢えずこのチビな姫様を小脇に担いでリビングへ。

榛名の声はさすが小学生って感じで本気を出すとかなり煩い。

あーあ、どうせ今頃部屋で睦実があーだのうーだの言ってんだろうな…。面倒臭ぇ。

 

「…オミちゃん…どーせむーちゃんの味方する…」

「それはお前の話を聞いてからオレが判断する事。最初からそう思ってんなら来んな」

「………」

 

 

おいコラ…

ラッシュかけて怒鳴った上に拗ねて無言かこのガキ。

 

この榛名ヒメサマは兄貴の睦実に溺愛されるわ、ご近所さんからも溺愛されるわ、何かと忙しい主婦な小学生。

まぁ榛名は実際可愛いけどな。それは分かる。ロリコンじゃないオレでも分かる。何だかんだで結局子供は可愛いもんだ。

頑張ってマダム達とご近所付き合いもしてる。凄いと思う。

大人のオレより十分過ぎる程頑張ってんのはちゃーんとオニーサン知ってますよ。

 

お前が勝手に来て愚痴るから嫌でも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んで。今日はどうした?」

 

リビングのソファに不貞腐れてる榛名を置く。

よく榛名は『怒っても可愛いvv』とか言われるけど絶対目の錯覚だとオレは思う。

だって何処がだよ?オレにはただの拗ねた子供にしか見えん。

 

 

「………」

「…榛名、睦実が来て強制送還かオレが勝手に担いで強制送還か、どっちがいい?」

「オミちゃん酷い…」

「良〜く考えろ。酷ぇのはどっちだ」

 

 

毎回喧嘩の度にピンポンラッシュを掛けられたり仲裁に入らされるオレが一番可哀想だろうが。

【面倒見る】のが条件だとしてもこれは違うだろ。オレの家はお前ら兄妹の遊び場じゃねぇんだよ。

榛名はともかく睦実なんか夜中でも平気で来るから堪らん。

オニーサン、お前らがあまりに気軽に頻繁に来すぎて軽く子持ちの気分だ。まだこないだ成人式終わったばっかなのに。

…ふざけんなっつーの。現状マジ笑えねぇし。

 

 

「……。むーちゃんがね、最近榛名に楯突くようになった。生意気なの」

「睦実がぁ?」

 

自分用のコーヒーと榛名のジュース(榛名のせいで常備品。金出せよ)を探しつつ。

何か凄ぇ事聞こえた。

 

「やっと妹離れか。良いじゃん。お前楽になったろ?」

「違うの!!生意気に反抗的になったって事!!」

「ふーん?」

 

 

榛名を怒らせる事も立ち向かう事も何か意味があるのか?

漸くトチ狂ったか、あのロリシス馬鹿が。

 

 

「最近やたら喧しいのは、その睦実の『勇気ある行動』のせいか?」

「あ…やっぱり煩い?」

「ドタバタ結構。下の人に迷惑だから夜は特に止めろ」

 

 

見つけたジュースを出してようやくオレも一息。

座って榛名を見れば…まぁ苦々しい顔だ。完全に睦実に制裁を下すつもりだな。

このまま戻すとまた再発で今度は両方来る可能性がある。

場所変えて喧嘩なんてオレの部屋なら全く平気でおっ始める。いつの間にオレんちは北城家に吸収されたんだよ。

超迷惑だっつに。煩ぇし。

 

 

「ほーれー、雅臣オニーサンが聞いてやっから、あんまブサ面すんな」

「ふにゅっ!?ふぉみひゃっ!!」

「さっさと愚痴ってスッキリして仲直りして今日は寝ろ。な?」

 

ブサ面の榛名のほっぺたを摘んでやった。

オレは人のそういう落ち込んだ顔とか好きじゃねーの。

手ぇ離したら榛名のすっげー悔しそうな顔。多分オレはすっげー楽しそうな顔してるんだろうな。

 

 

「オミちゃんって苛めっ子…。そうやって大人ぶるのヤダ…」

「いや、オレってば法的に大人だし完全に

 

 

小学生に「大人ぶるな」って言われるオレってどういう…。

なんかもう…ホント何なんだよ榛名。

お前どこまで精神的に成長してんだよ。お前が二十歳のとき多分中身ババァだろ?

 

大人なんだよオレ。もう21。成人して仕事もしてんの。

こちとら社会人だっつのに小学生に『オミちゃん』呼ばわりで泣きたくなるわ。

普通は苗字か、そこそこ頑張っても『雅臣さん』じゃね?

オレは小学生のお悩み相談までしてあげちゃう、心優しき立派な成人男性ですけどねぇ。…崇めたて奉れとまでは言わんが敬意は表せ。

コイツ他の年上にはちゃんとしてる癖に、何でオレだけその基準から外れてんだよ。意味わかんね。

 

 

「そんで、睦実がチョづくようになった原因は?」

「っ、ちょっと言えない…」

 

いや、そこ言ってくれんとどうにもなんねーだろ。

 

「んじゃ、榛名がちゃんと叩きのめしても変わんねぇの?」

「うん…」

「榛名が泣いたら一発じゃね?相手睦実だし」

「泣き落としって何か卑怯だからまだやらない」

「そーゆー美学は捨てて今やれよ。劇的に効果のある方法は初期段階に使うに越した事はねーぞ?ハイ相談終わり。帰りなさい」

「なんか…オミちゃん今日冷たくない?」

「だってオレに原因話せない内容で愚痴られても意味分かんねーし」

 

分からんもんは分からん。オレは生憎エスパーじゃないもんで。

あーあーあー…。榛名がどんどん拗ねてくし…。

 

 

「…オミちゃん、その口悪いの直したら?折角格好いいのに…だから彼女さん出来ないんだよ」

「黙れ出来ない原因要員が」

 

 

 

お前と睦実が、遠慮知らずに、勝手に来るから。

女を呼べもしなけりゃ作れもしねぇんだよ!!

 

今は仕事優先だし欲しいとは思わねぇけど、欲しくなった時にこの二人は相当頑丈な鉄壁になる。

オレは多分…ブチ破れないだろうなぁ…。子供二人は卑怯だろ二人は…しかも榛名は特に…女の子だし。

何この子持ち気分。オレ多分、昔のダチとかに会ったら精神病院に担ぎ込まれるぞ。

 

 

 

「榛名まだ小学生なのに…子供なのに…ズケズケ言うの酷い…」

「お前が子供らしくこの口の悪さで泣くなら直す努力は考慮してやるよ。他のチビにゃこんな言葉遣いしねーよ。つかもー帰れ」

「何で?!やっぱり今日のオミちゃん冷たい!!」

「だってお前がオレにどうして欲しいか分からんから。オニーサン明日も仕事デス。榛名も明日は学校デス」

 

 

んでオレ今、仕事をお持ち帰りしてるからソレやりたい。

 

 

「ほれ〜、とっとと帰るぞー」

「ヤダヤダぁ!オミちゃん降ろしてぇ!!」

「オミちゃんも嫌ですー」

 

 

こんなチビで軽くて簡単に担げるのに、毎回睦実はボッコボコにされるんだよなぁ。

オレにまで攻撃してくるようになったらどうしよう。流石にちびっ子は殴れん。

そういう意味では睦実の行動は合ってる。無力な子供(一応榛名も)に手ぇ挙げるのは人としてサイテーだ。

ただし理由がなぁ…。睦実をボコにしたくなる榛名の気持ちも分かるからなぁ。

同じ男として見てても、気持ち悪いもんなアイツ。ギリ犯罪手前だろ。

 

こんな二人の面倒見てたら彼女なんか作れるかっつーに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうしてチビを担いで隣へゴー。

榛名も外だと近所迷惑を弁えてるから騒がねぇ。

ただしさっきから髪を一本ずつ脱いで来やがる…地味だが確実に痛い。

インターフォンを鳴らせば…

 

『…はい』

 

よしいたな。

これで榛名探しに旅立ってたら洒落にならん。

 

「納谷さんデスケドー」

『オミちゃん?!』

 

コイツもやっぱりオミちゃん。

高校男子にオミちゃん。年下のヤローにだぞ?無いだろ。

この兄妹、ホントにオレを何だと思ってんだ?親戚のお兄さんじゃねーぞ?

一回くらい『雅臣さん』って呼べよマジで。

 

 

「姫が服流煙の刑に処されたくなくばさっさと引き取れ〜」

 

全部言う前にバタバタ聞こえて来た。

榛名の前じゃ煙草我慢してんだぜ?やっぱ子供には良くないし。

 

 

「オミちゃん!!」

「よぉ煩ぇ」

「榛名!オミちゃんちは卑怯だろ!?」

「煩いもん!!」

 

 

いやいやどうして…

 

 

「どっちもウッセーから」

 

 

どすこい!と無理矢理お邪魔します。

玄関も閉まった。これでマシだろ。

 

「ほれ睦実。耳痛いし早く持ってけ」

「ヤダ!むーちゃんが謝るまで榛名は帰らない!!」

「お前明日学校どうすんの?」

「オミちゃんに迷惑だろ?!それに俺は謝った!!」

 

あーもー、喧嘩すんなよもぉ。10歳と17歳のガチ喧嘩ってどんだけだよ。

榛名を降ろして退散したくても、首にしがみついて離れようとしねーし。

睦実も何かマジだし。お前のその素を是非リスナーにお届けしてぇ。反応とか超楽しみなんだけど。

 

「むーちゃんだけ謝ったって意味無いじゃん!もうコレで何回目?!」

 

 

帰りてぇ…

榛名、髪がゴッソリ抜けそうで痛い…オレの毛根を大事にしてくれ…

 

 

「クルルだってあれでも謝ってるの分かってるだろ!?」

「何処が!?謝れば何回でも許すなんて思わないで!!」

 

 

三流昼ドラの修羅場だな。

つーか。

 

「クルルって何だよ?」

 

ペットか何かの名前か?初めて聞いたけど。

このマンション、ペット禁止だから喧嘩?

おい二人、いきなり止まるな。

地雷か?まぁオレが踏んでも爆死したのは二人だからどうでもいいけど。

 

 

「その『クルル』も原因の1つならちゃんと…」

 

…………。

 

今なんか、黄色い物体が横切った。

廊下の幅を横切った。

オレの見間違いじゃなければカレーが宙を横切った。

 

 

「…ごめんマジ帰りたい」

 

 

有り得ないものを見た。

オレ、こういうの駄目なんだよ。

 

 

「え、あのっ!お、オミちゃん…?」

オイ、カレーが横切ったぞ。何だこれ?二度とこの場所来ないから」

 

 

無理だって!!意味分かんね!!

弧を描くならまだしも水平に横切ったんだぞ?!

雅臣さんオカルト無理です!もう勝手に喧嘩してろよ帰りてぇ!!

 

「オミちゃん見えてないんだよね!?」

「見えたよカレーが!ふざけんなよマジ!!榛名降りろ!!」

「うわわっ!?オミちゃん落ち着いて!」

「無理帰る怖ぇよじゃあな!!」

 

 

もうダメ無理!!

髪よさらば!榛名と共に!!

 

 

「待ってオミちゃん!!」

「嫌だ!!」

「我が侭言わないでぇ!むーちゃん早くぅううう!!!!!」

「我が侭じゃねぇだろ!?無理やりお前が引っ付いてたから帰れなかったんだよ!!」

 

 

つーか何で必死に足に引っ付くんだよ榛名どうしたんだよ!

あと睦実も何処行くんだよバカじゃねぇの!?

カレーが浮遊する部屋なんか嫌だっつに!!

 

 

「榛名ありがと!はいオミちゃん見える!?」

「はぁ?!」

 

 

急いだらしい睦実が何かを持ち上げてる風に手を上げる。

 

……。

 

 

「何も見えんわ!!」

 

 

つか強烈にカレー臭い!

何なんだ!?オレどんどんパニックだぞ!

自分で分かる!もう何の拍子でいつ榛名を蹴り倒すか分からんトコまで来た!!

 

「これが原因の一部を担ってるから!!」

「もうどうでもいいし!?てか睦実、まさかお前変なクスリに手ぇ出してんのか!?」

 

幻覚か?!じゃあ榛名も!?

ますます危ねぇこの兄妹!!

 

 

「落ち着いてオミちゃん怖くないから!」

「無理だっつってんだろ!!」

 

 

あぁ何かオレにまで!!!何これ幻聴ってやつ!?

『クックー』て笑い声聞こえてきたしぃぃいいい!!!!

 

 

「おんもしれぇなアンタ」

「ひっ!?」

 

 

カエル!!??

睦実の両手の中にいきなりカエル!すげぇでけぇ!主に頭!!

しかも黄色いし何なんだよ意味分かんねぇ!!

オレこんなの見える力欲しくねぇよ!!

 

 

「オミちゃん紹介するね!宇宙人のクルルって言うの!!」

「止めろオレは爬虫類が大嫌いだ!!」

「大丈夫カエルは両生類だから!!」

「それこそどうでもいい!睦実!これ以上近づけたらマジでオレは何をするか分からん!!」

 

 

もう鳥肌が!全身ビッシリ!!

何なんだよオレが何したんだよ!?

オレ生き物とか駄目なんだよデリケートなの!!カエル嫌い!!

しかもバランスおかしいし巨大だし!!

 

 

「榛名お願い!!」

「うん!!」

「オイ!?」

 

榛名がやっと離れたかと思ったらコイツ!

チェーンロックって!!

 

「ふぅ、もう安心♪」

「だなぁ?ククーッ!」

「………」

 

 

喋るのかよ…

駄目だ、今のオレ、もう何か意味なく何かを殴りそう。かなりキてる。

つか榛名がいなかったら絶対何かを破壊してる。よく耐えてるわ。

 

 

「クルル、オミちゃんの為に地球人になって?」

「ク?しゃーねぇなぁ。相当面白ぇのによぉ」

 

 

そう言うと。

目の前の黄色カエルは睦実が隠れるほど背の高い人間になった。

そして瞬間。

 

 

「うわぁあ?!クルルしっかり!!」

「オ、オミちゃん?!」

 

 

 

オレは思い切りソイツを殴り倒した。

 

 

うん、オレ、人間なら平気…だから…。

 

 

 

 

 

●●●●●

 

 

お隣さんは「納谷雅臣」さん。口は悪いけど面倒見はいい人です。むっつんも榛名ちゃんソコに付け込んでやりたい放題(笑)

で、コレが二足歩行蛙と出会った普通の人の反応だと思うんだ(苦笑)